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疑惑

「ハルウスがそんなことを?」


「あぁ、アイツマジで頭イカれてんじゃないのかって思いましたよ。元からあんな感じだったんですか?」


 すぐに、ハルウスの様子が何処かおかしいことをレオパルドさんに報告した。ディーンはそこを見ていなかったようだが、あれはどう考えたって普通じゃない。

 

 目は口ほどに物を言うとよく言うが、まさにそれだった。何かに憑かれてるような、ただ単にイカれてしまったのか。


「元から力には人一倍執着があったけど、そんなことは言わなかったと思うけどなぁ……」


「私もリアムと同意見です。弱い者には厳しく、強者にはへつらう小物でしたが……そんなことはしない方だったはずです」


 小物って……まぁ、あれなら納得の評価だ。大した実力もないのに、自身の意見を押し通そうとした時点でお察しだ。


「……きな臭すぎて、逆に味方までありそうなのがなぁ。ま、危険分子だと思っておこう」


「俺もそう思うよ、ディーン。マジで分からん……」


「ハルウスが裏切りを?」


「確証はな……待って誰だ今の」


 突然第三者の声が響いた。周囲を見回し、そこにいた人物を目で捉える。


「なんだ、マナさんか……」


「わり、つい口を挟んじまった。で、確証はないんだな?」


「今のところは、って感じだけどね。正直、ただ絡んでくるだけなのかもしれないけど」


 本性はわからないし、そこまで強くなさそうだし。取り敢えず疑いをかけておくのが一番だ。

 疑わずにいて痛い目に合うよりかは、よっぽどマシだろう。

 そう結論を出すと、マナの提案によりがここらで一晩明かすことにし、近場の家を借りることになった。ただ……


「……野営っていうより、盗z」


「止めろ、考えちまうでしょうが!」


─────────────────────────


 ……何の音だろう。何か、こちらに寄ってきているのか? 微かに木が軋むような音を捉え、目が覚めた。

 

 最初は起こさないようにしているのかと思っていたが、違うみたいだ。真っすぐにこちらに向かってくる。


「……早速かな?」


 寝たふりをしながら、こちらに寄ってくるのを待つ。武器を取り出せないのが少し心許ないが、そこは仕方ない。

 

 足音がすぐ近くまで近付いた時、目を僅かに開く。蠟燭すら持たず、顔を全て隠している。手には短剣。

 

 これは……もう黒だろう。敵だ。


「こんな夜遅くに何の用?」


「っ、起きて……がはっ!?」


 上体を起こすと、心臓の辺りに刃を振り下ろそうとしてきたが、それよりも早く首を義手で掴み、魔導銃を抜く。


「武器を捨てて。そうすればこっちも物騒なもんしまってやる」


「……誰がっ……やるかよっ……!」

 

 しかし、相手も簡単には従ってくれないらしい。義手を掴み、離させようとしている。

 それなら仕方ない、どちらが有利か教えてやろう。首を掴む手に少し力を入れ、気道を狭め始めた。


「くっ、かはっ……!」


「もう一度言う。武器を捨てろ。捨てなきゃ……後は分かるだろ?」


「わか、った……」


 そう言うと短剣が手から離れ、床に落ちた。それを遠くに蹴飛ばすと、魔導銃を仕舞って首を離す。

 襲撃者は床に座り込み、息を整えつつこちらをギンと睨みつけて口を開いた。


「お前っ、死ぬかと……」


「誰がお前なんて殺すかよ。情報吐いてけ」


 しっかりと服の裾を踏みつけ、逃さないようにしてから火花の刃を突きつける。襲撃者は少し狼狽えながらも、その刃を首に押し付け、こちらを見据えた。


「……死ぬ覚悟は出来てるって? やめなよ、お前の主はお前がどうなったって……」


「分かっている。アイツが俺のために動かないなんてこともな。それでも俺はあいつの為に動くぞ」


「……そうか。残念だよ」


 火花を押し込もうとした時だった。そいつの服についていた赤い染みが、この時始めて目に留まった。


「っ、お前誰か殺してきたか……?」


「は? あぁ、一人の男を……」


「そうか、分かった。お前を殺すのは後回しにしてやる」


 顔の中心に、義手の拳を叩き込む。男は反応すらせずそれを受け、脱力した。バキリと音が聞こえたことからして、鼻は折れているだろう。


 魔力糸で一回縛り上げると、柱に括り付けてからまた眠りについた。


────────────────────────


「……首を一突きだ。即死だろうな」


「……人間同士で殺し合ってる場合かよ、バカ野郎」


 次の日、襲撃者を突き出した。人が集まって来たが、ここで起きてこなかったのは、レオパルドさんのみ。


 被害にあったのは、彼で間違いない。こんな状況でもいがみ合うしかできないのが、非常に腹立たしい。

 

