自分らしく。
「……終わった……」
周りを見渡して、周囲の惨状を確認する。木々は焼け、地表は抉れている。
これを自分がやったというのだから驚きだ。これが、魔物か人か判断がつかない、その理由に納得できる。
「たださぁ、少しばかり化け物染みた力とはいえ……それでそこまで嫌うことはないだろうよ……亜人族は人と認めてるのにさ。こういうのはどこでも同じかねぇ……」
夜空を見上げ、ふと思う。人の形の龍、その中でもひよっこの俺の怒りによる被害がこれ程ならば、あの巨体を持つ龍……暴虐の嵐のもたらす被害はどれほどになるのだろう。
……恐らく、国一つなんて程度では済まないだろう。
そうなると、龍人ではない、完全な龍種だと考えていたが、禁忌……というものがあるのかわからないが。その類いか……?
「……分からねぇ……取り敢えず、戻るか。分からないことウジウジ悩んでも仕方ないしな……」
俺は、その惨状をそのままに、レイン達がいる場所に戻っていった。
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「……終わったか……」
「あぁ……リーネは?」
「まだ起きていない、打ち所が悪かったんだろう。……疲労もあるが」
「そっか……」
レイン達の元に戻った俺は、レインの「……お前、火の後始末はしたか……?」という一言で火をつけっぱなしにしたことを話したら……
「やっぱお前馬鹿だろ!? どこの世界に火をつけっぱなしにするやつがいるよ!?」
というお言葉を頂き、焦って火を消火しに向かい、今に至る。……本当、何してんだろ……火をつけっぱなしにするとは……
「……ついでにお前の炎で遺体を焼いたよ。盗賊のやつらも、仲間のも」
「……悪い、後始末させた」
「あまり関係がなかったお前がやるのも変な話だろ? これでいいんだよ、これで」
……とは言っているが、顔が強ばっている。その上、何かを我慢しているように見える。
「取り敢えず、腹を割って話そう。……レインは俺が怖いか……?」
「いや全く。寧ろ馬鹿だと思ってる」
「……ひでぇな」
しかし、ここで疑問が。最初の方の戦い方は見られていた筈だ、なら恐怖を覚えても仕方ないと思う戦い方をしていた筈……
なら、何故こうしていられるんだろうか……
「……何故って顔してるぞ? 教えておくよ。お前はお前だろ? どこまで言っても馬鹿で、脳筋なうちは全然怖くない。恐怖なんて感じない……と言ったら嘘になるけどな。正直ビビったよ、俺も」
「……俺は、今ものすごく怖いよ。誰か巻き込んで大怪我負わせちまいそうで。……俺さ、あまり交遊関係広くないんだ。だからこうやって得た繋がりがどんなものであれ、とてもいいものに感じるんだ。それが目の前であぁやって……」
「……割りきれ、なんて簡単に言ってしまうのは簡単だな。うーむ……俺が思うに、難しく考えすぎじゃないか?」
レインが、俺の頭を少し強めに小突く。……難しく……?
「難しく考えすぎって、どういうことだよ?」
「少しは肩の力抜けって。いいか? お前は脳筋だ、だったら難しいこと考えるには向いてない。違うか?」
「違わないけどよぉ……言い方酷くないか……?」
結構心にくるものがあるんだぞその言い方ぁ……! それ遠回しに馬鹿って言ってるもんだろうが……!
「脳き……馬鹿にも分かるようにも言ってるんだろうが、少しの心的ダメージは無視しろ」
「おいコラ何故そこで言い換えた」
「はい次行くぞー、一つ、お前は寧ろ、何も考えないで思ったようにやった方がいいだろう。だからお前はさっき叫んでただろ? 知り合いがどうのこうのって。だったらお前は、何があってもそれを貫き通せばいい。ただそれだけの事だろう? 何ウダウダ考えてんだ本当」
……あぁ、確かにその通りだ。脳筋なら脳筋らしく無駄に考えず、自分がこうだと決めた道を行けばいい。なーにウダウダしてたんだか、俺らしくもない。やってみて駄目だったら何か考えろ、だったろ……
あぁ、なんか笑えてきた。こんなにウジウジしてたのが馬鹿みたいだ。
「よし、馬鹿にも伝わったようで何よりだ」
「本当ひっでぇ……でもありがとな。なんか吹っ切れた」
「ならよかった。お前の目的地、ここから馬車があれば1日だったんだが……あの通りじゃな。恐らくここからだと3日はかかるだろう」
「3日かぁ……マジか……でもそこまで来てるんだな」
もう少ししたら、皆とまた会える。そう考えると、嬉しくて仕方がなかった。あ、そういえば……
「なぁ、レイン……ふと思ったけどさ……」
「なんだ?」
「あの黒の龍人、どうする……?」
「あぁ……そうだな……知らん。連れて行くなら連れて行くが、任せる」
……一番面倒な物任せやがったこいつぅ……!! まぁでも、逃がしたらいつ襲われるか分からねぇし……連れていこうか、色々と聞きたいこともあるし。
「連れて行くよ、こいつ一人なら何と……か……」
なんだ……? 急に視界がグニャリと……ヤバい、立ってられない……
地面に膝をつき、地面に倒れることがないように片腕で支える。
「あぁ……疲労だろう。ゆっくり休んでおくといい、流石に飛ばしすぎたんだろう……おやすみ」
「あぁ……おやすみ……」
俺はその言葉をやっとのことで捻り出すと、重くなってくる目蓋に抗わず、ゆっくりと眠りについた。