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邂逅、ムクロの主

「……誰だ、お前は」

「私のことか? そうだな、ヴォイドとでも呼んでくれ」


 そう言いながら、ディーンの頭を離したヴォイド。そのまま重力に従い、頭が地に落ちる。

 荒い息が聞こえることから、生きているのは確かだ。

 しかし、そうなると……


「どっから現れた?」

「無論、最初からいたさ。わたしの体は特別性でね」


 話しながら、その手にある吸盤を見せつけて一歩一歩距離を詰めてくる。

 ……自らの体を改造している、ということだろうか?

 まぁ、そんなことよりもだ。


「雛の腕をあんなにしたのは、お前か?」

「私ではないよ。私の傑作が行ったんだ」

「……なら、元を辿ればお前じゃねぇか!」


 怒りに任せ駆け出しつつ、紅蓮の刃を首目掛けて振り抜く。刃は寸分違わずに首に吸い込まれていき、肉を裂いた。

 首を斬られたヴォイドの体は一瞬痙攣すると、そのまま後ろに倒れていく……が、おかしい。


「血が出ない……?」

「おやおや、こんなにも簡単に死んでしまうとは」


 再度、後ろから声が聞こえた。その声は確かに、目の前で今、死んでいった男の物で……

 振り返るとそこに、同じ顔をした男がいる。服装も全く同じ、白を基調とした高そうなコート。


 まるで、もとからあった玩具を取り出して来たかのようなそれに対し、自分でもよく分からない恐怖を覚えた。


「……双子だったりする?」

「まさか。私は正真正銘、ヴォイドという研究者さ。最も神に近い、ね」

「何言って……あぐっ!?」


 そう言うと同時に、ヴォイドが指を鳴らす。すると突然背後にムクロが現れて俺の体を地面に押し倒した。腕を背中側に引っ張られており、まるで抵抗できない。

 ついでに少々顎を打ったが、そんなことより……


「お前が、この事件の黒幕でいいんだな?」

「そうだね、君たちの認識ではそうなるだろう」


 笑いながら話しつつも、何かを取り出そうとしている。こんな人のいい笑みからして、こいつとすれ違った所で敵だとは思えなかっただろうと、ふと思った。

 こうして相対しているから、俺はこいつを敵だと捉えることができた。でも……目的がわからないのが不気味すぎるだろ。


 ダメ元で聞いてみるか。こう抑えられては何もできやしないし。


「目的は何だよ」

「新たな種の想像さ。人間でもない、亜人でもない、そんな種を作り上げること。そして私が、新たな世界に神として君臨することが、最終目標だ」


 ……まさか、こんな簡単に話してくれるとは。口が軽すぎて、嘘のようにも思える程。しかし、嘘を言っているようには思えない。

 その瞳には、狂気を感じさせるほどの凄みがあったからだ。


「なんのために、ここの人達を……」

「理解してもらえなかったからね。それなら邪魔になるだけだから、さっさと消えてもらおうと思ったんだ。君が案内人と呼んだあの個体が、人に近いものだった。なのに……」

 

 そこでヴォイドは、言葉を切った。そしてわなわなと震え始めたかと思うと、その拳を握り、何度も壁に叩きつける。

 呆気にとられていると、激情のままに口を開いた。


「あのカス共は私の成果を否定したばかりか、壊そうとして来やがった! 倫理に反している、神の冒涜だとぉ!? ふざけるな! 進歩は犠牲の先にしかないんだよぉ! お前もそう思うだろう!」

「がぁっ!?」


 押さえつけられたこちらに、矛先が変わり、顎を蹴り上げられる。痛くはなかったものの、ビビって声は痛そうになってしまった。

 それを痛みによるものだと勘違いしたのか、冷静になったヴォイドは息を吐きながら座り込む。


「あぁ、すまない……私は昔からこうでね、嫌なことを思い出すたびにこうして、激情のままに暴れてしまうんだ」

「……何か作るのに向いてねぇよお前」

「だろうね。でも作ったんだ私は」


 そう言いながら、ムクロ達をどかし、俺の腕を掴み上げる。そして、何やら鋭い針を、その手に近付けてきた。

 何が入っているかは分からんが、これだけは言える。


「絶対碌なもんじゃねえだろそれぇ! 離せ、離せよ!!」

「暴れないでくれ、狙った場所に刺すのは難しいんだ……」


 その言葉と共に、針が突き刺さる。何かがそこから入ってきているのが分かるが、一体何なのかは検討もつかない。

 理解したところで、碌なもんではないだろう。危ないお薬ってことには変わりないんだから……!


「っ……は、なせっての!!」

「おっとと……!? 針が折れてしまったじゃないか。中々痛いだろう?」

「こんなもん……!」


 ムクロ達ごとヴォイドを振り払い、すぐに腕に残った針を引き抜く。鈍痛が続くも、これならまだどうにでもなる。

 しかし、俺の拘束が解かれたというのに、ヴォイドは、余裕の笑みを浮かべていた。


「……こんな状況で、よくも笑えるな」

「それはそうさ。君ももうすぐで、僕の手駒になるからね」

「なるわけ、ねぇだ……!?」


 否定しようとしたとき、体全体がズキリと痛んだ。それどころか、切断された筈の左腕が疼き始める。

 幻肢痛かと思ったが、どうも違う。斬れた場所から、じゃなく……

 ──何かが、生えてくるような感覚……


「うっ、ぐうぅっ!! アガァァッ!?」

 

 駄目だ、耐えられない。とてもじゃないが耐えられやしない! 激痛が左腕から、体中を駆け巡っている!

 無いはずの腕を押さえようとするも、何も無いものを掴めるわけがない。空を掴むばかりで、床を転がってのたうち回ることしかできない。


「う゛ぅぅ……!? う゛ぁぁぁっ!!」

「素晴らしい、痛みで意識を失っていないとは! やはり亜人はすばっ!?」


 痛みで朦朧としている意識の中、何かを尾で吹き飛ばした感覚が伝わってくる。気付けば勝手に現れたことから、体の部位の制御も効かなくなっているようだ。

 取り敢えず今吹き飛ばした、そいつがヴォイドだろう。

 何度か大きな音が響いたことからも、複数回何かに激突しているようだ。


「痛みで気を失う前に、アイツを……殺すっ!!」


 あいつはヤバいと、改めて認識した。確かに戦闘では、今のところこちらが上だ。でも、ここで逃したら? またムクロが増える。ムクロが増えれば、被害も更に大きくなる。

 どちらにしても、害しか齎さないわけだ。逃がす理由はない。


「ディーン! いつまで寝てんだ起きろオォォッ!!」

「……う、あぁぁっ……わり、やられてた」


 叫び声で目を覚ますディーン。大股で近付くと、魔導銃を差し出して持たせる。驚いたようにそれを見ていたが、今は時間が惜しい。


「おい、これお前の……!」

「ムクロが来たらそれ使え、俺はヴォイドを追う。雛たちを叩き起こしておいてくれると、助かる」

「馬鹿! 待てよ! ……おい!!」


 会話を無理矢理にでも切り上げ、背後から聞こえる声を無視して走り出す。また単独行動になってしまうが、今回ばかりは仕方ないだろう。


「皆ボロボロだったから、俺が全部やる。約束も、ムクロのことも、全部……」


 そのために、アイツを殺すんだ。

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