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攻勢。

ハルウスが暴走し、ムクロ側についたことが分かった次の日の朝。朝早く目が覚めてしまい、一応、リアムの様子を見ておくことにした。


「リアムー、大丈夫かー? お前がそう簡単に壊れるような輩じゃないとは思うけど」


「……うん、問題ないよ」


 あっ、駄目だこれ。誰がどう見ても痩せ我慢してるわ。目は赤く腫れ上がってるし、一日泣いたりしていたのだろう。

 それに、周りに何かの残骸が散らばっている。


「……大丈夫そうには見えないって?」


「はっきり言っちゃえばそうなる。でもそれが当たり前だろ、家族だぞ? 仲も悪くなくて、それが殺されたとなればそりゃ悲しいわ」


 俺は親父以外、家族とは思えなかったけどさ。


「そっか……なぁ、光牙。ちょっと相談があるんだけど」


「俺にできることなら手を貸すよ。それでなんの相談?」


「ハルウスを見つけたら、できるだけ僕に会わせないようにしてほしい」


 そう言ったリアムの顔は、強い苦々しさを感じさせた。自身じゃ敵わないということが分かっているのだろう。しかし、それだけではないと思えた。


「別にいいけど、何でだ? 殺したいんじゃないのか。君が、その手で」


「そうだね。出来れば、この手で殺してやりたい。でも僕じゃ敵わないんだ。見つけたら、誰が戦ってようがきっと飛び出してしまうから」


 自身が足手まといになることまで考えたのか、この子は……怒りを必死に飲み込める子供なんて、今日まで会ったことはなかった。

 自分なら、こう考えられただろうか?


「……分かった。守る側が殺す側にならないようにするよ」


「守るやら、殺すなんて言うのもおかしな話だけどね。僕達はある意味、生存をかけた殺し合いをしてるわけだから」


「あぁ、そうだな……代わりに敵討ちはしてやるから、代わりにここ護ってくれ」


 リアムとの約束。代わりに敵討ちをするというもの。それに、あれは俺が原因でもあるんだ。

 だから、元々そのつもりではあったんだ。今は絶対にやらねばならないことだと思う。


「約束だからな、頼むぞ」


「分かってるよ。自分じゃ力不足だろうけど、その時は人の力も借りるようにする」


「十分、それができないのが俺だから」


 言ってて悲しくなるよ。治さないといけないのは、分かってるんだけどね……?


「じゃっ、行ってくる」


「うん、頑張って」


 そこで話は終わり、リアムの使っている家から外へ出る。

 敵討ちもそうだが、さっさとムクロ騒動を終わらせると、決意を胸にして。


───────────────────


 そのまま、少数で出発して少し経った。不気味なほどムクロには出会うことはなく、誰も怪我を負わずに辿り着くことができた。が……


「大きいですね……霧のせいで、見えなかったとは思えないほどに」


 そう、馬鹿みたいに大きいのだ。権力の象徴だかなんだか知らないが、こんなものをよく建てたものだ……

 前世の高層ビルほどではないものの、他の家と比べてしまえば、その大きさは桁違いだ。


「マナ、俺達はあのデカいやつに突っ込めと。そういうことだな? にしては、その……デカくねぇ?」


「あぁ、町長さんが使ってた屋敷だからね。全く、金だけ持っていきやがって……」


 俺たちは、ムクロの発生源になっているだろう屋敷の前にいる。それが、目の前に見える灰色の屋敷だ。


 最も、マナの言い方から判断するに碌な奴ではなさそうだけど。


「……隠蔽(ハイド)使った方がいいんじゃね? 真っ向から入ろうとすれば流石に」


「いや、もう多分バレてるんだろ? なら……」


「ちょっ……光牙さん?」


 ディーンの話を途中で止め、扉の前まで歩く。雛が何か言いたそうだったが、まぁ今は静かにしててもらおう。


 これも早く終わらせるためだから。そう思いながら、目の前の扉を全力で蹴破った。バキィッ!と音を立て、扉が勢いよく開く。鍵がないならまぁ、この手に限る。

 

 マナは突然のことに放心していたものの、すぐに立ち直ると叫んだ。


「はぁっ!? お前、バカかよぉ!?」


「もう考えるの面倒なんだよ、鍵かかってるならもう壊す方が速いし」


「そうだった……脳筋地味たとこあるんだった光牙さん……」


 これが一番速いんだからいいだろ? なんて考えていると、何かが近づいてくる。響く足音からして、結構デカい……!


「来るぞっ!」


「いや、マナ……なんで隠れて……」


「生憎戦闘じゃアタシは足手まといだ! ディーンが正直異常なんだよ!」


 物陰に隠れながらそう言うマナ。確かに人間相手なら、彼女の身体能力でなんとかなるだろう。しかしムクロはそれだけじゃどうにもならない。一撃一撃が即死するような攻撃をしてくるのだから。


 ……寧ろ今まで、どうやって防いでいたのだろうかと感じる。


「取り敢えず……! こんにちは、そしてくたばれっ!!」


「グオ───」


 ムクロが叫ぶよりも早く、飛びかかる。大きく開いた口を無理やり閉じさせると炎を纏わせた拳を叩き込み、地に伏せさせた。二人もそれぞれの武器を構えているが、今回は必要ないだろうと考えながら、地に伏せたムクロに目をやる。

 

 襲撃してきたのは、口だけ異様に巨大で、細い4つの足で支えているムクロだった。こいつは化け物でも、人間のような形でもない。人の手で作り上げられてしまった怪物……


 こいつを一言で表すと存在してはならないもの、というものが一番適しているだろうか? それなら……

 

「存在も、なかったことにしてやらねぇとなぁ!!」


 右手を龍のものに変化させ、鉤爪を深く突き刺すと同時に、内部を炎で焼いていく。

 激しい痛みが体を襲い、ムクロが腕を振るって攻撃してくるが、そんなことはお構いなしに更に力を込め、深く突き刺していく。


 次第に、苦悶の声も掠れていき……そこには灰だけが残った。その灰も、すぐに風に煽られてどこかに飛んで行ってしまった。


「……激しい火葬になっちまった」


「まぁ……進めるからいいんじゃね? 次は突っ走るなよ」


「肝に銘じとく。じゃあ、進もう」


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