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成果。

 家屋が崩れる音を聞きながら、街を駆ける。正直、何度聞いても嫌な音だ。こればっかりは慣れる気がしない。

 寧ろ、慣れちゃいけないとも思う。


 「ムクロの攻勢にしちゃ……被害がデカくないか!?」

 

 「えぇ、あんな緩慢な動きしかできないとは思いにくいですが……まさか、魔物も?」


 二人が予測を立てているが、それに答えていたら速度を落としてしまう。一刻も速く、あそこまで辿り着かなければならないのに!


 「予測しても意味がないだろ! 考えることは大事だけど、今はそれより足を動かして!」

 

 「了解……!」


 そう、予測なんて意味がない。今になって気付いたことだ。自分が行くまでに被害がどうなるなんて考えたところで、それは確定事項なんかじゃない。

 そんなこと考えてる暇があるなら、必死に足を動かすべきなんだ。


 「っ、あそこか……!」

 

 「ムクロが沢山……でも何か……別の種もいるような……!」


 そう言えばそうだ。ムクロは人型ではあるが、体色が人とは思えないようなものだった。でも、今見えているのは何か……人のままのような、そんな存在がそこに見える。

 全体的に白く……生気も感じさせない。生きた人ではないようだ。


 「……変異でもしたのか? まぁ……」

 

 駆けてきているこちらに気づいたか、掴んでいる人を放り投げて自身から近付いてきた。

 放っておけば、碌なことにならないだろうと察した俺は、飛び上がると魔力糸をそいつの腕に突き刺した。


 「よし、引っかかった。絶対逃さねぇからな……!」

 

 即座に巻き取り始め、体が急激に前に引っ張られる。ムクロにどんどん近づいて行き、その腹に全力で膝を叩き込んだ。


 「っ、硬っ……!」

 

 「……お前も、敵か?」


 でも、勢いをつけてるにも関わらず、怯みすらしなかった。咄嗟に魔力糸を雲散させ、離れようとしたが腕を掴まれてしまう。

 振り解こうと藻掻くが、全く離す様子がない。それどころか、段々と力が籠もって来ている気がする。


 「えぇい、離せっての! いつまでも掴んでんじゃねぇ!!」

 

 「うおっ……? なんだこいつは、壊れない」


 肉体強化の容量で、全身に焔を纏う。流石に驚いたのか、奴は手を離して、燃えた所を見ている。というか壊す気だったんかい、分かってたけど。


 身体に纏った焔を消した瞬間、背後から矢が飛来し、ムクロの腕に刺さる。振り向くと、雛たちが追いついてきていた。

 ディーンが飛びかかり、短剣で斬りつけるが、薄い傷をつけるのがやっとのようだ。追い払おうと腕を振る攻撃を飛び上がって避けた後に、俺達の所に戻ってくる。

 

 「光牙さん! 大丈夫でしたか!?」

 

 「問題なし。でもねぇ……硬いよあいつ、打撃はそんなに通用しないかも」

 

 「先に言えよそう言うのは……」


 ごめん、でも言うより早く突っ込んだのは君だ。しかしどうしたものか。刀は論外だろう、刀身が欠けたら困る。しかし打撃はそんなに有効打にはならない……残ったのは魔法と魔力糸ぐらいか?


 「やっぱり効くのは魔法かなぁ……」

 

 「うげぇ……俺苦手なんだよ。魔力とかはよく分からん」

 

 「ディーンには元から期待してないよ、魔法使ったとこ見たことないし」

 

 「それはそれで複雑……」


 うん、本当に複雑だろうさ。でもこういう方針は早めに決めないと。さっきから雛が矢で牽制してくれてはいるものの、長々と話すのは得策じゃない。実際、ジリジリと距離は詰められている。


 アイツが何だか分からないけれど、今は話してる場合じゃない。取り敢えずは注意をこちらに向かせることからだ。


 「よぉムクロ。お前なんなんだ? 他の奴より人っぽいじゃないか。話もできそうだしな?」

 

 「ムクロ? ……俺や、周りにいた奴らのことか」

 

 「そうだよ、お前はなぜここを襲うんだ?」

 

 「何故……? 何故か……」


 どうやら、自分のことがよく分からないらしい。本当に突然変異した個体みたいだ。

 分からないなら、味方に……


 「光牙、前を見ろぉ!!」


 「っ、くおっ……!!」


 突然ムクロが腕を振るった。刀で防ごうとした途端、後に引っ張られる。背後に目を向けると、雛が襟首を掴んで引っ張ったようだ。


 「悪い、助かったよ!」


 「それより今は集中を!」


 俺が尻餅をつく頃には、雛は既に矢を番え、弦を引き絞っていた。反応が更に早くなっているみたいだ。


 ディーンも、咄嗟に魔力糸で後ろに下がったようで無事だった。ほっと息を吐くと、こちらを見ているムクロに鋒を向けた。


 「なんで突然攻撃してきた?」


 「……何故だろうな。お前が気に入らないからだ」


 そういう奴の目には、さっきまではなかった殺意が見て取れた。何やらスイッチを入れてしまったみたいで、獰猛な瞳でこちらを睨んでいる。 


 「うわぁ……子供の癇癪みたいだ」

 

 「なんとでも言え」


 目の前の敵はそう言いながら、家屋の柱を掴み上げて構えた。あんなもんを振り回されたら、更に被害が大きくなってしまう。


 それだけは避けないといけない。短期戦を心掛けていこうと、全身にくまなく魔力を流して強化すると同時に前に飛び出した。


 だが、勢いよくムクロの横を通り抜けてしまう。強化に慣れる時間が無さ過ぎたなこりゃ。

 全力で刀を突き立て、勢いを殺して止まるが、どうしたものか。


 「……思ったより速かったなぁ、でも大体どんなものか慣れた、次は問題なくできる」


 「貴様、自分で制御できていないのか……?」


 奴も、こちらを見つけて近付いて来る。一瞬見失ってはいるようだが、一瞬じゃほとんど意味はない。一瞬で首を断つ、そんなことができるほど剣の腕がある訳じゃないし。


 「……ふっ!!」


 先程と同じように地面を蹴る。違うのは、敵への距離がさっきよりも分かっていること。これなら斬れる。

 

