決闘。
……で、今は開けた土地でレインと相対している。準備が早いと言うかなんと言うか。団長は俺達の返答を聞くや否や、
「よし、なら始めるぞい! 準備?そんなもん即答すると思って済ませてあるわい!」
……とのことだった。行動力早いよ団長……
「……情報を集める暇もなかったな……」
「あ?何?情報ないと勝てないって?」
「……確実に勝つには情報が必要だろう」
「……ふぅん、なんも考えずに殴れば楽だと思うけどな」
……絶対こいつとは気が合わない、再度確認した。何も考えずにやる方が気楽だってのに……
まぁいいか、とりあえずは目の前のあいつに集中しなければ。
「……やるからには、全力でやるからな、レイン」
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「漸く来たな、怖くなったか?」
「うるせぇよ、待たせたのは悪いと思ってるけど意思を固めてただけだ。あんたをぶん殴るってな」
売り言葉に買い言葉。それが互いに闘志を燃え上がらせる。こいつには負けたくないと。
「……行くぞ、レイン」
「来いよ、馬鹿龍人」
「言われなくても……ぶっ!?」
レインの声を聞いた途端、足に魔力を回し筋力を強化し、音を置き去りにして駆け出した途端、何か硬い物に衝突した。
「痛ってぇ!なんだこれ、岩?」
「言ったろ、俺はゴーレム作るのが得意だって。だからこういうのもできるんだ……よっ!」
レインが足を地面に叩きつけると、岩が剣のように突き出て来た。が、こんな速度なら見慣れている。どれだけあの森で速度が早い魔物どもとやりあったか。
「この程度……!オラッ!」
蹴りで岩を砕き、そのまま手の平から火球を放つ。火球は容易く避けられるが、地面に着弾した途端に爆発し、レインの視界を覆った。
(なるほど、少しは頭が回るようだ。馬鹿ではなく……)
爆風の中を、拳を構え真っ直ぐに突っ切ってくる俺とレインは向かい合う。腕には岩が纏われ、ガントレットのようになっていた。
「脳筋だな、お前も! リーネと同じだ!」
カウンター気味に、腹部に渾身の一撃が刺さり、俺を大きく吹き飛ばす。
「脳筋じゃ俺には勝てないぞ。頭を使え、頭を。ああ、無r──」
「うるせぇ!」
すぐに復帰し、飛び蹴りを腹に入れる。そのまま顔を掴み、地面に叩きつける。
「はっ、お返ししてやったぞ。利子つけてだけどな」
「……本気で行くぞ」
「最初から本気で来た方がよかったんじゃないの?」
俺は龍化し、レインは岩を浮かせ、自分にも岩での鎧を作り、纏う。そして一瞬の睨み合いの後、二人とも同時に駆け出し、ガッチリと組み合った。
「力じゃ俺には勝てないだろう!」
「堅さじゃお前には負けないっての!」
その言葉が示す通り、レインは力では俺に勝てず、俺はレインの堅さに勝てない。どちらかと言えば、俺は速度で足りない分を補う為、一撃は他の龍人と比べると低めだ。ならばどうするか?
「嘗めんな、破れないわけじゃねぇっての!! 少しばかり手間かかるだけだ!」
答えは簡単、手数を増やすだけだ。同じ場所に炎を纏った回し蹴りや拳を何度も叩きつける。時折、小さな炎が表面で起きている。先程から、炎を対象に蓄積させる、という魔法を使用している。そしてその炎は……
「こいつで……どうだ!! 《チャージ・フレア》!!」
炎を使わない、衝撃で起爆する!!
しかし、拳で起爆する、というのはこれから控えよう。爆発が起こると言うことは、起爆点が拳との接着点ということだ。つまり……
互いに吹き飛ぶ。俺の利き腕は焼けながら、レインの鎧は砕けながら地面を転がった。
「ぐうっ……!! 炎のダメージは軽減されるとはいえ、きつい……!! ぶっつけ本番、なんてやるもんじゃねぇな……」
「脳筋馬鹿かよお前は……!!体が動かないぞ……」
お、ということは……?俺の勝ち?でいいよね。
「はっはー、脳みそ空にした方が楽なんじゃ……あ?」
あ、ヤバい。疲労が……魔力を貯めるってことは……その分……魔力が足りねぇ……
そこで俺は、魔力が枯渇し気絶してしまい、両者引き分けという、あまり面白くない結末になってしまった。
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赤い空が広がる、荒れ果てた大地。
その大地に屹立する、禍々しい城。その光景は、まさに世界が終わり、その世界に君臨する魔王が住む居城のようだった。
「……この龍人……」
その城のある部屋にて、何者かが水晶玉のような物を使い、光牙をじっと見ている。その白き翼と、強靭な黒い尾が自身を龍人であると主張している。
暫くすると、醜悪にその顔を歪め、椅子から素早く立ち上がると大きく言い放った。
「皆の物、聞いているか!! 誰かこいつをここに連れて来い! 手段は問わぬ、生きていればよい!」
その声を聞いた途端、その場にいた者全てが翼を広げ、巨大な扉が開くと赤き空へと飛び立ち、示し合わせたかのように各方向に散っていく。
「……この者には興味が湧いた……力を全く制御しきれてはおらんが、そこは目を瞑ろう……あぁ、この者の炎……必ず我が手に……!!」