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到着

「──何だとっ!?」

「落ち着け光牙! 今は話を……」

「落ち着けるかよっ、こんな状態で!」


 激情のままに飛び出しそうになった体が、ディーンに押さえられている。藻掻いて前に進もうとしたが、全力で押さえ込まれていて、一歩も進めない。

 ヤバいと分かっていても、声を荒げずにはいられなかった。強制的に離れ離れにさせられ、合流ができてない仲間が敵の手の中にいる。

 こんな時に、冷静でいられるわけがない。


「その気持ちは分かるよ……敵の手中にいるわけだしね。でも、少しは冷静になってよ。僕も戦いたいわけじゃないんだよ?」


 黒い少年は、片手をひらひらとさせ、敵意がないことをアピールしている。とはいえ、表情が乏しい上に、眼の前で消し去ったのを見てからでは敵意がないと言われても信用できない。

 寧ろ、敵意丸出しの方がやりやすいまである。得体のしれないやつが、戦いたくはないという時は大抵、碌なことじゃない。


「それに、敵の手中ってことはさ。着いてこないと、二人共まずいんじゃないの?」

「……確かに、そうだけどっ……! お前みたいなのは他にいるとしたら……」

「いないよ、そんなの」


 そう言い、少年は背を向けて歩み出す。こちらが不意をつくことなど考えていないのか、それとも俺たちが不意をつくなど考えていないのか……

 分からないけれど、今は警戒しつつついていくしかない。何せ、仲間が捕まっているんだから。


「そういや君、腕輪は?」

「破壊された義手と一緒に置いてきた。取ってくるの忘れたんだ」


 何で知っているのか、なんてどうでもいい。なんとなくだが、この子供のような何かは、俺を殺すつもりはないというのは確かだった。いや、殺せないというのが正しいのか?

 殺すつもりなら、ハルウスを灰にした謎の力を使えばいいだけだ。それも、俺たちは気付いてすらいなかったのだから。


「ふーん……じゃ、取ってきて貰っとくね」

「……ご丁寧にどうも」


 そう黒い少年は口にしてから、興味がなくなったのか俺から視線を離して歩き出す。

 ……この感じだと、何も考えていないのかもしれないな。


「ディーン、どうする? 逃げようと思えば逃げられそうだぞ。ただ、その場合は……」

「……雛たちが捕まってるんだから、どうなるか分からない……仕方ねぇだろ、この場合。ついてこうぜ。近付けば近付く程、刃は突きつけやすくなるんだから、悪いことばかりじゃねぇ」


 ディーンはすぐ、黒い少年に続いて歩き出した。それを追うように、俺も足を進める。

 狂った怪物を生み出した、人間の元へ。


「なぁ、そういやお前の名前は? 呼ぶ時に面倒だ」

「……案内人でいい」


───────────────────────


 少し、黒い案内人に続いて、廊下を歩く。奇妙なことに、ムクロは襲っては来ない。案内人が何かしてるのだろうか、見向きすらされない。

 すれ違う数も増えて来ていることから、目的地は近いのだろう。そう考えつつ、少し漂っている血の匂いに顔をしかめた。


「……臭いな、ここ。血の匂いだ。こんなとこで何をしてたんだよ」

「君が知ったところで意味はない。けど、まぁ……実験だよね」


 実験? と口にするよりも早く、痩せ細ったムクロが現れる。長い間、何も食べていないのか、ふらついている。


「逃げたんだ、出来損ないの実験体が」

「実験体って……あれがか?」


 ディーンが、そう言いつつムクロを指差す。その問いに答えることなく、案内人は足取りの覚束ないムクロに近付き、触れる。

 すると、電池が切れた玩具のように動きが止まり、すぐに倒れて灰となってしまった。


「こうやって、持久性や耐久性に難があるやつは殺されるだけの実験施設だよ」

「……なるほどね」


 相当、胸糞悪い場所だ。むせ返りそうな程の血の匂いがすることから考えて、決して少なくはない命がここで散ったのだろう。

 それが、たった一人の人間によって齎された。誰にも止められなければ、これは永遠に続く。

 やはり、ぶっ飛ばさなければいけない。それも、こんなことを起こす気がなくなるまでだ。


「着いたよ」

「早いな……」

「道は父様が隠してたからね、そりゃすぐだよ」


 案内人がそう言うと同時に、壁が消えていく。こんなの探していても見つからないわけだ。向こうが隠しているのだから、どんなに歩こうが誘導されてしまう。

 こんな大きな屋敷に、逃げ込まれたのが運の尽きだった。

 対処法として屋敷ごと吹き飛ばすにしても、そんなことはお相手も考えているだろうし。


「着いたよ。ここが君達の終着点だ」

 

 少し時間が経った頃、こちらに振り返りながら案内人はそう言った。その瞬間、前方に飛び出してその油断しきった顔に拳を叩き込む。


「ぶっ……!?」

「案内してくれたのは助かったけど、お前は個人的に気に入らん」

「殴ることないと俺は思うがな……」


 頬を腫らしながら倒れ込んだ案内人の横を駆け抜け、見えていた豪華な扉へ向かう。どう見てもあそこだろう。自己顕示欲も相当高いと見た。


 そんな扉をディーンと、二人で蹴破り突入する。飛び込んできたのは、どう見ても黒魔術に使う代物であろう大鍋や、何かの骨等が散乱していた。そんな部屋の中に、鎖で雁字搦めにされたマナ。そして……

 ──腕が、何度もへし折られている雛がいた。


「っ……雛っ!」

「バカ野郎、逸るんじゃねぇっての! どう見ても罠だろうが」

「分かってるけど! 分かってるけどさぁ!!」


 助け出そうと走り出した瞬間、襟首を掴まれ引き止められる。僅かに見えたディーンの顔にも、怒りの表情が浮かんでいる。

 確かに、ディーンの判断は正しい。何とか方法を探して助ける方が最善だろう。でも……


「あんなボロボロにされてんのに、黙ってられるかよっ!!」

「あっ、馬鹿……!」


 その手を振り払い、雛たちに向かって駆け出す。その瞬間、物陰に隠れていた何かが飛び出してきた。黒いローブに身を包み、片手に血が染みついた刃を握っているのを、暗い部屋の中で何とか視認できた。

 恐らく、餌に釣られた馬鹿を仕留める為の刺客だろう。首目掛けて振るわれた刃を避け、距離を取ると、そいつはニタリと笑いながら口を開いた。


「オ前ノ命……ヨコセ!」

「悪い、邪魔だから消えてくれ」


 何か喋っているようだったが、無視して拳をその顔目掛けて振り抜いた。無意識に魔力を使っていたのか、殴った部分から火の粉が舞い、襲撃者を大きく吹き飛ばす。

 壁に頭を強かに打ち付けたことも相まって、恐らく暫くは立ち上がらないだろう。最悪の場合、顔の骨がいかれているだろうが……まぁ運がなかったと思ってもらおう。


「やはり素晴らしいな、龍人は」


 今度こそ、雛たちに近付こうと一歩踏み出した時に、この場にはいない何者かの声が響く。振り向くと、ディーンの頭を掴み、引きずっている男がいた。


「……誰だ、お前は」

「まずは挨拶と行こうか。ようこそ、ムクロの館に」


 そう言いながら、目の前の男は不敵に笑ってみせた。

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