 「はぁぁっ!!」

 

 「ぐっ……! 速いな……」


 すれ違いざまに刀を振るう。強化しただけの一閃で、容易く柱を両断出来た。以前なら出来なかっただろう。

 それだけでなく、少し切り傷を与えていた。どうやらあの修練は意味のないものではなかったらしい。


 有り余る勢いを殺しながら、ムクロへ向き直る。両断された柱を両手に持ち、こちらへ向かってきている。でも速度はそれほどでもない。あの蜥蜴野郎の方がずっと速かった。

 ……あぁ、問題なく倒せそうだ。最悪一人でも。


 「頼むよ、雛!」


 「分かってますよ!」


 名前を呼ぶと同時に、矢が背後から飛んでいく。その矢が突き刺さると同時に、不思議な模様が浮かんだ。その途端、ムクロの体が硬直する。

 見慣れないものだが、一体なんだろう……? そんな風に考えていると、誰かが俺を飛び越えムクロへ向かっていく。


 「そういや光牙、これ見るの初めてだったな!」

 

 「何か知ってるのなら先に教えて欲しかった!」


 ディーンだった。身軽な身のこなしで近付くと、掌で触れてから飛び退いた。


 「一発あっついの頼むわ!!」

 

 「……よく分かんねぇけど分かった!」


 掌に作り出した火球を、直接投げつける。ムクロに直撃すると、触れられた箇所が光り、爆ぜた。


 咄嗟に目を両腕で覆い、視界を確保する。正直爆発するなら、爆発するぞとか一言欲しかったなぁ……


 「いやぁ、上手く行ったなぁ。封呪ノ矢に、マーカー」


 「えぇ、及第点です。一応効くようですし」


 「俺にも説明してくれよ、何も分からないんだけど」


 正直予想はつくが、万が一違っては困る。大体は名前の通りの物だろうけどね。

 二人曰く、封呪ノ矢は魔物や呪われた者の動きを止める矢。マーカーは着弾した魔法の効果を、倍増させて発生させる魔法らしい。炎が触れたから、今は爆ぜたという

 ん? 待てよ? そうなるとあいつは……


 「奴らは呪われてる? 薬じゃねぇじゃん、何が万能薬なんだか」


 「やべーもん作る奴はどこにでもいるもんだな」


 煙が晴れ、少し煤けたムクロが現れる。爆破を受けたというのに、全く堪えていない様子で、俺たちの方に歩いてきた。


 「硬いですね……光牙さん、魔道銃借りても?」


 「あ、いいけど……撃てるのか? 属性とか……」


 雛に魔導銃を手渡してすぐ、乾いた音が響く。着弾した箇所が焼けるが、相変わらず全く堪えていない。

 

 「何だ今のは? 矢じゃない上に魔法より速いな」


 「駄目みたいですね……この魔法銃の火力じゃ足りないみたいです」


 そう言いながら、魔導銃を投げ返した雛は、鏃に手を翳して魔力を流し始める。

 何をしているのか聞こうとする前に、矢が放たれてしまった。

 さっきと同じように、矢が刺さる。だが何も起きず、引き抜こうとしている。

 

 「矢など効か……なぁぁっ!?」


 「生憎、それも特製の矢なんですよ。中から弾けてしまうような、ね」


 突然ムクロが硬直する。何が起きたのかさっぱり理解ができないでいると、すぐに風が吹き荒れた。よく見れば、ムクロの肉が削がれている。

 多大なダメージによって、ムクロは血を流しながらその場に崩れ落ちた。


 「付与・嵐の矢……といったところでしょうか」


 「……エッグいの作るなぁ」


 見た感じ、硬直した時は雷が落ちたようだった。そこを風で削り落とす……殺意の塊じゃん、誰が考えたのさこんなの……

 ……まぁ、目の前に考えた人いるんだけどさ。


 「俺、別の場所見てくるわ。変異種って言っても、二人でなんとかなんだろ、こいつなら」


 「おーう、了解」


 この場からディーンが去ると同時に、雛が次の矢を番え、ムクロを狙う。油断なく東部に狙いをつけているのを見て、俺も切っ先を向け、ゆっくりと距離を詰めていく。

 

 「死んだか……?」


 少し気を緩めた、その時だった。ムクロの指がピクリと動き、その指が俺の心臓に向かい、伸びていく。

 一瞬焦ったが、その指を義手で受け止め、すぐに距離を取った。


 「ふぅ……危ねぇなおい」


 「あぁ、それは残念。心臓を潰されておけば、苦しんで死ぬこともなかっただろうに」


 ……何やら、先程と雰囲気が違う。体の表面に黄色模様が入っており、より人間に近付いているような気がする。

 でも、さっきの指の攻撃からして、人体とまるきり同じだなんて思わない方がいいな。


 「強化形態ってやつ? 嫌になるね、全く」


 「感謝してるよ、滅茶苦茶に痛めつけやがって。その分返してやるから、来いよ」


 明確な挑発の言葉。こんな挑発、なんてことはないが……相手がどんな風に変わったのか分からない。実力がどんなものであれ、全力で潰す。


 一息ついて、変装の魔術を解き、龍人としての赤い鱗や尻尾が顕になる。


 「第二ラウンド、始めようか」

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