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敵は突然現れる

 あれから、3日ほど経った。それなりに魔力や刀の扱いもマシになったと自分でも分かる。そんな時に、突然アルロが口を開いた。


 「お前、技を撃ってみろ。お前の愛刀で構わん」

 

 「え? いいけど……」


 紅蓮を引き抜き、魔力を刀身に収束させる。以前は少し時間がかかったが、今は一瞬で赤い刀身が焔を纏うようになった。

 これは自分でも満足行く出来だと思う。今までは止まらなければ出来なかったのに、動きながらでもうまく使えるようになったのだから。


 「魔力操作はよし……威力はどうだ?」


 そう言い、特別大きな岩を指差すアルロ。その指さした巨岩に向き直ると、剣を上段に振り上げる。


 「……飛焔!!」


 振り上げた刀身を振り下ろし、焔の斬撃が地面を焼きながら岩を真っ二つにした。今までは固形物を切ることができなかったが、今は斬った上に焼くという技に変化している。地面を見れば斬撃の通った箇所が真っ黒に焦げていた。

 どんなことでもそうだが、レベルアップというものは嬉しいものだ。嬉しいものなのだが……


 「複雑だなぁ……殺す技術ばかり上がっていくんだから」

 

 「お前が選んだのはそう言う道だ。早く慣れることだ。しかし……今のは炎と魔力による斬撃の複合とは。エグいなお前」


 確かに自分でも凶悪だと思った。斬った箇所を治そうとしても、あの炎では炭化してもおかしくないだろう。炭化までしてしまえば、治すのは難しい。

 そんな風に考えていると、いつものように刀が投げ渡してくる。それを掴み取ると、流れるように魔力を体中に流して斬りかかる。

 アルロはそれを刀で受けるが、その刀にヒビが入った。それを見て笑いながら、新たな刀を取り出し、切っ先を俺に向けた。


 「スムーズに肉体強化も行えるようになったな……では、始めよう。最後の試合となるだろう」

 

 「俺の修練ってこれだけなのか。でも……今は体が軽いんだ。死ぬんじゃないぞ」

 

 「戯言を抜かすな、赤の龍人」


 そこで話が途切れると同時に、駆け出して刀を振るう。互いの刀がかち合うが、最初にやり合ったときと違い、どちらかが力で押し負けることなくお互いの刀が弾かれた。これなら……いけるかもしれない。

 お互いが体勢を崩さぬようにと踏ん張り、足に力を込めて一歩踏み出し、互いに譲らずノーガードで刀を振るう。

 にしても相変わらず、アルロの剣は速いし、鋭いな……! 弾くのでやっとだ!

 

 「反応が早いな、本当……」

 

 「お前よりも長く剣を振っているのだ、当たり前だろう」

 

 「うおっ……!?」


 お互いの刃が何度も火花を散らす中、突然視界がブレた。

 少しの浮遊感の後、地面に叩きつけられる。


 「足払いとかありかよ……!?」

 

 「何でも使うのは当たり前だろうが、馬鹿者め」

 

 「あぶねっ……にゃろっ!」


 地面に倒れ込んだところに、刀の切っ先が振り下ろされたが、それを避ける。敵の次の行動より速く目眩まし代わりにと、口から火の粉を吹き吹きつけた。

 熱くも何もない、ただの虚仮威しでしかない火の粉だが……結構効くものだ。目眩まし程度だが。

 実際、火の粉を払うか手で目の前を防いでしまい、距離を取る時間を稼げた。


 「くっ……このような虚仮威しに……次は……」

 

 「この辺でやめよう。これ以上は殺し合いと変わりない」


 自身の持つ刀を地面に突き刺した後、魔力による強化を解除して、アルロの瞳を見据える。

 ……正直もう辛いんだって、アンタとはずっと戦ってきたでしょ!?


