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闘うための技術。

「そういや……名前、聞いてないね」

「はぁ? 殺し合う奴の名前、聞いて何になるんだよ」


 男は非常に胡乱げな目を、俺に向けてくる。正直俺もそうなるとは思うが、そんな目で見てくれるなよ……

 

「だってあんた、そう悪いやつじゃないだろ? それなら話をしてみたい」

「おいおいおい、変わった龍人だなぁ……ま、いいや。ジェイだよ、ただのジェイ」

「……名字は?」

「友達でもねぇのにそこまでは言えねぇよ」

「そっか、そうだよな……じゃあ聞き出すしかないな!」


 ジェイが身構えるより速く、地面を全力で蹴る。肉薄しながら刃を振るうも、後一歩の所で捉えられずにいる。

 まだ技が甘いのか……それとも、ジェイがそれだけ速いのか。

 どちらにせよ、当たらないことには変わりない。


「種族関係なしに強いのは強い、か……」

「あったり前だろうが、よ!」


 思考で刃が鈍った所に、ジェイの回し蹴りが飛んでくる。それを二の腕で防ぐも、思った以上の鋭さに、紅蓮を手放してしまい、ぐらりと体を揺らしてしまった。

 ほんの少しの隙。日常なら、どうとでもなるであろう隙。だが、戦場ではそうもいかない……

 

 ジェイのクロスボウから放たれた矢が、深々と自分の胸に突き刺さり、血が滴り落ちる。


「づっ……!? いってぇなぁ!」

「ごぶっ……!?」


 痛みに顔を顰めつつ、顔面を全力で殴り抜く。たたらを踏み、蹌踉めいたジェイの胸ぐら辺りを流れるように掴み、引き戻しつつ……


「せいっ!!」


 がら空きの腹部に、膝を叩き込む。ジェイの口からは、あまりの痛みに、声にならない声が漏れている。

 膝を退けつつ、少し後ろに下がると、そのまま地面に倒れ込み、胃の中のものをぶちまけ始めた。


「ゔわ……ばっちい……」

「でめ、てめぇが言うな……! やった本人だろうが……!」


 そう言いながら、掴みかかってくるジェイ。その手を逆に掴み、体勢を崩させようとしたが、手の間を上手くすり抜けられ、胸倉に手がかかる。

 

 力の勝負では人には負けないと、思っていた時だった。体が浮き上がるような感覚と共に、視界が180度反転する。

 

 そして、背中に衝撃が走った。


「──は……?」

「気ィ抜いてんじゃねぇ!!」


 気合の籠もった叫び声を耳にして、ハッとした。目に入ってくるのは、顔目掛けて振り下ろされる、ジェイの踵。

 それを転がることで回避し、体勢を整える。


「あっぶな……!?」

「ふぅ……やっぱ技ってのは便利だよなぁ」

「……投げる技術か」


 やっぱり、技術っていうのは恐ろしい。俺自身は、身体能力に頼ったゴリ押しが得意だから余計にそう思う。

 技術次第で、格上を打倒することは可能。それは、どんな戦いでも同じだろう。

 しかし……


「どういう技術だっての……!?」

「教えねぇよ!」


 先程とは違い、次はジェイが突貫する。真っ向から迫る影に、拳を振るうも、腕で弾かれたのを目が捉えた。

 その途端、再度先程の焼き回しのように、地面に叩きつけられる。


「人をポンポンと投げやがって! 案外痛いんだぞ!」

「うるせぇ必死なんだよこっちもよぉっ!」


 堪えながら立ち上がるも、すかさず放たれた跳び膝蹴り。避けるにも、あまりに近過ぎる為に回避は既に不可能、防ぐしかない。

 腕を、龍人固有のものに変化させ、飛んでくる膝に全力で肘を振り下ろす。

 

 ゴキン! という鈍い音と同時に、何かが砕ける音がした。顔を顰めるより前に、首根っこを掴み、地面へ後頭部から叩きつける。


 中々強引だった気もするが、仕方ない。結局殺し合いに礼儀は必要なものではないのだから、これはまぁ許していただきたいものだ。

 

「質問は2つだよ、ジェイ。一つは、なんで急に襲って来たのか。もう一つは……誰の、どこの奴の命令か。全部洗いざらい吐いてもらう。そうじゃなきゃ、ここで……」


 そこまで言ったところで、ジェイに腕を掴まれる。何か仕掛けてくる……そう考えたときには、既に行動に移していた。

 極細の針が、顔めがけて飛んでくる。それを避けようとするも、ガッチリと掴んだ腕がそれを許さない。

 結果、複数の針が顔に突き刺さる。


「い゛った……!」

「どんなやつにもこれは効くよなぁ、やっぱりよぉっ!」

「ぐぇっ!?」


 奔る鋭い痛みに、たまらず手を離した途端、側頭部に重い一撃を受けた。殴りだったか蹴りだったかは判別つかないが、人体と作りが同じ、ということはアルロとの戦いの時に理解してる。

 あんまり殴られると脳震盪を起こしてしまうだろう。


「……っ、てぇなぁ……技術って本当大事だな……剣も、殴り合いも……」

「げほっ……力自慢を捻じ伏せるには役に立つんだよ……技術と、こういう暗器は特にな……」


 少し痛む頭を抑えながら、ジェイの言葉に耳を傾ける。

 確かに、先程の針に殺傷能力は極めて低い。が……あのように、不意を突かれてしまえば、大きな隙を見せることになる。

口内に仕込んでいることからも、毒の類……は、ないと思いたいが……


「へぇ、肝に銘じとくよ。それで? 誰の命令とか教えてくれる?」

「……リルの奴だよ。もう必要ねーんだと」


 ……流石に踏み込みすぎたか。となると……まずいなぁ。奴隷商人の一味が来るとなると、急いで逃げないといけない……


「……なぁ、もう一つ、質問。リルの言ってたことは、全部、嘘か?」

「いんや。探してる子がいるのは本当だよ」

「……そっか。それだけ分かればいいや」


 後は逃げる為に、ジェイを打倒する。その為に、手放してしまった紅蓮の柄を、再度握る。


「こっから、できるだけ人を逃がす為にも、あんたを倒すよ」

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