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化け物、退治のまた後に……

「ハハッ、約束だぁ? 誰とだよ」

「リアムとだよ。敵討ちを頼むってさ」


 そう答えると、ハルウスは馬鹿笑いし始める。耳障りな、嫌な声だ。


「自分じゃ勝てねぇから、他の奴らに託すしかねぇよなぁ!! しかし殺しにも来ねぇとは、意気地なしにも程があるぜ!」

「ちげぇよ馬鹿。脳味噌まで腐ったか?」

「あん……?」


 ディーンが突然、口を挟んだ。何を言おうとしているのかわからないが、まぁ同じような意見だろう。


「自分じゃ勝てない、でも殺してしまいたいほど憎い。そんな相手を殺すために光牙に頼んだんだよ」


 できることなら、自分で仇を討ちたかっただろうに。敵が不必要に力をつけてしまったから。


 ほんと、悔しかっただろうな……


「誰が相手だろうが、殺したい程憎い奴を自分で殺せないのは、まぁ悔しいだろうし、プライドが許さないさ」

「だから俺たちがケリつけに来た。約束したし、俺のせいで産まれた化け物なら自分で殺さないといけない。これ以上苦しませたくないしな」


 お前みたいに、人間やめてまで殺しに行くか、怒りで頭の奥底まで真っ赤に染めて、殺されようが挑むか。

 決死の覚悟で挑むのも、間違いじゃない。力をつけてから挑むのも正解。

 

 正しい選択なんてものは一つじゃないし、間違った選択はそれ以上に転がっている。ここまでの旅で、漸く分かったことだ。


「この結論に至るまで、大分かかったよなぁ……」

「何言ってやがる……?」

「あぁ、気にすんな。俺の独り言だから」


 そう言うや否や、指輪から紅蓮を射出する。不意を突くつもりはなく、ただ殺す為に必要な攻撃だ。


 腕がないからといって、やることが変わる? そんなことがあるかよ。俺には近接戦闘しかない。

 分かりきったことじゃないか、気に入らないやつはとにかく黙らせて、後から考えれば良かったんだ。


「くっ……!? てめっ、いきなり!」

「油断してんじゃねぇぞお前ぇぇ!!」 


 刃は容易く避けられてしまったものの、避けた側からディーンが襲いかかる。短剣を振り下ろし、その刃が突き刺さる。化け物になったとはいえ、耐久面は変わっていないのだろう、苦悶の声が口から漏れた。

 すかさず追撃の為に駆け出すも、それよりも速くハルウスが動いた。


「あぁ、うざってぇなぁ……!」

「っ、がぁっ! クソっ、馬鹿力がよぉ……!」


 短剣が刺さった腕を、無造作に振るう。それだけの行為で、ディーンの体が宙を舞う。

 吹き飛んだ勢いで壁に激突したが、見たところダメージはそこまで深くなさそうだ。戦闘の継続は可能と見ていいだろう。

 そして、ハルウス。剛力は厄介だが片腕を振り抜いた今なら、問題なく殴れる筈だ。

 そう考えながら、走ると同時に握った拳に炎を纏わせる。


「でぇぇぇい!!」

「やっぱりてめぇを殺してからだよなぁ、弱いのは後からでも殺れんだよぉ!!」


 しかし、そう簡単にはいかなかった。巨体に似合わぬ俊敏な動きで、こちらの攻撃は容易く止められてしまった。

 焔が肉を焼いているにも関わらず、ハルウスは拳を掴み、離そうとしない。


「捕まえたぜぇ……!」

「相当イカれ……うぐっ!?」


 腕を掴まれたまま、膝が腹に叩き込まれる。咄嗟に強化した為、ダメージはそこまでない。しかし衝撃はどうしようもなく、酸っぱいものが口内へ昇ってくる。


 こみ上げてきたそれを飲み込み、顔目掛けて拳を振るおうとするも、馬鹿力によって大きく吹き飛ぶ。


「ちっ……面倒くさいことになりやがって!」

「逃さねぇよぉ!!」


 吹き飛んだ先にあった紅蓮を掴むと同時に、ハルウスが向かってくる。その勢いは最早人間とは到底思えず、猪が向かってくるような感覚だった。


 この勢いからして、回避は難しいだろう。なら、受け止めるしかない。片腕がないのが不安だが……やってやる。


「だぁぁぁらぁぁっ!!」

「ふっ飛ばしてやらぁぁ!!」


 向かってきたハルウスに、全力で刃を振り下ろす。だが、片手の力で抑え込めるものでもない。拮抗すらできずに、押し込まれていく。


「義手が壊れちまったのは残念だったなぁ! さっさと潰れちまえよぉぉ!」

「やなこった……!」


 しかし、このまま行けばずっと残る赤いシミになってしまう。それは避けねばいけないことだ。

 まぁ、まず死ぬような行動に出ること自体、避けなきゃいけなかったけど!


