話し合い
「えぇ、私達はムクロの本拠地……最も大きな建物に向って、本拠地を叩きます」
「……防衛は捨てるのか?」
レオパルドさんの言葉は、今の俺達にとって人間側の決定に等しいものがある。聞き逃してしまうことがないように耳を傾ける。
「いえ、一部の精鋭達で叩きます。私とリアム。龍人のお三方にリザードマンの彼、ディーンさん。私達側は、これだけです」
ルージュも戦うことを求められているようだ。しかし、彼女の兵は動かさないのだろうか? あれだけの量が動けば、被害は……
「ルージュさんの兵は防衛に回すんですね?」
「えぇ、あれだけの量を、ルージュ殿が戦いながら指揮するのは難しい。それに、あまりに大人数では気付かれてしまいますからね」
雛と、図らずも俺の脳内での質問に答えてくれた。それはありがたいのだが、疑問が残った。何故、少数で叩くのだろうか。大人数で落としに行った方が、ずっと楽な気がするのに。
そう言おうと口を開こうとするが、それより速くレオパルドさんは話を続けた。
「大人数で動ける通路は、正直殆どがムクロの群れに覆われていますからね。だから、私達は正面から、少人数で相手してやろうということです」
彼は、目に闘志を燃やしながらそう言い切った。あそこまで、やり遂げるぞという意志を感じたことはない。
……しかし、いくら少人数と言えども。この人数では少なすぎるよ。この人数じゃ、いくらなんでも、勝ち目はないと誰もが言うだろう。
「……最も、本当にあの人数で斬り込むわけじゃありません。数人男たちを連れていきます。龍人の皆様にとっては受け入れがたいことでしょうが……」
「そうじゃなきゃ進めないんなら、俺は受け入れるよ。心底面倒くさそうだけど」
できるだけ面倒は避けたいけど、仕方ない。自身の自制心を鍛えるのにも役立ちそうではあるし、どうしようもないわけじゃない。
「ありがとうございます……では、今からその出立地に向かいます」
「今からか!? 早いなぁおい……」
あまりの速さに、ディーンが驚く。確かに速いが、こうしたのは速い方がいい。逃げられても困るし、これ以上の敵を生み出される前に、原因を絶ちたい。
「行きましょうレオパルドさん、終わらせなきゃいけないんです」
俺の言葉を聞いて、レオパルドさんが歩いていく。その後に続き、俺達も歩き始めた。
集合地点に向かうまで、人の視線が集まって鬱陶しいことこの上ない。でも、これが俺達亜人の現状だ。
そう理解してしまえば、彼らが俺たちに視線を向けるのも仕方ないことだし、理解もできた。
だからといって、敵陣で斬るべき相手の区別がつかないようなら……まぁ、仕方ないよね。
その時は、容赦なく斬るしかない。死にたくないから。
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「俺は反対だ! 化け物と一緒に戦えるか! ましてや手引きしてるかもしれねぇんだぞ!」
「彼らはそんな様子を見せたことはありませんよ、落ち着いて下さい。戦力は多い方がいいでしょう?」
「人間でもいいだろうがって話だ! 誰が亜人なんかと……」
視線を無視しつつ、集合場所に辿り着いた。けれど、先程も噛みついてきた男が、自論を展開して話が進まない。周りも同調しているか、うんざりしているようだった。
しかし、こうも長々と講釈垂れてると流石に飽き飽きしてくるな。怒りより先に呆れから溜息をつく。
「あぁ……? 何だてめぇ……!」
「おっと、思ったより目敏い……仕方ない、長々と話してるのも無駄だから端的に言わせてよ」
ったく、変なところで目を向けやがって。まぁ丁度いいから、たっぷり言わせてもらおう。
