忠犬……?
「よし、で、目的地は南の龍人の里と……ティナ、お前がいたのは南じゃないよな?」
「私達の城……城だった場所は浮島にある、どこにあってもおかしくはないし、こちらからは見つけられないだろうさ。結界で厳重に護られている」
「やはり本拠地だけあって、攻め込むのは難しいか……」
「そりゃそうだよね……簡単に攻められたらまずいもん。私でも分かるよ」
リーネも目を覚ました後、出発しようとした時に、仲間の墓を作ろうと言い、レインの魔法により墓石を作った後、そこに団長の遺品……と言っても、ゴーグルのような物しか残っていなかったが、それを墓にかけ、その場を後にした。
そして俺達は今、歩きながら目的地である南の龍の里……名前はまだ知らないが、そこを目指し歩いている。全く代わり映えのない風景に少し飽きて来ているが。
「なぁレイン、この辺の岩で馬のゴーレムとか作れねぇの?」
「作れるが、一頭が限度だ。それに脆い、転けるだけで崩れるぞ」
「ゴーレムも万能じゃないんだなぁ……」
少しでも速度を上げようと思ったが、そうも行かないようだ。世の中そんなに甘くない。でも前の不運体質は何とかなって欲しかったなぁ……
「いっそのこと白焔呼んでみるか……聞こえるか分からんけど」
「……すまん、そいつは4人も乗せることができるのか?」
「ティナ、その点は大丈夫だ。スッゴい成長速度なんだよ、下手したら8人乗れるぐらいになってるよきっと」
まぁ、そんなことはあり得ないだろうが。あれ以上となるとホントに狼か危うい。
そして俺は大きく息を吸い込み、叫んだ。
「白焔!! 聞こえたのなら来てくれぇ!!」
かなりの大声を出したつもりだ。これで届かなかったら……まぁ、歩くか飛んでいくしかないだろう。
……少し待ったが、来なかった。やはり声だけじゃ無理だったか。……分かってたけども。
そうこうしていると、地面が揺れているように感じた。地震の揺れ方とは全く違う揺れ方で、巨大な何かが走ってくる感じだ。
「おい、でかいぞ……!? なんだこれは……!」
「あー、聞こえてたか……よかったよかった……でもさぁ……あれはないだろう!? 一回りもでかくなってる気がすんだけど!?」
そう、走ってきたのは白焔だが……大きさが一回りほど大きくなっていた。本当に8人ぐらい乗れるようになっているとは……
「なんだあの狼は……!?」
「大きな狼さん……だけど大き過ぎると思うなぁ……」
「そう言ってやるなよ、仲間なんだからさ。白焔、こっちだよー!」
手を大きく振りながら更に呼び掛けると、更にスピードが上がる。それほどまでに心配かけてたんだろうか。
「……あれ、皆どこ行った?」
気づけば皆、姿を隠している。初対面の相手にやることじゃないだろ……狼とはいえ、仲間なんだから礼儀は大事なのにさ。
……これがいけなかった。周りを見渡すことで、白焔から目を離したことが。
「ん、なんか暗いな……!? 待て白焔、お前の大きさじゃ飛び付いてくるのは危なうおおおおおお!?」
飛び付いて来た白焔を咄嗟に避けたが、そのボディプレスで地面がひび割れる。直撃は避けたが、衝撃によって体が宙を舞った。
……死ぬってぇ……! ホントに死んだかと思った……! 死亡理由が仲間(忠犬)の飛び付きとか神様とかに笑われるわ! いや苦笑いしそうだけど!
「落ち着いてくれ白焔……皆は無事だったか?」
ボディプレスをかました状態で、大きく首を上下に振る。本当落ち着いてください、地面が更にひび割れてってるから!
「そうか……この先にいるんだな? 何故呼んだのかも分かっている筈だ……白焔、俺達を乗せてくれ」
その言葉に反応して、地面に皆が乗りやすいように伏せる白焔。まず俺が率先して乗るのだが……毛並みがフワッフワッ過ぎる……眠る……
「「寝るな馬鹿!?」」
「いってぇ!? はっ! 危ない危ない……眠るとこだった……」
レインとティナの手刀が俺の頭に落ち、眠気が吹き飛んだ。本当に助かった……危ない危ない。寝たら間違いなく振り落とされてたし。
「よし、皆乗ったな? 結構速いから気をつけろよ! 後、掴まってないとすぐ吹き飛ぶかもしれない! 白焔、走れ!」
すると、以前の乗った時よりも速く、風を切って草原を駆け出した。以前はスターダストを使えば追い付けるか?といった速度だったが、今回の速度は詠唱をつけてもどうか分からない速度だ。
……もちろん、風圧のことを忘れており、何の対策もしなかった俺達は、風圧により前が見えなくなったのはまた別の話。
「光牙……! 喜べ、これなら……っ! 一時間ほどで着く!」
嬉しい情報を聞けたが、うん……今は正直返事できないよ……取り敢えず、了解の意を込めて、頷いておく。
にしても一時間……幾らなんでも早すぎやしませんか……?
なんてことを考えながら、一時間ほど白焔の背での特急に乗り、漸く着いた。目的地、南の龍人の里に。