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疑心

 ムクロが構えるよりも速く、地面を蹴って弾丸のように前に飛び出す。龍人の脚力に、魔力による身体強化。思ったよりも力が強く、自分でも制御できないまま飛び出した。

 勢いを殺す間もなく、ムクロの横を通り抜けて壁に激突する。

 

「やっば……! 速すぎる……!」

 

「やはり自分自身のスピードを制御できていないようだな!」


 自身の上にある瓦礫を押しのけながら立ち上がると、ムクロの声が上から聞こえる。声の発生地点に向け、刃を突き出すも掠りすらしない。

 咄嗟に刀を放棄し、その場から飛び退くと、ムクロが俺のいた場所を踏み潰した。


「あぁ、特訓の時も人間偽装したままだったから制御効かねぇんだ……でもお前とやってるうちに慣れるだろうよ」


「それは大した自信だ、なっ!!」


 ムクロが、全力で地面を蹴る。だが、こんなものか。まだ蜥蜴侍の方が速かったぞ。

 

「はぁっ!」


「ぐおっ……!? 中々効くな……」


 タイミングを合わせ、腹部に拳を叩き込んだ。しかし、全く効果はないようだ。腹からでもダメージは与えられるが、決して致命傷にはならない。


 手っ取り早いのは、頭部を砕く、首を斬る……中から焼く……手段は多々あれど、まずは制御ができなくては。


「あぁ、難しいなぁこれ……」


「うぉぉぉっ!!」


 振るわれるムクロの腕を義手で受け止める。ガキンと音が響き、ズシリとした重さが全身にかかる。


 確かに攻撃はそれなりに重い。だが……重い一撃だけなら、他にもいた。全く耐えられないわけじゃないし、どちらかといえば軽いものだ。それなら後は容易い。

 軽々とムクロの腕を押し返し、体勢を崩させる。


「なっ……効いていないのか!?」


「悪いね。もっと重い攻撃、山程受けてんでなっ!!」


「がはっ!?」


 ガラ空きになった胴体に、魔力強化を施した蹴りを叩き込む。それだけでムクロの巨体は面白い程に吹っ飛んでいった。雛が追撃として矢を放ち、爆発を起こす。


 煙の中から、奴はよろよろと立ち上がる。ここで決めてやろうと、体勢を整えるよりも速く直様距離を詰めていく。

 奴も気付いたようだが、もう遅い。


「どっせぇぇぇい!!」


「ぐっ、あぁぁっ!? 貴様ァ!!」


 顎を蹴り上げた途端、余裕がなくなって来たのか声を張り上げている。しかし空中にいる今なら、そこまで機敏には動けないだろう。それなら、吹き飛ばしてしまおうか。


 右腕に義手を添え、右腕に魔力を集中させる。すると、掌の先に火球が作られていく。火球が段々と大きくなっているのを見て、ムクロが目を見開いているが、そんなとこじゃ何もできないだろ?


