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変わった手先

「へっ、へへへ……噂の龍人と戦うことになるなんてなぁ……ビビっちまうぜ……」

「へぇ? そんなに噂になってるんだ。ちょっと聞かせてくれると嬉しいな」

「馬鹿野郎! こんなもん話したら俺が殺されちまうっての!」


 ……なんとなく、悪いやつじゃない気がする。いや、悪いやつではあるんだけど、本当の悪人と比べると眼劣りする、というか。

 まぁ、取り敢えず殴るのは確定事項か。


「はぁっ!」

「ばっ、てめぇっ! いきなりは卑怯だろうが!」


 不意打ち気味に紅蓮を振り下ろすも、それをギリギリで避けられてしまう。間髪入れず続けて振るうが、それも躱してみせた。

 再度追撃を行おうとするも、それよりも早く地面を転がり距離を取った。

 

「へぇ、上手に避けるね?」

「死にたかねぇからな、当たり前だろ……!」


 黒フードの男は少し息を切らしながらも、矢をクロスボウに番え、眉間目掛けて放ってきた。

 それを避け、再度肉薄しようと足に力を籠めた時だった。

 後ろから木が、メキメキと音を倒れてきている。


「はぁっ……!? ただの矢だったろあれ!」


 倒木を避け、地面を転がる。間髪入れず今度は顔目掛けて飛んでくる矢を、片手で弾き飛ばす。

 やはり何の変哲もない、ただの矢だ。なら、何の仕掛けもない矢が一体どうやって木を貫くのか。

 ……特殊な武器と考えたほうがいいだろう。


「危険な武器だなぁオイ……」

「魔導銃なんかよりもずっと早くて安いんだぜ、ぶち抜くのも楽だしなぁっ!」


 関係あるのかそれ、と口にするよりも速く、次の矢が放たれる。回避は不可能、鱗での防御を試みるも僅かに矢の方が速く、鏃が胴体に突き刺さった。


「ぐぅっ! ……いってぇなぁ、おい」

「ちっ、深く刺さらなかったみてぇだな……」


 そう言いながら、次の矢を番える。その隙を逃さず、短刀を眉間目掛けて投擲する。

 男がギョッとしたのか、体勢を崩しながらもその短刀を避ける。たたらを踏んだところを見逃さず、距離を一足で詰める。


「ハァァァッ!!」

「ちょっ、まっ──」


 何かを言うよりも速く、横一文字に紅蓮を振り抜く。

 しかし手に伝わったのは、紅い刃が、肉を裂く感覚ではない。金属同士が、ぶつかり合うような甲高い音と共に、刃が止まる。

 その隙を逃さぬと言わんばかりに、顔目掛けて刺突が繰り出され、それを掠めながらも避け、蹴り飛ばした。


「その黒衣の下は鎧か? 斬れないのは初めてだし、鎧つけてそんなスピードが出るのもおかしいだろ」

「おいおいおい、化け物相手にすんだぞこっちは。化け物対策しねぇでできるわきゃねぇよ」


 まぁ、対策というのは大事だが……こういう特殊な装備というのは、大概が高価なんじゃなかろうか?

 こいつも大変だな、命かけて稼いでるのに……


「ま、いいか。ひっぺがえせば同じだろ」

「てめぇは蛮族みたいだなぁおい!」

「お互い様だろ!」


 その言葉を皮切りに、示し合わせたかのように前方へ飛び出す。

 再度顔目掛けレイピアが突き出されるも、それを避けながら拳を胴体へ叩き込む。

 

「ごっ……!」


 耳障りな音と共に、男の体が大きく吹き飛ぶ。続けて追撃をしようと足を踏み出したが、吹き飛びながら矢を放たれ、その回避の為に足を止める。

 

「面倒だな、飛び道具って……」

「こっちからしたらその膂力が一番面倒だっての……!」


 痛みを堪えながら立ち上がった男が、間髪入れずに矢を放ってくる。それを避け、再度距離を詰めると、目を狙って刺突が飛んでくる。

 それでも、足を止めることなく、横からレイピアを弾き、そう簡単には拾えないように遠くに弾き飛ばした。


「ちっ……!」

「逃さないよ、誰かは知らないけど」


 一旦紅蓮を放り捨てつつ首を掴み、木に叩きつける。それでも、抵抗しようとクロスボウを顔に向ける。それを片手で奪い取り、同じように男の顔に向け、口を開く。


「それで? どこに穴が増やされたいのか言ってみろよ」

「……分かった、降参……」


 そう言いながら、ゆっくりと両手を挙げる男。それを確認し、手を離す。

 その途端、視界に火花が散った。


「ぐっ……!?」

「降参は取り消しだよバーカ!!」


 何かを叩きつけられたのか、それとも殴られたのか。一瞬のことで分からなかったが、まぁ兎に角不意をつかれたのは確か。

 目を瞬きながら、男を探すと、先程投げ捨てた紅蓮を手に斬り掛かってきているのが見える。


「てめぇの武器で殺してやるよぉっ!」

「死ぬかっての!」


 斬り掛かるよりも速く、腕を龍の物に変化させる。その鱗で刃を弾き、胴を蹴り飛ばす。


 そして、吹き飛んだ男に向け、掌から3発の火球を放つ。人間相手にやるのは多少やりすぎな感じもするが、それはまぁ許してもらいたい。

 現に、その焔の中を駆け抜けて取り出して来るぐらいには元気だし。そして、男は外套を脱ぎ捨てながら口を開いた。

 

「あ゛ぁついなぁおい! 死ぬとこだったぞ」

「殺すつもりでやってんだよ、お前は敵なんだから」


 しかし、どうにもやりづらい。なんだろう、噛み合わないというか、なんというか。


「不意をつく、降参宣言は信用できない……口もこんなに侮れないもんなんだね」

「人間が化け物に勝てるのは口先の器用さぐらいのもんだからなぁ……俺達は、力の差をこれで埋めてんだ」

「……それには本当に気をつけるよ」


 あぁ、口先が回る相手というのは……非常に面倒だ。

 ただ、それでいて……得るもののも多い。その経験は非常に有用な糧になる。

 つまり、だ。利用できるだけ利用しよう。

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