 今はマナがあの手この手で情報を引っ張り出そうとしているが、望みは薄そうだ。


「あの爺さん、くたばったのか?」


「ハルウス……あぁ、首を一突きだってよ」


 今更何なんだこいつは。そんな薄ら笑いを浮かべて何をしたい。人が死んだというのに。


「怖いねぇ、俺達の首を狙ってんのかもよ? どこかの化け物共と同じように」


「その汚い口を閉じてろ木偶の棒」


 あまりの言い分に、つい刃の先を突きつけていた。

 しかし、それでも狼狽えることなく口を開き続ける。


「死ぬのが悪いだろうが、こんな敵地の中でよう。迷惑だぜ本当」


「……お前、何なんだ?」


 思った以上に性根が腐ってるというか、小物っぽいというか。何でこんなに絡んでくるのかまるでわからない。


「何でもねぇよ、じゃあな」


 言いたいことは全部言ったというように、離れていく。去り際に何か言っているようだったが、聞き取れない程小さな声で、距離が離れていたことで聞き取れなかった。


「ハルウスのやつ、最近何か変だな……」


「あぁ。死ぬのが迷惑だなんて言いやしなかった。しかも亡くなったのはレオパルドさんだぜ? 世話になったこともあるだろうに」


 周りからも変わったように思われているらしい。また、今のハルウスは単独行動が多くなっているようだ。つるんでいた仲間とも離れて戦っているらしい。


「……黒でいいだろもうこれ」


「待て、流石に怪しいのは分かるけどよ」


 紅蓮の柄に手を伸ばしかけた所に、ディーンが飛びついて抑え込まれた。危ない危ない、最近すぐ剣を抜くようになってしまった。


「このことはマナに報告するか、リアムに教えるぐらいでいいだろ!? 殺しにかかるなバカ野郎!」


「あー……そうだね。雛も呼ばねぇと。何か嫌な予感がする」


 ハルウスが何を企んでいるのかは知らないが、取り敢えずは話をしに……


「出やがったぞ、ムクロだ!」


 ……どうやら相手さんはそれすら許してくれないらしい。周りが武器を取り、走り出す方向に向かい、二人で走り出した。


───────────────────────────


「ギャッハッハッ!! どうしたよ、そんなもんかぁ? 弱いなお前ら!」


「クソっ、今までの奴らとは違いすぎる……強いぞ!」


 辿り着いた時には、既に戦闘は始まっていた。丸太のような太い腕を振り回すだけで、周囲の兵が吹き飛んでいく。

 魔力糸を使った接近も、糸を掴まれ、振り回された挙げ句に地面に叩きつけられて人体が赤い染みへ変わる。


「また知性持ち……? 面倒なことになりそう」


「いいから行くぞ! 光牙、お前と雛、人外組が暴れられるように皆下げてやるから、存分にやってこい!」


 それだけ言うと、ディーンは人間達の元へ向かって行った。話をつけたのか、すぐに兵が距離を取っていく。こういう時、話が早いのは助かる。

 後はディーンが言ったように、暴れてやればいいのだから。


「じゃ、まずはご挨拶と」


 ムクロに対して魔力糸を伸ばし、向かって飛び出す。腕に何か着いたことに気が付くも、もう遅い。


「ふんっ……!」


「がば……っ! 漸く来たか化け物め!」


 腹部に拳を叩き込んだが、そこまで堪えていないようだ。すぐに距離を取って、振るわれた拳を避けた。しかし、化け物とは。酷い言い草だ。


「お前もだろうが、化け物」


「ガハハッ、そうだなぁ! 人間相手は飽きたんだ、お前を殺させてもらおうか!」


「生憎、殺される予定はないよ」


 紅蓮を引き抜き、刀身に焔を纏わせムクロを睨む。

 知性を持ったムクロは正直言って面倒な印象だが……何とか、倒してみるとしようか。



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