 「むぅ……残念だ。これからが楽しいというのに」

 

 「おい巫山戯んなトカゲ野郎、俺が保たねぇわ」


 俺の思いが通じたのか、納刀してからこちらに近付いてくる。

 ただ、機会があればこいつはまた刀を抜いてくるだろう。

 そう考えると、頭が痛くなった。


───────────────────


 「刀の柄に糸を巻き付け……よし、できた……! 拍子抜けしちゃうね」

 

 「まぁそれができるならいいだろう。移動の修練だ、来い」


 それから少し休み、体力が戻ってから魔力糸の操作に取りかかった。狙ったものを拾い上げる、というのは自分でもびっくりするほどうまく行ったから、障害物をうまく避けて、目的地に早く行く訓練が始まった。

 漸く皆と同じことが出来る! と喜んだ、けど……


 「あぁぁ待って速いんだってぐふぅ!?」

 

 「……制御が下手だなぁ、光牙」

 

 「雛とディーンとは違うんだって、俺しばらく基礎訓練してたから……いてて……」


 移動の最中、何度も障害物にぶつかっては地面に叩きつけられるんだ。これが非常に痛い。

 何せバカみたいにスピードが出るんだから、そのスピードで頭をぶつければ意識は少し飛ぶし、戻った頃には地面近く、叩きつけられて息が詰まる……

 ……いや、控えめに言って頭おかしいよこれ。こんなんで飛び回るの無理だよ、イカれてんのかこの街の人は。


 「それで? ディーンはできるのかよ」

 

 「まぁな。見てろよ」


 そう言うと、障害物にぶつからないこと、速く抜けること……俺がまだできないことをやってのけた。

 本人曰く慣れだというが、それでできれば苦労はしない。

 思ったよりも速くて、思考が纏まるよりも先に次が来るから……あれ、これ勘任せでやらなきゃだめか?


 「……やってみるか」


 結果はまぁ駄目だったよ……思いっきり障害物に、顔から突っ込んださ。


─────────────────────────


 「……むっず。飛ぶより難しいぞこれ」

 

 「そういや、すぐに飛べましたね光牙さん……」


  「まず人間の形のまま飛べるのがおかしいんだからな? その辺りしっかり認識しとこ?」

 

 今日の修練を終え、3人で体を休める時間になった。

 ……二人共、明らかに生傷が増えているなぁ……アルロの特訓以外にも、そんな難しい事があるとは思っていなかった。


 「なぁ、雛。コツを教えてくれないか? 俺全く分かんねぇんだ」

 

 「コツですか……? うーん……そんなに考えて使ってなかったからなぁ……」

 

 「つまり勘と慣れか……できる人は皆そう言うんだ……」


  「あはは……」


 できるやつは勘とか何とか言って、先にガンガン進んでいく。その分できない奴は置いていかれる。当たり前のように存在する格差が鬱陶しくて仕方ない。

 いやでも……これはアルロのせいもあるな、うん。俺だけスタートが遅れてるんだから。

 そんなことを考えていると、背後から頭を小突かれた。


 「だからって腐るなよ。結局使って、慣れていくしかねぇんだから。飛ぶのと何も違いはねぇよ、多分」

 

 「ディーンは上手くできるからそうなんだろうけどさぁ……」


 何度も避けきれずぶつかった俺の目を見ろよ、何で背けてんだよ。目を見て話せや……

 あぁくそっ、またやるべき課題が増えそうだ。


─────────────────────


 「お前達、たまには外に出てはどうだ……?」

 

 「出れねぇんだよここ。出口どこだ」


 また同じように顔から激突した後、アルロか話しかけてきた。にしても何でお前が息子を心配するやつみたいな声色してんだ?

 一瞬頭がバグりかけたわ。


 「ああ、そういう……認識できてないだけでドアノブはあるぞ。その辺掴んで回せ」

 

 「見えない物を掴めって?」

 

 「そうでなくては出られん」


 アルロは見えないものを掴むってどんな無茶振りなのか分かってるんだろうか。いやまぁ、やらなきゃいけないならやるけどさぁ……

 ドアノブがあったと思う場所に手を伸ばした。やはり何も手には当たらない。手を少し上に動かしたが、それも意味を成さない。空を切るばかりだ。


 「やっぱこれ無理だっ……て? あったかも」


 振り返るときに、何か固いものに手が触れた……多分あれがドアノブだ。扉に向き直ってガッチリと掴み、回せば……!


