強者。
レインはガントレットを、俺は剣を振りかぶり襲いかかった……が、よく分からないことが起きた。目の前の敵が、何の前触れもなく急に消えたのだ。
「なっ……!?」
「消えた……!? あり得ない、ここまで近付いてるんだぞ!? 転移魔法等はあるが、この距離では発動する前に……」
「お前達の攻撃が当たるな。しかし、転移等ではないんだ」
声のした方向に俺は攻撃を繰り出そうとしたが、頭を掴まれ地面に叩きつけられた。
「ぐうっ……!!」
「こいつ……!! 喰らえ!」
痛みに耐えながら、尻尾を振り回し攻撃するも、後方に飛び退くことで避けられた。レインの方を向くと気を失っている。どんな力してんだよ……!?
しかし身軽な動きするなあいつ。……全身覆うマントに夜の暗さも相まって性別すら分からない。
「……お前はなんだ? 人か?」
「いきなりなんだとは酷い言い種だな。見て分からんか?」
「人の形してても、魔物かも知れねぇだろうが。人狼や吸血鬼とかいるしな」
……自分の発言で、ここにはいない仲間のことを思い出した。今何してるんだろうかとか、少し……寂しく感じた。
こうした感情は……一体いつ頃に感じなくなった……?前は寂しいなんて感じたか?感じなかった筈……とりあえず、今は置いておこう。
「……ふむ……まだまだ未熟だな。心構えもそうだが、自身がどうなりたいかというものが決まっていない」
「……俺は大切な物を守りたいだけだ。それの何が悪い」
「悪いとは言っていない。が、その為にはどうする。何が必要になる? 力か? それともお前の自慢の速度か?」
こいつ……なんでそれを知ってやがる……
「……すぐに答えは出ない、か。落第だ。あの方に連れて行くつもりだったが、不必要とみた。ここで……始末する」
その言葉が聞こえた瞬間、目の前の奴の体がブレ、消えたと思ったら俺の目の前に現れ、腹を鈍い痛みが襲い、地面に膝をつく。
「ぐうっ……!! 高速移動か……? にしては速すぎる!」
「ほら、立つといい。ここで終わるのだ、少しは楽しませてくれよ」
「嘗めんな……!」
膝をついた状態で、無銘の刀を逆袈裟斬りに振るう。しかし、その刃は相手の腕によって止められてしまった。
「何だと……!?」
握られている刃を引こうとするが、びくともしない。それどころか、刃に皹が入って来ている。
「やはり、この程度か……お前に、相手を斬る度胸はないのだろう? 邪魔する物は斬る、など言っておきながら、実戦ではこれだ……敵を斬る覚悟がないならば、剣など持つな!!」
「ちっ……クソッ!?」
その怒声とともに、フードの奥の金色の目が輝く。それと同時に刃が砕け、地面に散らばる。俺はその柄を投げつけ、時間を稼ごうとするが既に腹に鈍い一撃が加えられた後だった。膝を退けられると、無様に地面に倒れ込んだ。
「……もう終わりでいいのか?なら殺すが」
「……ぐっ……体がたった二発で……動かねぇ……」
なんなんだこいつは……!? 人にはこんな速度を出すことや、破壊力を出すことなんて出来ない筈……それになぜ剣が通らなかった……?
「なぜ剣が通らなかったか、それを知りたそうな顔をしているな」
「……あぁ、是非教えて貰いたいね。お前が人かどうか……もっ!!」
不意をつき、鉤爪による一撃を繰り出し、今度は肉を裂いたらしく、血と何かが鉤爪に付着した。
「結構効いたろ今度は……!!」
「ほう……我が鱗を砕くか……不意をつかれたとはいえ、油断したか」
鱗……鉤爪を見ると、ほんの少しだが、黒い鱗がついている。つまり、目の前にいるやつは……
「龍人……!!」
「その中でも高いポテンシャルを持つのが黒龍。私達だ。……お前は紅龍か。成長率だけなら見所があるな」
「剣より鉤爪の方が通るんだろ……! それだけ分かればこっちの物だ……!」
「……嘗めるな、未熟者がぁ……!!」
互いに相手を見据え、走り出す。炎を意識せずに拳に集め、振り抜いた。目の前のやつはそれを片手で受け止める。……ここまで差があるなんて。なら……
「あーあ、止めちまったな?」
「……何だと? この程度の拳で何を……!? 貴様何をしている!?」
「ただ限界以上に魔力を集めてるだけだ、最も……この魔力量じゃ、俺もお前もただじゃ済まねぇだろうなぁ!!」
俺がそう叫ぶと同時に、拳に集めた魔力が暴走を起こし、大爆発を起こした。