「塵も残さず、吹き飛びやがれ」


 そう言い終えると同時に、特大の火球が放たれた。それと同時に、一瞬腕に鋭い痛みが走る。流石に流れを集中させるのは負担がかかるみたいだ。

 放たれた火球は空に浮かぶムクロを容易く飲み込み、どんどん空高く登っていく。


「あぁぁぁっ!! おのれぇ……! 耐えきった時が貴様の──」


 何か言っているが、もう何も聞こえやしない。それだけ遠くに登った後……辺りを照らす爆発が起きる。


 少しして、黒く焼けたムクロが落ちてきた。すぐに身構えたが、立ち上がることなく、灰になって消えていった。


「ふぅ……焦ったぁ……まぁ、まだ終わんないよね。雛、他の援護に行こう」


「……光牙さん、腕を後で見せてくださいね?」


「えぇ? 何ともない……けどなぁ……」


 ……バレてたわ。


────────────────────


 結局あのムクロ以外は、強い個体は存在しなかった為、普通に狩ることが出来た。でも、犠牲は出てしまったのが非常に心苦しい。

 あのムクロがなんだったのかは分からないけれど、これだけは言える。


 この街に、安全な箇所はもうなくなった。どうすればいいのか、話し合うにもこうも雰囲気が暗かったらいい案も出ない。


「……奴らが活発になったのは、龍人共が来たからじゃないのか?」


 顔の半分を包帯で覆った男が、突然ポツリと言った。その言葉に反応するように辺りがざわめく。おいおい、勘弁してくれよ……


「俺達が来たから?」


「そうとしか思えねぇよ、奴らが突然活発になったのはここ最近だしな」


「考えすぎだよ、偶然だ」


「っ、バケモンの言うことなんか信じられるか!」


 頭に怪我を負っているのにも関わらず、こちらに不信の感情をぶつけてくる。

 ……やめろ、やめてくれ。


「バケモン同士で、俺たちを殺したかったんだろ!? なぁ!?」


「……違うって言っても、信じてくれないだろ。アンタは特に頭が固そうだから」


「てめぇ……!」


 襟首を掴まれ、怒りで赤く染まった顔を寄せられる。

 怒りで頭が支配されてるなら、仕方ない。流石に殴られてやる程お人好しじゃないからな。

 そう思いながら、襟首を掴む手に手を伸ばしかけた時だった。


「何をしてるんだ、お前!!」


「……っ! リアムの野郎か……」


 リアムが魔力糸を、襟首を掴んだ手に巻き付けて叫んだ。次第に手が開かれ、襟を整えながら距離をとると、魔力糸が解けて消えていった。


「戦力は多い方がいいんじゃなかったのか!? なんで数を減らすような真似を……」


「龍人なんざ奴等と同じだろうが! 俺等には分からない暗号か何かでやり取りしてるんだろうよ!」


「あのさぁ……こいつにそんなことできたら、馬車取り返してとっとと抜けてるさ。ルージュって奴も……」


「う、うるせぇ! 兎に角俺は、お前ら龍人をさっさと追い出せって言いてぇんだよ!」


 言いたいことを言ってから、その男は去っていった。周りにいる人に目を向ければ、目を逸らすか、疑惑の目を向ける人がほとんどだ。

 自分達も、同じように戦っているのにも関わらずだ。


「ごめん……じいちゃんが呼んでたから、呼びに来た」


「……そうか。ありがと」


 感謝を伝えてから、レオパルドさんの家に向かう。

 リアムも何があったのか知らないが、何だか前よりは刺々しさがない。前だったら喜べた変化も、今は全く響きやしない。

 今は、正直言ってキツい。誰にも理解されないとか、そんなもんじゃないけれど。

ただ単に、人の認識を自分が認識できちゃいなかっただけだ。


「……そういや、お前はなんで急に態度を変えたんだよ」


「あ? あー……一緒に守ってくれてる奴を、疑うのが馬鹿馬鹿しくなったんだよ」


 そう言いながら、真っ直ぐ歩んでいく。その後を追い、家に戻ろうと歩き出す。

 帰るまでに、人間が俺達龍人に向ける感情を理解できちゃいなかったということが、頭の中をぐるぐる回る。


「……同士討ちするなら、俺等のいないとこでしろってんだ」


「……っ」


 去り際、耳が捉えた言葉。誰が言ったかも分からない言葉。

 その言葉を、歯を食いしばって聞き流しながら、その場を去った。


 そうしなきゃ、間違いなく感情任せに動いただろうから。


─────────────────────


 呼ばれたものの、まだ彼は会議。といっても、人間の意見をまとめ上げ、その上でどうするかというものらしいが。

 俺達がそこから離れた後、纏めようとしているのはリアムから聞いた。


 そこで、自分が感じたこと、苛立ちを仲間に向けて話すことにした。不思議と、口が回らないなんてことはなく、スラスラと口から言葉が流れていく。


「……分かっちゃなかったよ、俺。亜人の扱いなんてこんなもんだって」


 その事を、雛やディーン、同席していたルージュに話し終えた。

 こんなことを話してどうにかなるわけでもない。でも、どうにも耐えられやしなかった。吐き出したくて仕方なかった。


「あぁ……道理でひどい顔をしてる訳だ」


「光牙、分かってただろ? 亜人の扱いなんてどこもそんなもんだって。虎のやつ覚えてるか?」


 勿論、覚えている。でも……そうじゃない。


「違うんだよ……分かってたつもりだったんだ、でも分かっちゃいなかった……」


 今まではその悪意が、向けられちゃいなかったから。

 自分に向けられた悪意は、龍人という種族の、希少価値によるものでしかなかったから。


「えいっ」


「ぎっ……!! 何すんだよ雛……」


 悪い考えをしていると、突然、頬を張られた。えっ、今そんな余裕ないんだけど……?


「悪い考えは吹っ飛びましたか?」


「えっ? あぁ……飛んだ……」


 確かに唐突な平手で、悪い考えは飛んだが……雑すぎやしません?


「ならいいじゃないですか、それで。どんなものか分かったんなら、次はそんなにダメージ受けませんよね?」


「……まぁ……そう、なるかな」


「貴方は繋がりを失いたくない、でしょう? 言い方は悪いですが、有象無象の言葉をいちいち真に受けてたら身が持ちませんよ」


「そうだな。私も聞き流してきた。後から後悔することは多々あったが」


 ルージュも、雛も俺よりこの世界で生きてきた。自分達の扱いなんて俺なんかよりも分かっているだろう。でも……


「憤りはない、のか?」


「「ない」」


 即答だった。そう言い切った二人の顔には、嘘なんて微塵も感じられなかった。


「怒りってのは、そう長持ちはしないんですよ。恨んでる方が馬鹿らしくなっちゃいます」


「……そういうもんなの?」


「そんなもんですよ。恨みは、長く持ちますけど……」


 ……何となく、言いたいことが分かったような、分からないような。ただ……


「……分かった。次は聞き流してみる」


「えぇ、そうしてみて下さい。聞かなきゃ痛くも痒くもありません」


 そう言って微笑む雛に対して、自分も笑みを返す。


 次からは、それを聞き流す。しかし、雛にはそう言ったものの、本当に酷いものなら迷わず飛びかかるだろうな……


 俺も結局、奴らと同じだ。


 そんな風に考えていると、扉が開いた。アルロとレオパルドさんが、並んで部屋に入ってくる。


「大変なことになりましたね……」


「そうだな。私も、そこの少年……リアムと迎え撃ったが……こうなってしまうと」


「打って出るしかない、かな?」


 人間側も、俺達が去ってからはまともに会議ができていたらしい。どうやら、もうすぐゴタゴタも終わるようだ。


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