目覚めた場所は。
…額に、冷たい何かが落ちる。
「…う、あ…?」
自分で言ってはなんだが、よく生きていたなと思う。…炎に耐性があったのと、龍人特有の回復の速さ…この2つがなかったら流石に今度こそあの世行きだった。
「…まぁ、あんな化け物相手に殿をやったらそうなるか…でも川に落ちたよな?何で止まって─」
周りを見渡すと、三角形の背鰭が後ろにあった。
当然、恐怖に包まれ、焦り逃げ出した。正直、今は勝てる気がしない。
(…ヤバい、これはヤバい!海じゃないから危険な生物はそこまでいないとか考えてた!異世界なんだぞ、何があってもおかしくないだろうが!今までの常識なんて通用しないってのに!ちくしょう!)
背鰭を持つ生き物は、真っ直ぐこちらを追ってくる。圧倒的に向こうの方が速度が早い。追い付かれる…!
(ヤバいヤバいヤバい…!逃げ切れる訳がないだろう、傷ついた体で!)
何度も足で水を蹴り、なんとか陸地には着いたものの、結局のところ事態は好転していない。剣を抜き、片手で構え、敵が顔を出すのを待つ。
「来るなら来い…!相手になってやる!」
しかし、背鰭だと思っていた物は草のついた流木だった。それを確認し、脱力する。
「…ばっかみてぇ、ちゃんと確認してなかった…しかも、どれだけ遅いんだ僕のバタ足…流れる木より遅いって…ちょっとショック…」
そう言いながら、地面に腰を下ろした。
…後ろの気配に、気づかずに。
「グオォォォォォ!」
「熊っ!?ガハッ!?」
反応が遅れ、重い一撃が入る。下からのすくい上げるような攻撃で体が宙を舞う。
「くそッ、ん?何だあの角…?」
その熊には紫の雷を纏う角が生えていた。その角が発光すると、その角から雷が飛ばされた。
「何!?がぁぁぁぁ!!」
雷をまともに受け、膝をついてしまう。体からは煙が上がり、かなりの高温だということが分かった。体が痺れ、立ち上がる事が出来ない。万事休すだ。雷熊はその腕を振り上げ降り下ろし…
…衝撃が来る事は、ついぞなかった。どうやら、寸前で止められたらしい。
「な…にが…?」
目の前には、どす黒い毛皮をした魔物がいた。雷熊はそいつを見て、酷く怯えている。ここら一帯の主なのだろう。今目の前にいる熊が小さく見える大きさだ。今挑んでも勝ち目はない…
そう思考を巡らせていると、雷熊の頭を片手で掴み、持ち上げた。雷熊はその腕に自分の豪腕を叩きつけるが、離すどころか、さらに雷熊の頭を締め上げていき、遂にはその頭を押し潰した。叩いていた腕がダランと垂れ下がると、主はその死体を無造作に放り投げた。
「まずい…やられる…!」
痺れは取れてきたが、体は最悪のコンディション、相手は格上。…勝ち目はない。そんな事を考えてると、その熊は自分の身を翻し、木々が生い茂る森に消えていった…
「獲物とすら、見られてねぇ…とりあえず、寝て回復させるか…」
早く仲間と合流する。その為には、この森を抜ける必要がある。なら、少しでも万全にしようと僕は目を閉じ、眠りについた。