表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/198

侵入、ムクロの館

 すぐにムクロの館に侵入したが、異様な程に暗かった。霧があるとはいえ、まさかここまで暗いとは……

 

 辺りを見れば、ゲームで城によくあるような鎧が多数見つけられた。だが、何かを勢いよくぶつけられたのか、殆どがへしゃげて使い物にならなくなっている。


「ボロボロじゃないか……」


「まだマシだろうよ、あんな化け物を放し飼いにしてる割にはさ」


 マナの言う通り、個体にもよるがあのバケモノが歩き回っているのにも関わらず、この被害ならまだマシなのだろう。

 最も、どの程度がマシなのかはわからないが……まぁ、命があるならマシだろうな。


「皆さん、そこに……」


「……長か? この人。何か派手な色してんなぁ……」


 雛が俺達を呼ぶ。そこには亡骸が転がっていた。顔が潰されており、誰なのかは判別できない為、服で長なのだろうと判断した。

 しかし、幾ら何でも派手すぎるだろ! なんだその装飾は……! 今時流行らねぇよそんなピカピカしたのは!


「趣味悪いねこのおっさん、碌な奴じゃなかったんだろ?」


「あぁ、金は毟って自分だけ楽しんでいたよ。死んでくれたのは有り難いね、せいせいするよ」


 ディーンとマナの会話からも、碌なやつじゃなかったのだろうと検討がついた。人から判断するのはあまり褒められたことではないが、まぁ……正直なところ、間違いではないだろう。

 でなければ自分の服に悪趣味で華美な装飾なんて施さないだろうし。


「全部終わったあと、弔ってあげましょう……」

 

「そうだね、火葬でもいい気がする」


「その時は派手に焼いとくれよ」


 その後、亡骸を壁際に置き、見えないことを確認すると再度進み始めた。顔もわからないが、まぁ敵討ちにも含まれるだろう。

 というか、ここまで来てほっぽり出せるわけもない。


─────────────────────


「いやね、あんまり言いたくないんだよ? 仮にも故人の言えだしね? でもさぁここ……広すぎんだよっ!! 使ってねぇ部屋あるだろこの調子だと!」


「ちょっ……静かに! バレたら面倒だろ!?」


「ここ自体が面倒だろ既に!」


 ここには余程の金をかけたようで、異様な程大きく、使用されてない部屋が多過ぎた。おまけに何かと入り組んでいるため、時間だけが過ぎていく。

 ここを作った奴は、自身の権力を周りに示すのに躍起になっていたのだろう。全く、面倒なことをしてくれるよ……


「とはいえ、進まないと……」


「どこに進む気だよ?」


 突然、聞き覚えのない声が聞こえ、皆が臨戦状態に入る。マナのものでもなければ、ディーン、雛のものでもない。

 突然、第三者の声が響いたのだから当たり前だ。敵か味方か、決して分からないのだから。


「どこにいる……?」


「最初から上にいるよ」


 その声と同時に天井から、人が降って来た。人と限りなく近い肌の色をしているため、一瞬ムクロではないと考えてしまったが、それは間違いだろう。

 

 右腕に、人間ではあり得ない程の魔力を収束しているからだ。落下の勢いを利用し、振り下ろすつもりだろうが、そうはさせない。


「っ、はぁぁぁっ……!」


 目の前の奴がやっているように魔力を腕に集め、振り下ろされた拳に向かい振り上げる。車を真っ向から受け止めたような衝撃が走るが、それを無視して拳を振り抜いた。


 襲撃者は吹き飛ぶものの、重力に逆らい天井に着地してから立ち上がる。


「おっ……! 力負けするとは思わなかったよ」


「そりゃよかったね……ここがお前の墓になるだろうけど、いい?」


「何言ってるんだよ、お前たちを殺すのが僕の仕事さ」


 まぁそうだろうね。それにこいつが何かわからないのも正直困る。まぁ……見張り役か見回り役かといった違いだろうし、そんなことはどうだっていい。


 確かなのは、倒さないと面倒なことになるということだ。


「うーん……でも4人かぁ……」


「4人だと何か問題でもあるんですか?」


 雛が矢を引き絞る。やじりを向けたままで、動けば射ると目で語っていた。

 にも関わらず、目の前のやつは行動を起こした。


「いや? 僕は複数人相手なんてしたくないからさ。どうしたものかと思ったけど……うん、こうしちゃおう」


 そう言うと同時に、周りから皆の気配が消えた。

 あいつは何も動いてなかったのにも関わらず、俺だけここに残して他の奴らを転移させたようだ。面倒なことをしてくれる……


「っ……ディーン! 雛! マナっ!!」 


 皆の名を叫ぶも、返事すら帰ってこない。どうやら、相当遠くにいるらしい。こんなだだっ広い屋敷で、合流も難しいとなると……厄介なことをしてくれたものだよ、本当に!


