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脆い信頼。

「だあぁぁぁっ!!」

「うお……ちょっとずついい感じになってきたな……」


 打ち込み稽古を始めてから20分ほど経った。最初の頃とは比べ物にならないほど、リアムの太刀筋は鋭くなっており、下手に受けてしまえば怪我は避けられないだろう。

 自分も、力加減は相当上手くなってきたように思える。


「考え事してる余裕があんの!?」

「そりゃねぇ、人間の攻撃なら痛くないし」


 木刀による攻撃だけでなく、鋭い蹴りも交えてくるようになった。とはいえ、まだまだ狙いがわかりやすいため、容易く避けられる。

 荒削りのスタイルだが、それが好ましい。


「自分のスタイルを身につけろ、さもなくば……」

「待つのは死だけ、だろ? わかってんだよぉっ!!」


 雄叫びと気迫の籠もった一撃を受け止める。何度も受け続けたからか、少し腕が痺れてきている。

 一旦距離を取ろうと、足に力を込める……その時だった。

 服を掴まれ、全力で引っ張られる。


「う、ぉっ!?」

「だぁぁぁっ!!」


 体勢を崩していたこともあり、反応するよりも先に木刀が、側頭部に叩き込まれる。そのまま、木刀を振り抜かれ体が吹き飛ぶ。

 何ともまぁ、容赦ない攻撃だ。常人ならこれで昏倒するだろう。


「……容赦ないな、本当に」

「魔物相手には、容赦できないんだろ……だったら、全力で叩きのめす他ないじゃないか」

「そりゃそうか」


 側頭部を押さえながら立ち上がると、不意討ち気味に木刀を投擲する。

 リアムはそれをぎょっとしながら避けるも、避けた方向には俺が走り込んでいた。拳を握り、全力で頬を打ち抜く。

 今のこの距離なら、木刀を構えるよりも、拳の方がずっと速い。


「正解だけど、それじゃ短期決着以外は狙えないだろ!」

「ぐっ、そう、だけどっ……がぁっ!」


 腹部に、俺の拳が突き刺さる。組み手とは何だったのかと、考える自分がいたが……まぁなんでもありなんだから、許せ。


「次行くぞぉっ!!」

「ぐっ、あぁぁぁっ!!」


 蹲ったところに追撃として、拳を再度振るうが、木刀で防がれる。その際、木刀から嫌な音がした。

 何度も打ち合ってきたのだから、ガタは来ていて当たり前だろうが、想像以上だった。それほどまでに、全力で挑んできたのだろう。

 だからといって、手を抜く理由にはならない。


「ふんっ!!」

「う、ぁぁぁっ!?」


 追撃の鋭い蹴りで、リアムの木刀は真っ二つにへし折られる。そのまま腹部に深く突き刺さり、その体を後方へと吹き飛ばした。

 ついでに、誰も住んでいないであろう家屋の壁を突き破りながら。


「……いっけね。最後の最後で加減が緩んだか」


 そう言いながら、倒れたままのリアムへと歩み寄ろうとしたが……周囲の目が突き刺さる。

 前から何度も見てきた、敵意のある目だ。


「……お前、やっぱりそのつもりだったんだな」

「そのつもりってなんだよ、何も考えてねぇよ」


 そう弁解するも、全く信じてはおらず、向けられた武器は下げられはしない。まぁ、それもそうか。

 今、何も知らないやつが見たら、亜人が自分たちの住処を荒らそうとしたのを止めにかかり、返り討ちにされたようにしか思えないだろうし。

 ……となると、頼んだ馬車も……やったなぁこれ。

 二人には悪いことするけど、まぁ……仕方ないよな?


「……そうだな、嘘をついた。俺はここを、人間への復讐を行うための拠点にするつもりだった」

「……やはり亜人、化物だったか……信じてはならんかった……!」

「ただ、こうして止められ、時間を稼がれた。腹立たしいよ、力の足りない雑魚にこうも邪魔されるとは」



 ティリスの住人は、恨むような目つきで睨んでくる。今にも襲いかかってきそうだ。

 俺だってこんなこと言いたくない。でも、もうどうしようもない。リアムは伸びてるし、マナはこの場にいない。ディーンと雛がいたとしても、弁解を聞いてくれるとは思わない。

 

 ただ、仕方ないことだろう。漸く手に入れた平和が、すぐに崩されようとしたんだから。その気持ちは分かるよ。


 だから、俺が持っていくことにする。やりすぎたしね。そのせいでこんな風になったんだから、喜んで俺は悪名を背負ってやる。

 ただ、少しばかり交渉させてもらうけどね。


「あぁ、口惜しいなぁ……恩を着せて、どうにかと思っていたんだが。そう上手くはいかんらしい……仕方ない……交換条件と行こうか」

「……話だけなら、聞いてやる」

「要求はたった一つ。頼んだ馬車を、約束通り用意すること……あっ、やっぱ二つ。ここを発つ俺達を、決して追わないこと。そうすれば、俺はここじゃ暴れない」

「……信用できんな……」


 ぐぬ、やっぱり交渉は難しい。自分の要求と相手の要求を釣り合わせるとなると、これ以上何をどうすればいいんだ?

 とはいえ、暴れるのは以ての外だ。それこそ斬り掛かってきてもおかしくない。


「暴れないって言ってるだろ? 信用ができないっていうなら枷でも錠でも、思うようにかければいいさ。そうすれば問題ないだろ」

「……仕方ない。マナに伝えろ。とびきり頑丈な枷を用意し、龍人の手にかけよ。それと、馬車の用意を急いでほしいと」


 どうやら、漸く納得がしてくれたらしい。とはいえ……あーあ、なんて説明したらいいんだろう。

 全く、脆い信頼だった。


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