表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/198

離別

「……って感じで、今に至るよ」

「やりすぎだ馬鹿……」


 すぐに俺達には枷がつけられた。全く、枷をかけるなら俺だけで良かったはずだ。暴れたのは俺だけなんだから。


 俺は仕方ないとしても、怪我をした雛と、人間のディーンには必要ないはずなのに。


「まぁ、強くなったのはいいけど、さ……これからより、鼻つまみ者になっていくんだろうなぁ……」

「……元々ですよ、亜人ですから」


 雛が、心底呆れたような口調で呟いた。

 まぁそうなんだけど。でもここまでとは思わなかったよ……

 

 だって、俺達、結構助けてたよ? それなのに、一回のミスでこれかぁ……


「薄情だなぁ……」

「力を怖がってんだよ。リアムだって、ここじゃかなりの実力者だろ? それが捻じ伏せられたんだから、恐怖するだろ」

「でも俺は、ここの人を助けてきた」

「同時に、俺たちが来なきゃ起こらなかったかもしれないことを、引き寄せたかもしれねぇだろ」


 苛々したように吐き捨てるディーンを見て、俺はハッとした。

 ……それは考えていなかった。というより、見てなかったかもしれない。

 俺たちが荒事を呼ぶ、という側面も、これからは考えないとならないかもしれないな。


「……人間って、複雑だぁ……」

「今に始まったことじゃねぇよ。これからは首を突っ込むのも程々にしようぜ。勿論、関わるなとは言わないけどさ」


 首を突っ込むのを、やめろとは言わない? 本当に怒られると思ってビクビクしているんだけど、杞憂……じゃないだろうな。


「そりゃ、俺だって怒ってないわけじゃない。けど光牙の場合、向こうが飛び込んでくることもあるからなぁ」

「あぁ……」

「要するに、慣れちゃったってわけですよ」


 呆れたように、二人はそう言いながら笑ってみせた。

 ……全く、何ともお人好しな人たちだよ。本当にいい友人だ。


「まぁ、それはそれとして、光牙さん」

「はいっ!?」


 あぁ、怒ってはないわけじゃなかったね、うん……笑ってはいるけど、目は完全に、怒っている時のそれだ。


 笑ってない目というのは、こういう目のことを言うのだろうな。


「力の加減、覚えましょうね……」

「……あい」


 本当にそれは重要だ。加減が少し緩めば殺しかねないなんて、自分でも御免だし、何よりそんなことで怪我はさせたくない。


「でも、また人間から離れてるんだよなぁ。その気になればこの枷だって、何となく壊せる気がするし」

「それやったら今度こそ追い出されるぞ……追い出されるくらいならいいが、首を刎ねろとか言い出すやつもいるだろうな」


 それはそうだ。本当に……面倒くさい。結局のところ、力だけじゃ恐れられるだけだ。

 悲しむ、慈しむ心があると証明したいけれど、人間たちはそれを認めてはくれない。


 こればっかりは、本当にどうしようもない。時間をかける、もしくは……


「……やめよ、考えるな」

「お? どうしたんだよ」

「らしくないこと、考えただけだよ」


 全く、馬鹿らしいことを考えたもんだ。人間を滅ぼす? 少し力が強くなったからか? 思い上がるなよ、一人だけでできるものか……

 そう自分を戒めるも、浮かんできた考えは消えることがなく……その日は、一睡もできやしなかった。

 

 そのまま、過激な考えは消えぬまま数日が経った頃。俺たちの望むものができたと、声がかけられた。

 

───────────────────


 結果から言えば、馬車は要求通りに用意された。結論は非常に早く出され、早く追い出してしまいたかったのだろう。

 ……まぁ、いつ牙を剥くかわからない化け物を、置いておくわけにはいかないというのは、非常に理解できるから仕方ないが。


 とはいえ、粗悪品を掴ませるということはなく、素人目から見ても非常に良質である馬車を用意してくれたのは、感謝したいほどだ。


「ルージュとアルロには、悪いことしちまったかもなぁ……」

「まぁ、それは否定できませんし……悪いこと、しましたよね?」


 久々の馬車に揺られながら、口を開くも、あまり会話が弾まない。そのせいで、とても空気が重い……!