「安心して、別に消してしまったわけじゃないよ? 他の部屋とか、そういう場所に送っただけさ」


「皆は、どこにいるんだよ?」


「さぁね? 適当に飛ばしたから。ここにいることは確かだけど」


「それだけわかれば充分だ、くたばれ」


 魔導銃を引き抜き、天井の敵に向けて引き金を引く。相手は放たれた弾丸を容易にに避けつつも距離を詰めながら、先程と同じように魔力を収束している。


 遠距離からの攻撃はそこまで決定打になりえないのなら、斬るしかない。そう考えると魔導銃をしまい、紅蓮を引き抜くと自身も距離を詰める。


「へぇ、距離つめてくるんだ……」


「弾が当たるんなら、話は別だったんだけどね!」


 ムクロの顔を紅蓮の刃が掠めると同時に、奴の拳も振るわれる。当たれば致命的な隙を晒すことになるだろうが……


「く、おっ……!!」


「ありゃ……避けられちゃった」


 姿勢を崩すことで、頭の上を拳が通過する。どんなに重い攻撃も、当たらなければ問題ないしね。


「だいたい一発で終わってたんだけどな……残念。あっ、名前教えてないね。僕はマシロっていうんだ」


「お前に教えたくないし、覚えるつもりもないよっ!」


 会話をそこで切り上げ、全力で床を蹴る。マシロは拳を再度構えるも、それよりも俺のほうが速い。

 すれ違いざまに紅蓮を振り抜き、右腕を斬りとばした。振り返ると、斬り飛ばされた傷口を押さえながら、地面でのた打ち回っている。


「がぁぁっ……!! ……なぁんてね」


「はぁっ……!?」


 苦悶の表情がすぐに消え、腕を放した瞬間だった。傷が、みるみる回復していく。切り飛ばした腕も、数秒あれば生えてしまった。

 なんて再生力だ……! これじゃ、相手するのも大変だ!


「再生能力には自身があるんだよ。にしても、腕を斬られるのなんて久々だなぁ……」


「……痛みは、ないのか……!?」


「痛み? あー……斬られたときだけだね、今はもう……」


 そこでマシロの姿がブレ、目の前からかき消える。すぐに辺りを見回すと、俺の頭上に、拳を構えてながら落ちてきていた。


 紅蓮の刀身で拳を防ぐも、ムクロが持つ剛力のせいで膝をついてしまった。ムクロには全て、強い筋力が備わっているようだ。


「ぐおぉぉっ……!!」


「やっぱり腐っても龍人だね、潰れないんだもの」


 ムクロが飛び退き、紅蓮が軽くなると同時にその場から立ち上がる。その場から離れようと脚を踏み出した時だった。


 何かが、軋むような音が足元から聞こえた。


「あっ……やっちゃったかも……」


「おい、なにか知って──」


 言い終わるよりも早く、足元の床が割れ、少しの浮遊感と共に落下が始まった。さすがに、ムクロの力に耐えられるような作りではないらしい。


「加減の知らない、馬鹿力め……!」

 

 翼を広げてその場に滞空していたが、背中に何かが飛び乗ってきて、少し高度が落ちてしまう。


「ここじゃ狭いし、下に行こうよ」


「何言って……うおぉぉぉっ!!」


 声が聞こえたと同時に、足を掴まれ体が勢いよく落ち始めた。マシロはこのまま落ち続けようとしているのかしらないが、足を掴んだまま落下していく。


「お前、ふざけんなっ……!」 


「あははっ! まだ遊び足りないだろ!」


 無邪気に笑みを浮かべるマシロを見て、まるで子どものようだと思いつつ、俺の体は館の地下へ落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