劣勢。
「くっそ…!!」
剣を地面に叩きつけ、土煙を舞わせることで相手の視界を奪う。その隙をつき、岩の影に転がり込んだ。
コボルト…分かりやすくそう言っているけれど、正直本当にコボルトかどうかも危うい。魔物の正確な知識をまだ得られていない……攻略といっても、力任せに攻めることしかできない。今までなら、機動力を活かした戦法も出来たけれど……怪我した足じゃなぁ……
……この世界では、前の世界の常識も通じない……ないことだらけだ。
(正直……こんなの柄じゃないだろ……俺。攻略方法確率させてから挑む……それが一番楽だったろうが……! 何カッコつけてんだ!)
でも、今はそんなことを考えている場合ではない。武器を持った魔物が二体、俺を殺そうとしている。……正直、逃げても何も言われないだろう。俺は悪くない。ならもう逃げてしまおうか……そんなことを考えながら、俺は目を閉じようとして……
──背凭れ代わりにしていた岩が、吹き飛んだ。
「くっそ、マジかおい……!」
地面を転がりながら、状況を再確認した。逃げることも許されない。先程のないないずくしに一つ追加。奴らの目が血走ってる。正直怖い。狂犬病みたいだ。
「……グルァァァァァ!!」
「うるさっ!?ちょっと待ってまだ上がんの…!?」
慌てて武器を構えると、赤いコボルトが行動に出た。こちらに向かって来ると思い、迎撃の態勢を取る。あの威力だ、受けたら足の怪我も相まって容易く吹き飛ばされるな……
……なんてことを考えていると、自分の顔に液体が飛んできた。
──とても、どす黒い血だった。
「なんで血が……まさか他に……」
正面を向いた俺は絶句してしまった。正面、つまり二体のコボルトがいたのだが、赤いコボルトが青のコボルトを補食していた。つまり飛んできた血は、あのコボルトの物だと言うことを理解した。
その上、赤コボルトの体表面が黒く染まっていき、筋骨隆々に変化していく。腕部には変化する以前の表面の色である赤い毛が生えてくる。
「……仲間を食って強化……暴食だねぇ、そんなことにならないようにしないと」
地面を強く蹴り、剣を大きく振りかぶり、振り下ろす。しかし、振り下ろした場所に既におらず、空を斬るだけとなった。
「くっそ!どこに─」
かなり巨大化した拳が、腹部に突き刺さり、衝撃で息が詰まる。その一撃で、思考が固まり、手から剣が滑り落ちてしまう。
それを感じ取ったのか、コボルトは醜悪にその顔を歪め、猛烈な勢いで両腕を何度も俺に叩きつける。端から見たら、拳の嵐を受けてるように見えるだろう。最後に鳩尾に拳を入れられ、吹き飛ばされた。
「畜生……!!……状況悪化しやがった……」