「幾らなんでも視野が狭すぎるんじゃないの? こんなとこで持論ベラベラ喋ってる暇があるならさ、さっさと決めなよ人間様」
「ちょっ……!?」
隣で雛が驚いた声を出している。だがこれぐらい言わせてくれよ。
どうせ次は殴りかかってくるんだから、こういうのは。
思った通りに拳を握り、それを振りかぶったのを見て、懐から火花を引き抜いて突きつけてやる。
「うあっ……おいおい、冗談だろうが」
「冗談ならもっと分かりやすくやってもらいたいとこだね。面白くない冗談なんて意味がないんだからさ」
「てめぇ……痛い目見せてやらぁぁ!!」
火花をしまおうとした途端、拳が振り下ろされた。右頬を強かに打ち据えたが、こんなものか。それほど痛くもないし、図体だけでかいウドの大木のようだった。
「はぁ……やっぱかぁ……弱いよなぁ……」
「あぁ……!? てめぇ、何を言ってやがる!」
ただ喚き散らす弱いヤツに、何を言っても無駄だった。気は進まないし、更に印象は悪くなるが仕方ない。
腕の一本、覚悟してもらおう。
「左腕、調子はどうだい?」
「左腕がどうしたって……!? うっ、うあぁぁぁっ! 腕がっ……!?」
話している最中に、刀を抜いて斬り落としておいた。男は斬られた腕を押さえながら地面を転がり、痛みによって情けない声を上げている。
幾ら何でも、痛みに対する耐性がなさすぎる。これじゃ、すぐ死んでいただろうな。
「っ、て、てめぇ……!」
「お前のせいでまた奴らが来たらどうすんだよ、間に合わなくなるだろ」
ただでさえ、こんなところでゆっくりしる場合ではないのだから、余計にだ。
まぁ、やりすぎた感はあるけど……
「安心しなよ、回復魔法とかかけてもらえば、血は止まるだろうから」
そう言いながら、刀をしまう。その間も、男は痛みに耐えながらこちらを睨んでいたが、刀を仕舞った途端に直様立ち上がる。
「……《ハイ・ヒール》」
そう唱えた途端、滝のように流れていた血が止まり、綺麗に切断された痕が出来上がった。
「回復魔法……いいなぁそれ」
「てめぇ……このハルウスの腕一本はでけぇぞ……!!」
そう言いながら、隻腕の男……ハルウスは大剣に手をかけた、その瞬間だった。
「いい加減にしろっ!!」
「えっ」
こちらも刀を抜こうと手を伸ばしていたが、ハルウスが目の前からいなくなったことにより刀を握ることなく空を切る。
「お前はいつだってそうだなぁ!? すぐ輪を乱すよなぁ!! 亜人が嫌いなのは知ってるが今回は抑えろと言ったよなぁ!? それなのに挑んで腕失くすとかっ……! バカかよ、あぁ!?」
「ちょっ、まっ……へぶっ!?」
声のした方向に顔を向ければ、ハルウスはすぐに見つけられた。しかし気の毒になるほど殴られている。
これだけ殴られていると、少し可哀想に思えてしまうな……
「あっ、あのー……その辺でどうですか……?」
「あ゛? ……あー、そうだな。ん、そうしよう。でだ、ちょっとすまんな……!」
疑問に思うよりも、何かを言うより早く、体が後ろに吹っ飛んだ。頬が痛むことから、殴られたのだろう。
それにハルウスの拳よりも、ずっと痛かった。
「悪いな、あんたをぶん殴りたくはないが、あんたもあんたで何してんだって感じだったからね」
「ぐうっ……! あぁ、まぁそうだな。このあと仲間にシメられそうだ」
「シメられとけそれは。アタシもあのバカをシメたんだから」
どうやら、この女性が元締めのようなことをしているらしい。ぶん殴られた後、周囲の視線は消えてはいないものの、ぐっと減ったことから判断したが、どうなんだろうか。
「おっと、名乗ってなかったな! マナ・フィンリーだ、よろしく」
「俺は白天光牙。後で挨拶に行く」
兎も角、ボス格に会えた。今は、これから来る説教を何とかすることを考えよう……
……ちょっと怖いな、うん。