暴虐の嵐
剣を突き刺した三つ首の龍が激しく頭を振るい、僕は耐えきれずに振り落とされる。剣も眉間から抜け、かなり遠方に突き刺さっているのが目に入った。
「やっぱ、効いてないか…!目潰しはよかったかもしれないけど」
その言葉の途中に、鉤爪が振り下ろされる。それを体をひねり避けるが、少し掠り服を裂いていく。
「他にも頭があるんだから、無意味か!」
鉤爪をなんとか避けたが、その一撃が大地に到達すると、その威力によって地面に大きくクレーターが出来る。しかも先程から分かる通り、自分を敵として見るのではなく、狩る対象としかみていない一撃でこれだ。本気の一撃などまともに受けたら、いかに強靭な体になったとはいえ、無惨な肉塊になってしまうだろう。
「隙を見つけて、ダメージを与えるしかないな…」
その前に、自身の武装を回収しなくては。最悪な事に、あの三つ首の龍の意識から外れ、後ろにある剣を回収しなければならない。
そう考えていると、驚くべき事に、龍はその剣を一瞥し、その剣までの道を開けた。龍はこちらを見ると、拾えとその目が語っていた。
「その剣がなければ相手にもならない…みたいな感じだな…」
しかし回収させてもらえるのは素直にありがたいので、回収させてもらうことにした。
ゆっくりと剣まで進み、柄に手をかける。剣を手に取った瞬間、あいつは僕に襲いかかるだろう。そう考えると、柄にかけた手が震えた。怖い。今まで感じた恐怖など、あいつの前には霞んでいく。ただここで退いてしまったら…そう考えると、逃げる訳には行かない。そう自分を鼓舞し、震えを無理矢理に抑え、剣を引き抜く。
瞬間、豪腕が横凪ぎに振るわれ、地面を砕きながら迫ってきた。
「回避一択!あんなの受けたら死ぬ!」
跳躍して回避するが、直ぐ様尾による追撃が入り、僕の鱗を砕きながら地面に叩きつける。
「ぐっ…防御抜かれた…!まずい!通常攻撃でこれかよ!」
受けた左腕はもはや使い物にならず、だらんと垂れ下がるだけになってしまった。剣での攻撃も、あまり効果は見込めないだろう。
…だが、諦める事はしない。仲間の為に、少しでも時間を稼がねば。
震える足を叩き、力を込めて立ち上がる。
「…龍化…」
今までより力強い翼と尻尾を生やし、高速で突撃しながら剣を振るうが、その体表に傷をつけるのが精一杯だった。
「硬い!これ普通にラスボスだろ!?」
しかし、
「…グォォォォォォ!!」
傷をつけられた事がトリガーとなったか、咆哮し、さらにその豪腕を滅茶苦茶に振るわせる。
こちらも高速移動で対抗するが、時折地面を抉り飛んで来る石礫に被弾し、墜落する。
「ぐっ…本当に、無茶苦茶だ!流石にここまでとは思ってなかったぞ!」
足に力を込めるが、そこに大きく振るわれた豪腕が僕を強かに打ち据え、地面を跳ねながら吹き飛ばされる。
吹き飛んだ場所に先回りされ、さらに豪腕による一撃により僕を地面に叩きつけ、地面をひび割れさせる。…骨が何本かイカれたようだ。左腕は骨が飛び出てるし、右側は真っ赤で何も見えない。
…そろそろ大丈夫だろう。
「…へっ、今度はぶっ倒してやるよ!」
地面を砕き、土煙に乗じて空を飛んで逃げた。逃げ切った!…逃げ切れたと、思っていた。
「…生き残れたか…よかった…ガッ!?」
相手も龍であると言うことは、ブレスという最大の遠距離攻撃手段があることを忘れていた。物理攻撃、遠距離をしてきたとしても石礫だけだったので勝手に除外してしまっていたのだろう。
三つ首の龍のブレスは非常に圧縮され、最早レーザーの一種になっていた。そのレーザーが僕の左脇腹を貫き、鮮血が宙に舞った側から蒸発するほどの熱を持っていた。そのダメージで翼も尻尾も消え、このままでは勢いよく近くにある川に落ちるだろう。川はかなりの急流、助かるかどうかは…
「くっそ…ごめ…ん、なさい…ここまでです…」
僕の意識は、水の中に落ちると同時に、闇の中に消えた。