再出発と飼い犬と…犬?
「今度は途中まで歩きかぁ…レーテさんは夜になれば飛べるんだっけ?ロビンは…うん…頑張って走って…」
「オイ待て、満月じゃなきゃ無理なんだよ。前やった時も狼じゃなかったろうが!」
今は、リュミエールを再度出発し、南へ進んでいる途中だ。自分達の種族について話してみた所、狼人は満月の夜が最も強くなれる瞬間であり、普段の二倍の力を出せるという。
この世界の吸血鬼は、日光が苦手、日の元では三割程度しか力を振るえないが、満月の時は三倍と…あれ、だからか?
「だからお二人で組んで来たと…」
「丁度いいしな。夜なら俺たちに任せとけ、昼は任せるぞ?」
「了解。さて…どれぐらいかかるかな…3日って言ってたけど、飛べばの話だよなぁ…」
そう、まだ森を抜けられすらしてない。辺り一面木ばかりだ。…道間違えてないか不安になってきた。
「あー…お客さんだな、団体の」
ロビンが指差した方を見ると、色とりどりの毛並みをした狼達がいた。分かりきった事だけど、敵意を剥き出しにしている。…主にロビンに。
「…狼人なのに狼に絡まれるってどうなの?」
「いんや、野生の狼とかにはかなり絡まれるぞ、
俺たちは」
「そうなんだ…」
そんな事を話していると、狼の群れが飛びかかって来た。
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「ただの狼じゃ、もう怖くもなんともないな…全部逃げちゃった。」
「龍人なら、生まれた時からこの辺りの狼なら相手できるし、逃がすのは…三才位で出来るらしいですよ?」
「…そうなんですか…」
中々に遠い道程だね、本当に…まだまだなんだよな。剣も、拳も、能力も。
「おい、そこに一匹残ってるぞ」
「あ、本当ですね…」
そちらを見ると、白毛の狼がこちらをじっと見つめていた。
「何?やろうってなら相手になるけど?」
「おい、ありゃどうみても…」
この会話を聞いても、狼はこちらをずっと見つめ続けている。
「これは…?どういうこと?」
「あれだろ、ついてきたいとかそういう事だろ?」
ロビンの言葉を聞いた狼は、その頭を動かし、頷くような動作をした。…え、マジで?
「僕、犬とか飼った事ないんだけど…」
「安心して、皆飼ったこと無いみたいだし。それにこの子は狼よ」
そうでした…この狼の目、綺麗な橙色の目だ…
「じゃあ…付いてきてくれるか、《白焔》?」
「…まーた安直な…」
うるさい、しゃあないだろ。ネーミングセンスなんて求めないでくれよ…まぁ、本人は…本人っておかしいかな?気に入ってるようだから、別に何言われても気にしないけど。
「…所で、お前かなりデカいな…あれ、どこかで見たような?」
「あ、光牙さん。あの狼じゃないですか?ほら、肉あげたって…」
「…あ、お前あのときのか!?」
白焔は何度も頷いた。いやマジか。敵だったら面倒だと思ってたけど、まさか味方になってくれるとは…
「でもあの時よりデカいよね…成長期?」
「いや、その発想にはならねぇだろ…」
説明は求めていないつもりだったが、この白焔、どうやらかなり知能が高いらしく、そこら辺にあった木の棒を広い、地面に何かを書き始めた。
「えーと…?これはあの鳥か…あの鳥を食べて、暫く苦しかったけど、耐えていたらいつの間にか視線が高くなってて、爆破も使えるようになってた…?」
「何でお前分かるんだよ…」
「一応、肉やったのは僕だから…」
しかし、それなら何で僕たちの所に来たんだろうか。それなら、自分の力で何だって出来るじゃないか。…恩義?まさかね。異世界とはいっても獣、恩義を感じるような事があるわけない…とは言い切れないんだよな…
「あ、この子、かなり希少な魔物ね…人を襲うような事例も無い、人間を見ると森の奥に行ってしまうっていう…種族名は確か…《フォレスト・ガーディアン》。森を荒らす人間には容赦しないそうよ。かなり昔に、一匹残らず姿を消したって聞いたけど…」
「つまり、白焔はこの森の守り神みたいな物なんですか?マジか…でもそうなると、守り神がいなくなるんじゃ…」
その言葉を聞いた白焔は、自身の顎である方向を指した。その方向には、猪や熊が、龍人と遊んでいる光景が見えた。
「なるほど、盗賊がいなくなったし、龍人がいるから、この森は安心だと?そうだとしても…」
白焔は途中で僕の言葉を予想したのか、それではいけないというような目で僕を見た。まるで、自分にずっと守られるのでは、いずれこの森は大変なことになると言っているような目だった。
「分かったよ…ついてこいよ?白焔。っていっても、お前デカいからな…全員乗せれる?」
白焔は任せろと言わんばかりに、一吠えすると、一人ずつ咥えて自身の上に放り投げて乗せた。…モコモコしてる…しかも四人乗ってもまだまだ余裕がある…7ソルぐらいか?ま、とにかく。
「よし、目指すは南の龍の里!行け、白焔!」
白い焔の名を与えられた巨狼は、その強靭な足で地面を駆け出した。