閃
「倒すって? おいおい、お前の剣じゃ俺を捉えられないだろ。まだステゴロの方が勝ち目あるぞ」
「だろうねぇ。でも、今はこれでいいんだよ。こうでもしないとすぐに武器捨てて殴りに行っちゃうし。それに……鍛えないとね、自分を。素振りだけじゃどうにも……」
そこまで言ったところで、ジェイの姿がブレる。もう話すつもりはない、ということだろう。
気を引き締め直した所で、ジェイの回し蹴りが側頭部に向かってくる。
それに合わせるように、刃を振るうも、金属質な音が響き、大きく体が仰け反った。
「やっぱり仕込んでるよな、そりゃ……」
「ほんとならもっといいもん着けてこれたっての!」
道理で痛い訳だ。脛当とか言うんだっけか、鉄で頭ぶん殴られるのと何も変わらないんだから……
まぁ、何度防げるかは別だろう。
「耐えきれなくなるまで、刻む……しかないかな」
息を深く吸い込み、上段から振り下ろす。それを避けられたなら、次は横薙ぎと、反撃の手を与えないように振るい続ける。
ちまちまと考えた所で、当たらなければ意味がないのなら、思考なんてやめてしまえ!
戦闘不能にさせること、ただ一つだけ考えればいいんだよ今は!
「くっ、おおぉっ……! あぶね、なぁっ!?」
「危ないに決まってんだろ戦いんだからぁっ!」
何度目か分からない横薙ぎの一撃を、体勢を崩しながら避けた所で、刀を片手で握り直して自分の出せる最速で突き出す。
切っ先が外套を貫き、その肉体をも貫いた……と、思っていたが、ジェイは無理矢理体を捻り、俺の脇腹に蹴りを叩き込んできた。
「ぎぃっ……!」
「がっ! ほんと、強烈……!」
こいつは、素の速さなら今まで戦ってきた誰よりも速い。
流石に、魔法も全部引っくるめたらジェイよりもロビンの方が上だろうが、ここまで速い相手との戦いは久々だ。
それでも、漸く目が追いついてきたみたい……
「……次は斬る」
「勘弁してくれよ、こっちはもう限界だぜ……」
容赦はいらない。斬りにいく。
懐に飛び込みながら、再度刃を突き出す。それを蹴りでいなされ、上体がブレる。
その隙を逃すわけもなく、顎目掛けて拳が飛んでくる。咄嗟に柄で拳を受け止めるも、抑えきれずに体が浮き上がった。
「っ、このっ、馬鹿力かよっ……!」
「力なくてもこういうのはできるもんなんだよ、意外とな!」
「それはいいこと聞いた、今度試してみるよっ!」
足が地面に付くや否や、腹に蹴りを叩き込む。何か硬いものに当たった感触の後に、嫌な音がジェイの体から聞こえた。
その割には血も吐いていない……となると、まぁ、防具がイカれただけだろう。
「頑丈なもんだね、そういうもん欲しいや」
「……っぶねえ! 戻すとこだった!」
そう言いながらも、足に組み付こうと手を伸ばしてくる。それなら……こうしてやろ。
「この身は焔に転ず……《ファイア・ローブ》」
「っ、あっづ……!? てめ、炎はねぇだろ!」
炎を纏わせ、触れることを封じる。魔物相手の苔威しにはちょうどいい魔法でも、近接主体の人間なら、これだけで何とかなる……かもしれない。
まぁ、兎も角。直に炎に触れたなら熱いじゃ済まないだろう。
「今ならこれ以上の怪我なしで済むけど、どうすんの?」
「バカ言え、逃げたら何言われるか分かったもんじゃねぇよ」
そう言いながら、何やら短剣を取り出す。無駄に魔力を感じることからも、恐らく普通の武器じゃなさそうだ。
じゃあ仕方ない。殺したくはないけど、結局敵なんだ
「斬るね」
「やれるもんならなぁ!!」
気合の入った叫びと同時に、突貫してくる。見た目以上に鋭い刃が近付いてくるも、不思議と心は落ち着いていた。
格闘の技術はあれど、武器はそこまででもないらしい。寧ろ、狙いが分かりやすくて助かる。
その腕に紅蓮の柄を叩き込み、短剣をはたき落とした上で、外套の裾を踏みつけて逃さないようにする。
「おかげで防ぎやすくなったよ。ありがと」
「……やっぱ、割に合わねぇn──」
その言葉を言い終わるよりも早く、紅い刃が閃いた。