自分らしくあるために。
(くっそ……どうすりゃいい、武器はあいつの近くだ、取りに向かえばあの豪腕の餌食になる、かといってこのままだと……)
思考を止めないようにしながら、相手をじっと見据えていると、向こうからその巨体を段々と加速させながら迫らせて来た。
「まずい……! あぁくそ、足止め位にはなってくれよ!《フラッシュ》!!」
「グゥッ…!?」
自分の掌を相手に向け、光を発生させる、いわば完全な目眩まし目的のための魔法を使い、距離を取る。この暗い森だ、奴らは強い光に慣れていないだろう。そして、充分な距離を取ったなら……
「遠慮なくぶっぱなせるって訳だ……!!喰らえ、《フレイム・バレット》!!」
右の掌を相手に向け、何度も火球を放つ。少しでも多く、ダメージになるように乱射していくも、コボルトがその顎を開きながら飛びかかってきた。
「嘘やん、迷いなく……そうだった鼻も効くよなぁ!」
「グルァァァァァ!!」
更に距離を取ろうと回避を試みるが、速度が早く、右腕に牙が食い込み、血が吹き出る。
「ぐぅっ……!! このっ、離せ!」
滅茶苦茶に鼻柱を殴りつけるが、効果は薄く、そのまま引き摺り回される。何度か岩にも叩きつけられもした。最後に勢いよく持ち上げられ、地面に叩きつけられる。
「ごふっ……!!やっば、《フラッ…」
「グルアァァァァァァァ!!」
もう一度、閃光による目眩ましを行おうとしたが、その気配を察したのか腕を抑えられ、背中から生えて来た豪腕に何度も殴られ、意識が朦朧として始める。
(くっそ……死ぬ……このままじゃ、死ぬ……だけどどうすればいい? もう出来るだけのことはした……)
……いや、本当にそうだろうか。俺は今、人と龍、違う種族の間に位置する種族だ。動くにしても、どうしても人の動きを主にしてしまう。
……それでは、足りないんだ。龍でもない、人でもない。そんな自分達だからできる戦法を取らなければ……!!
「グッ……!!ガァァ……!!」
獣のような声を上げ、腕を持ち上げる。……そうだ。自分は自分だ。人ではないとしても、そこに何の違いはない。
「ここで死ぬ訳には……いかねぇんだよぉぉ!!」
「グアッ…!?」
無理矢理、腕の拘束を振り払い、顔に炎を纏った一撃を入れ、怯んだ所に尻尾を用いた横凪ぎの一撃を加える。
「……《フレイム・ウイップ》」
炎でできた鞭を振るい、コボルトが持っていた剣と、紅蓮を回収する。その後に数回、炎の鞭で叩き、鞭を消す。
「二刀流なんてやったことないけど……まぁ、行けるだろう。……さっきまでぼこぼこにしてくれた分、返さねぇとなぁ……」
「……グルァァァァァ!!」
紅蓮を右手に持ち、無銘の刀を肩に担ぐように構えると、コボルトがその豪腕を振るって来るが、その攻撃を二振りの刀で受け、その豪腕を無銘の刀で地面に縫い止める。深く突き刺したから、暫く抜けることはないだろう。
「さぁて……やられた分、きっちり返してもらうとするかね……!!」
その言葉と同時に、腕の骨を踏み砕いた。
「グギャアァァァァァ!?」
「うるさい、なっ!!」
顔面をサッカーボールを蹴るように蹴り飛ばす。……こうなってしまえば、本当にやかましいだけの、ただの犬頭なんだけどな……
「まぁいいや、じゃ……焼きますかね」
炎を自身の鉤爪に纏わせ、爪を突き刺し中から焼いていく。
……森に、哀れな獣の叫びが木霊した。