「まずご丁寧に相手する必要なんてなかったよ、なっ!」

「あっぐぅ!?」


 躊躇なく、目に柄頭を叩き込む。流石に目は人間のままのようで、目を押さえてその場で倒れ込もうとしている。

 ……さて、どうするか。どっちにしろ押し潰されるのには変わりがない。もう少し考えるべきだったな……


「本当に何も考えてねぇのかお前はぁ!!」

「うおっ……わり、助かった」


 視界の端でキラキラと光る糸が足に絡まるのが見えた途端、体がグッと引っ張られる。

 その後すぐに、ハルウスが壁に激突する音を耳で捉えた。あの腕輪を失ったのは少し残念だったな、使えればこんなにも便利なのに……


「突っ込むにしても、何か策を考えてからにしてくれよ」

「いてっ、悪かったって……」


 そんな話の途中で、ハルウスが立ち上がる。首の骨を鳴らしながら、こちらへ向き直ると、すぐに口を開いた。


「あぁくそっ……やっぱせめぇなここ……」

「それは残念だったな。俺たちには十分な程広いよ」

「まぁ、逃げ切れる程じゃねぇけどな」


 猪を思わせる突進、あんな速度を出された以上、逃げるのは難しい。やっぱり、ここで倒すしかないみたいだ。


 一度息を吐き、呼吸を整えてから紅蓮の刃をハルウスに向ける。体は万全じゃなくても、ひとりじゃない。

 なら、全然大丈夫だ。


「覚悟しとけよ、馬鹿野郎」

「俺たちを殺すのは、非常に難しいと思うぜ?」


 そう言い終えると同時に、ディーンが動く。魔力糸を巻きつけるべく、ハルウスに向かい進む。

 しかし、黙って捕まるようなやつじゃない。やつの自慢の、丸太のような腕を振るおうとしている。

 

「馬鹿がっ! てめぇなんぞ、吹けば飛ぶような雑魚じゃねぇか!」

「あぁ、俺は確かに弱いな?」


 振るわれた剛腕の軌道に割り込み、その腕に紅蓮を突き刺し、その場に縫い留めつつ踏みつける。

 悪いけど俺たち、チームなんだよね。


「っつぅ……!! 化け物がぁぁっ」

「おいおい、お前が言うなよ……」


 俺を退かそうと別の腕が振るわれるも、眼前でピタリと止まる。ディーンが既に、ハルウスの動きを抑制するように魔力糸を引いたからだ。

 ……ギリギリだったから、少し怖かったけどね。うん。


「くっ……卑怯だぞお前らぁ!!」

「うーん……まぁそうかもね。でもさ、一つ言っとくよ」


 お前が、言えた義理かよ。


 その言葉と同時に、紅蓮の刃から焔が放たれる。その焔が容易く腕、魔力糸を伝って、ハルウスの体を焼いていく。

 焼かれる痛みに耐えきれず、聞くに堪えない汚い悲鳴が響くが、聞き流していた。


 ……こいつは自分の意志で自分の仲間を殺した。俺は何でそうしたか、なんて聞きたくもないし、知りたくもない。


 でも、落とし前はつけないといけないよね?


「じゃあな、馬鹿野郎。地獄でも焼かれてな」


 燃える焔の中から、覗いている紅蓮の柄を掴み、引き抜いて、焔の塊から目を離した──

 その時、何かが背後から飛び出してきた。


「……っ!? なんだ……?」

「新手だ光牙! 何かは分かんねぇけど、気を抜くな!」


 焔は燃え続けていることから、ハルウスではないのは確かだ。しかし、それ以外の気配は今の今までなかった!

 一体どこから現れたのか、まるで見当がつかない……隠れる場所も、ないはず……


「……やっぱり、ダメだったじゃないか」


 その声がした方向に、ディーンと武器を持ったまま振り向く。

 そこには、全体的に黒い印象の少年が佇んでいた。

 

「父さんのいうこと、聞かないから……」

 そう言うと、華奢な腕が振るわれる。

その瞬間、濃密な死の気配を感じ、咄嗟にディーンを突き飛ばした。


「うわっ!? なにすんだよ!」

「ごめん、何かわからないけどあれはまずい!」


 全力で距離を取り、少年を睨む。何か分からないが、あれはヤバいとだけ直感や本能が告げていた。

 そして、変化が起きた。突然焔が音もなく消えていき、ハルウスが……いや、ハルウスだったものが顕になる。

 それはすぐにその場に倒れ、黒い灰となって消えてしまった。


「……なんだよ、あれ」

「分からない。分からないけど、敵だってことは分かる」


 こいつはヤバいと、警鐘が鳴り響いて止まらない。一挙一動に気を配っていないと、突然死んでしまうような気にもなる……なんなんだ、こいつは。


 少年は暫くハルウスの灰を見ていたが、こちらに目を向ける。それだけで、空気が重くなる……が、少年は背を向けた。


「着いてきてよ。父さんのとこに案内するから……君の仲間もそこに、いるよ」

 


 

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