 「開いたぁ!!」

 

 「うむ、これで出られるな」


 そう言って、アルロは外へ出て行こうとした。

 ん?待てよ……? おかしいだろ。


 「待てアルロ!!」

 

 「……どうかしたか?」


 何がどうかしたか、だよ。


 「お前がこの異世界地味た空間を作ったのか? 入ってきたとき時、雛は扉自体なくなってると言った。なのにお前に従ったら、ドアノブを見つけることができた」

 

 「……ふむ、私ではないとだけ言おう。空間を作る魔力など、私は持ち合わせていないのでな。あの娘の勘違いだろう、扉は確かに存在していた」


 そう言って、スタスタと歩いて行ってしまう。

 アルロを追いかけ、続いて出る……訳にはいかないだろう。俺だけじゃなく、二人もいるのだから。

 この空間のことも気にはなるが、扉から一旦離れ、向きを変えて二人の元へ駆け出した。


 「おーい雛、ディーン! 開いたぞ扉!」

 

 「えっ、本当ですか!?」

 

 「お手柄じゃねぇか光牙!」


 二人は修練の真っ只中だったが、扉が見つかり、開いたことを知らせるとほっぽり出してこちらに走ってきた。

 二人も出たくて堪らなかったのだろうとは、人の気持ちなんて分からない筈の俺でもわかった。

 

 でも正直気持ちは分かる。ここ硬いもん寝床。

 すぐに扉から外へ出て、長い階段を登り始めた。


 「やったよ! 漸く外に出ら、れ……?」


 そんな時だった。微かに上の方から、何かが爆ぜる音がしたような……?


 「二人共、何か聞こえなかったか?」

 

 「は? いや聞こえなかったけど……」

 

 「私は……何か爆ぜる音のようなものが聞こえた気が」


 龍人の耳は、何かが爆ぜる音を捉えたようだった。何だろう、何かとても嫌な予感が上からする。

 自分の本能が、今すぐ戻れと訴えているような、そんな感じだ。でも……


 「……急ごう!」

 

 「あぁ、そうした方が良さそうだな」


 黙って逃げるようには、なりたくない。

 3人で階段を駆け上り、居間に飛び込んだ、まさにその瞬間。


 自分達の横の壁を突き破り、ムクロが飛び込んできた。


 「ア゛ァ……ッ」

 

 「こいつは……!?」

 

 咄嗟に持ってきてしまった無銘の刀をそいつの腕に突き刺して壁に貼り付ける。それを引き抜こうとしているが、そう簡単に抜けないようにと深く刺したのが功を奏し、全く抜ける気配がない。

 でもこれだけじゃ正直不安だ、一体どうすれば……!


 「光牙、悪いけど使わせてもらおうぜ」

 

 「ディーン……まぁ仕方ないよなこれは!」

 

 そう言い、ディーンが指差したのは木造の椅子。それを魔力糸を用いて手に持つと、ゆっくりと近付いていく。

 ……やり方がヤクザのように思えたけど、それは秘密。心にしまっておこう……

 近くにある椅子を掴むとムクロの場所まで走った。


 俺の走る音でムクロもこちらに目を向けたが、もう遅い。椅子を高く掲げ、そのまま……


 「「せぇー……のっ!!」」


 同時に頭に叩きつけてやった。同時に手の中と、ムクロの頭からバキリという音が響く。黒い血を流すムクロの腕から、刀を引き抜いて血を拭う。色もそうだが、何だか油に近いような血だ。火をつければ良く燃えそう……

 なんて考えてしまい、自分の中でも変わって来たなぁと少し笑いそうになった。なんで油と血を同じに思えたんだろう。


 「汚ぁ……これが人の成れの果て? 幾ら何でも、そこまで悪いことしちゃいないだろ?」

 

 「これの何処が薬なんでしょうね……」


 雛の言う通りだ。こんなものが薬なら、純粋な人間なんていなくなっているはずだ。これを作った奴は少なくとも、薬学には向いていないよ。

 

 椅子を放り捨てながら外へと飛び出し、魔力糸を用いて屋根へと飛び乗る。後で椅子を壊したことは謝らないといけないな……

 外に出た途端、僅かに血の匂いがした。

 

……ここまで奴らが来ている時点で、まぁ予想はついていたが、認めたくなかったよ。


 「何か見えるか!」

 

 「……最悪な事態が見えてるよ。俺達とムクロを分ける壁が突破された」


 目に入ってきたのは、あちらこちらで上がる煙と、崩れていく家屋の数々。

 どうやら、喜ぶ時間も俺たちにはないらしい。全く、本当に嫌になる……!

 

 「ふたりとも、戦闘の用意をして。こっから暴れないとだめっぽい」


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