 こればっかりは、力があろうがどうしようもない。ティリスを追い出される元を作った元凶が何を言おうが、どうしようもないだろう。


「魔力糸の腕輪、置いてきたしなぁ……」

「新しいのをもらえる空気ではありませんでしたしね。仕方ないですよ」


 まぁ、それはそうなんだけど。でも本当に、勿体ないことをしたと思う。

 なにせかなり便利な代物だったし、使えるならそれに越したことはなかった。


「はぁ……残念だよ、本当に……」

「切り替えろよ、引きずってもどうしようもないぞ」

「分かってるけどさぁ……」


 自分が思った以上に、堪えているらしい。お気に入りのものをなくす、壊れるなんてザラの世界で、何を言っているんだろうとは思うけれど。

 本当に、未練というものは厄介だ。


「……悪い、ちょっと眠る」

「あぁ、そうしてろよ。雛もお前も疲れきってるだろうし」

「ディーンはどうするんだよ?」

「俺は……まぁ、二人が起きてからだな」


 そこで会話が途切れ、居心地の悪い沈黙が訪れる。

 こうなったら早く寝てしまおうと、目を閉じて、思考を止めた。

 考えるのは、また後でいい。


─────────────────────


 突然、パチリと目が覚めた。案外疲れていたのか、それとも馬車の揺れが心地良かったのかは分からないが、景色は既に見覚えのないものに変わっている。

 どうやら、かなりの間寝ていたようだ。


「……すまん、寝過ぎた」

「いいって……そういや、体は問題ないのか?」


 馬車から降りて、焚き火を弄っているディーン。その隣で、雛が眠っている。近付くと、何故か体を心配された。

 敵によくわからないものを注射されたのだから、確かに心配されてもおかしくないのだろう。

 でも、俺は大丈夫だ。それどころか、体は羽のように軽いんだ。


「大丈夫だよ、さっきまで寝てたお陰で疲れも大分取れたし。体の重さも感じないしね」

「……なら、今のところは大丈夫か? でもなぁ……強化と考えるのもまずいだろ、どんなデメリットがあるのかも……」

「今のところは何もないよ。強くなった、それでいいじゃん?」


 体に入った異物の感覚は、最早掴めない。なら、どうしようもない。

 問題が起こったときに、対処できるならすればいいじゃないか。現に今は、こんなにも落ち着いているんだから。


「……楽観的だねぇ」

「悪いことばっかりなんだから、ちょっとは見逃してくれよ」

「ダメだね……って言いたいけどなぁ、俺も何もわかんねぇからなこれが! そんな状態で何言ったって聞かねぇもんなお前!」

「脳みそが理解を放棄してるからな」


 そう言って、堪えきれなくなって、ディーンと笑い合う。

 あぁ、今ならどんなにくだらないことでも、笑えてしまいそうだ……と考えた時だった。


 近くの茂みから、ガサリと音がした。

 咄嵯に警戒し、ディーンと二人で、眠る雛を庇うように武器を手に取る。


「光牙、魔物だったら速攻仕掛けてくれ」

「……人間だったら?」

「その時は俺が行く。盗賊ならアジトが近くにあるかもしれないから。仕留めておいて損はないはずだ」


 あれだけ穏やかだった空気が、次第に張り詰めていく。

 ガサガサと茂みから姿を現したのは、たった一人の少女だった。それも、俺たちと同じ歳か、少し下くらいの少女。

 長い白の髪はボロ布で覆われており、同じボロ布に包まれていて顔もよく見えない。

 ただ唯一見える口元は震え、恐怖に染まった目だけがこちらを見ていた。


「あ、あの……」


 怯えながらも、声をかけてきた少女。ディーンは、それを見て武器をしまい込むと、できるだけ穏やかに声をかけた。


「一体どうしたんだ? 君はどうしてこんなところに……」

「た、すけて──」


 しかし、その言葉は最後まで続かなかった。意識が途切れたのか、そのまま倒れ込みそうになったのを、ディーンが受け止める。

 そのまま、ディーンは苦々しい顔をして口を開く。


「光牙。どうやらまた、厄介ごとの気配だぞ」

「みたいだなぁこれ……」


 一難去ってまた一難とは言うけどさ、こうも続くもんだったか? 神様に嫌われるようなことでもしたかな……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