戦闘終了……?
「あっ……ぶなぁ! あんなこと言っといて結局……殺そうとしてない……臆病というかなんというか……」
結局、そのまま振り下ろしていれば止めをさせていた一撃は当たるギリギリの所で軌道を変え、切っ先が掠め、左腕から少し血が出る程度のダメージとなった。
……が、思い切り振り下ろしていた為に、隻腕とはいえ本気の龍人の膂力が地面に向けられ、叩きつけた際の衝撃波で黒の龍人を木々をへし折りながら吹き飛ばし、そのまま気を失い、勝利をもぎ取ったというのが事の顛末だ。
「……まぁ、相手も俺も無傷じゃないし相子で……いや、こっちの方が少し傷深いな……いてて……」
……それにしても、こいつはどう考えても俺を狙ってきた。《あの方》とやらの指示のようだけど、盗賊にしてもキャラバンの人達にしても、邪魔だったから殺した。そんな感じがする。
「つまり、だ。分かったことは2つ……こいつはいい情報源になるということと、俺が誰かと一緒にいたら巻き込んでしまう、ということか……」
追っ手が、こいつ一人なんてことはないだろう。……その事をレインとリーネ、団長と話し合ないと……
「うっ……なんだこれは……」
「レイン。起きたみたいだな。何とか倒せた」
「なるほど……相手は龍人か……おい、左腕!? 何があった!? 治せるのか!?」
あ、しまった。そうだったな……自分で覚えた回復魔法じゃあまり効果がなさそうだし……やることがなかった時にそういった本を読んでいたのは正解だった。これからは自分でも回復できる。
「魔力を暴走させて爆発起こしたんだ。そしたら吹き飛んじまった」
「大馬鹿者かお前は……!! そういうのは魔導義手の使い手がすることだ! 鉱石で作った腕に魔力を流し、硬度を上げたり属性を与えたり……最悪爆発させる! 生身でやったら吹き飛ぶに決まってるだろ!」
……すまん、俺そういう常識知らなかったんだ……
「全く……こうなっては義手にするしかないな。それにしても……犠牲が多すぎたな」
「……あぁ……安らかに眠ってください……」
……さて、団長達は無事だろうか……リーネは長い棍棒を使い戦うようだけど、団長は……ただの行商人らしい。
「嫌な予感がする……急ごう、レイン!」
「お前の予感って当たるのか?」
俺とレインは、黒の龍人を木に縛りつけてから、団長達の所に向かった。
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「……嘘だろ……!?」
戻ってきた俺たちの目に飛び込んできたのは、倒れているリーネと、何かに群がっている魔物達の群れだった。
「レイン、リーネは生きてるか!」
「あぁ、どうやら突き飛ばされてダメージを負ったみたいだ……」
……にしても、あいつら何に群がっているんだ? 魔物があそこまで群がるとなると……捕食……そうだ、捕食だ!
「……なぁ、レイン……団長は? あの人どこ行ったんだ……」
掠れた声が、口から出てくる。そんな事が起こる筈がない……あってはならない……そんな言葉で頭の中が一杯になる。
「……恐らく、お前と俺の考えであってるだろう……畜生……!! 最悪だ……!」
リーネを抱えながら、自身の足を殴りつけるレイン。
そして、引っ掛かったのかうばいあったのか知らないが魔物の群れの中から、人の血塗れの片腕が目の前に落ちてきた。その腕に小型の魔物が群がり、肉を貪る。
「うっ……うぉえぇぇ……」
ダメだ、あまりに凄惨な光景と酷い血の臭いのせいで胃から酸っぱいものが逆流して……吐くなと思っても、一度吐いたら止まらない……レインも目を背けている。やはり辛いのだろう、こんな光景は……
すると、突然一匹の魔物に皹が入り、その魔物の以前の肉体を食い破るようにして、強化された熊型の魔物が姿を現した。その魔物は近くにいた魔物を喰らいながら、こちらに近付いて来る。
次はお前だと、目が語っている。
目があった途端、とてつもない恐怖に襲われたが、一瞬のうちに真逆の感情……怒りに変わった。
「……ふざけんな……!! てめえだけが捕食者だなんて思うんじゃねぇぞ……!! 食物連鎖ってのがあんだよ、世の中には!!」
団長を喰らった者を殺そうと、剣を抜き走り出した。