覚悟。
「ぐふっ……!! バカなのかこいつ……! こんな至近距離で爆破するなど、基本はしないぞ! やるとしては自分の命が惜しくないと思っている者だ!」
濛々とした爆風から、女性が現れる。流石に至近距離での爆発には耐えきれなかったか、頭から酷く流血しており、腕は焼き焦げている箇所が多々ある。
そのままゆっくりと離れようとするが、もう一人が爆風の中から飛び出し後ろから脚部を短剣で切り裂き、膝をついた所を回し蹴りで蹴り飛ばす。
「ぐぅ……!! バカな!? 何故その怪我で立てる!」
「うるっせぇんだよ、左腕が吹き飛んだだけだろうが。こんなことで生きることを諦められるか……!!」
光牙の怪我も負けず劣らず酷く、左腕の二の腕から下は吹き飛び、炎に焼かれ出血は止まっているものの、既に受けていたダメージが蓄積され、少しでも攻撃を受ければ倒れるほどの負傷をしている。
「……この……未熟者の癖に……!!」
「未熟だからこそ無茶苦茶してでもてめぇに食いついてんだろうが。こんなん、中々しねぇっての!!」
「……今、はっきり分かった……貴様は危険だ……命令などどうでもいい、ここで始末しなければ……!!」
「口を開けば始末始末って……物騒なやつだな……!! いいよ、さっきので覚悟もできた……きっちりと……殺し合おう」
互いに拳を構え、相手に向かい駆け出した。その少し後に、二発ほど殴打の音が響く。
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「ぐっ……!! やっぱりパワーはてめぇの方が上か……!」
「殺す……!! 確実に……!! 母なる大地よ、我が敵に鉄槌を!!《ガイア・ブレイカー!!》」
「あぶねぇ!! その威力は洒落にならねぇ……」
母なる大地砕いちゃうのぉ!? なんて突っ込める筈もなく、後ろに飛ぶことで回避。……にしても詠唱、か。
「どうした! さては我が魔法の前に怖じ気づいたか!」
いやそんなことはないから安心しろ。……もしかすると詠唱すれば威力が上がるのか? あんな威力、今まで出せたことがなかった。じゃあ腕を構えてと。
「試してみるか……紅蓮の龍よ、今ここに顕現せよ。荒ぶるままに、我等が敵を焼き尽くせ……《フィアンマ・ワイバーン》」
……あれ? なんか思い付くまま適当に述べてたけど、なんか出来たぞ? 炎の翼龍が。それで命令を待っているみたいだ……よし。
「……やれ」
炎の翼龍が、翼を広げ黒の龍人に襲いかかる。俺はそれに合わせ、攻撃を加えていく。
「小癪な……!! 回避した先に……!」
「頭使わなきゃ勝てないんだよ、これぐらい……許してくれないかな」
その言葉と同時に、炎を纏った拳を叩きつける。硬い……腕の方が痺れた……そういや、さっきの法則は肉体強化にも適用されるのだろうか……やってみるか。
「流星よ、我が体に宿れ……《スターダスト》」
すると、体が以前には比べ物にならないほどの光のオーラに包まれ、力が溢れてきた。それに、何故か体の怪我が少し回復しているようだ。
「よし、何故か知らんがマシになった。これなら……」
そこで俺は、炎の翼龍を相手しているやつの方を向く。すると、丁度倒されたようで、断末魔を上げながら消えていく。
こちらの視線に気づいたのか、こちらを向いた、その瞬間、俺の口角が吊り上がるのを感じ、無意識に口を開いていた。
「てめぇを殺せるな」
「嘗めるなぁぁぁぁぁ!!」
フードが外れ、皮膚に多くの火傷を負った名も知らぬ女が剣を抜き、襲いかかる。それを見た俺は紅蓮を抜き放ち、その剣を受けた。
「殺してやる……!!殺してやる殺してやる殺してやる……!!」
「……あんたも、十分なほど未熟に入ると思うけどな。それにうるせぇ」
名前を聞いておこうと思ったが、多分この様子じゃ聞こえちゃいないだろう。話が通じない相手に話をする事ほど無駄なことはないし、俺も馬鹿じゃない。
そう思いながら、俺は相手の顎を蹴りあげた。蹴りあげられた相手の裏に回り、再度蹴りを入れる。これも、詠唱を入れたスターダストの効果があってこそだろう。
「貴様だけはぁ……!!」
蹴り飛ばした相手が剣を杖変わりにし、立ち上がろうとしているのを見た。……うーん……どうしようかな……
あんなこと言ったけど、結局俺は多分この人を殺すことは出来ないだろう。最悪剣士としては死んでもらうかもしれないが、龍人では剣がなくてもそこまで変化はないだろうし。……できるだけ挑発しながら、戦おう。
「……なぁあんた、もうよくない? もうあんたに負ける気なんてしないんだけど」
「ふざけるな! 私達に負けは許されないのだ! 例え、それがどんな相手だろうと!!」
……へぇ……負けは許されない、ねぇ……
「暴虐の嵐でもか? あんなの一人じゃ相手できねぇよ、国何個も滅ぼしたやつなんだろ? それに倒した相手を喰らうことによって更に強くなる……こんなのが相手でもか……?」
「……あぁそうだ!! 一人でダメなら……」
「沢山でってか? ふざけんな、他人を集団自殺に巻き込めないでくれませんかねぇ……」
はぁ……もう、終わりにしようかな。話してるうちにイライラしそうだ。何が起こるか分からないし……
「殺すなら殺せ! 死など怖くない!」
「そうかよ、なら……先に逝ってろ、いつか俺もそっちに行く」
夜空に、鮮血が宙を舞った。