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基礎

 ほぼ同時に、振るわれた刃が交わる。一度交わった刃は一合ごとに振るわれる速度が上がっていき、互いの身体を裂こうとする。

 

 「はぁぁぁっ!」

 「……力が入り過ぎだ、もう少し肩の力を抜け」

 「力入れなきゃ何も斬れやしないだろっ!!」

 

 何度も刀を半ば叩きつけるように振るう。だが、アルロは全く応えていないように、その全てを受け止めるかいなしている。

 5連続でいなされた時には体勢を崩してしまい、体勢を整えるよりも速く、鋭い蹴りが腹部に炸裂した。

 体が宙を舞う感覚が少しした後、地面を転がる。すぐに立ち上がって構える。が、衝撃までは消せずに咳き込んだ。

 無意識的に、鱗での防御を使ったのにも関わらずこれかよ……

 

 「げほっ、何とか鱗の防御間に合った……」

 「ほう? 龍人の体は便利なものだな。そんな芸当ができるとは」


 音もなく近付いてきたアルロは躊躇なく、刀を首に向けて振り下ろす。その刃を義手で受け止めて刀を突き出すが、横殴りの拳で軌道を変えられ空を切る。


 「赤い龍人よ、お前にあるのは度胸だけか?」

 「うるっせぇっ……!」


 義手で刀を押し返し、すぐさま刃を引き戻して振り下ろした。が、その刃はまた空を切る。

 アルロが後ろに跳んだことで、刀の間合いから抜けられてしまったからだ。


 「無駄に力を入れているとそうなる。本当に分かりやすく、避けやすい太刀筋をしているな」

 「っ、野郎……!」

 

 コイツ、無駄に煽ってきやがる……

 頭に血が昇るというのが、本当にどういうものか分かったような気がするよ。

 苛立ち混じりに刀に魔力を流し込み、段々と刀身が赤く光り始めた時、それを高く振り上げた。


 「むっ、貴様……待てっ!」

 「受けてみやがれ、蜥蜴野郎!!」


 何か言おうとしていたが、知ったことか。構わず刃を振り下ろした。振り下ろすと同時に赤い斬撃が飛び、荒れ地を抉りながらアルロに向かっていく。


 「ちぃっ、馬鹿者が……!」

 「がはぁっ!?」

 

 腹部を殴られたような衝撃が腹部に広がり、少しよろめいて膝を着いた。

 何が起きたか分からなかったが、突然アルロが目の前に現れ、柄頭で俺の腹を殴ったようだ。一体どんな手品だよ……!


 アルロは俺を見て溜息を吐くと、刀を納めて近付いてきた。


 「馬鹿者が。基礎が全くなっておらんのに何故応用に手を出す」

 「応……用……? なんの事だよ?」


 全く訳が分からない。魔力は確かに今までも使ってきたが、問題なく使用できていた。何故応用なんて言葉が出てくる?


 「お前は剣も魔法も使える、だがどちらも未熟だ。魔法はまだマシなようだが……先程の魔力集束、素人の私が見ても粗だらけだった」

 「……基礎が全くなってないってのはそういう事か」


 確かに、どちらもこの世界に来て叩き上げてきたものだ。そりゃ、喧嘩とかの経験はあるとはいえ、剣なんて振ったことがなかった。粗があって当然と思うべきだったのだろう。


 「お前は焦ると叩きつけるように刀を振るう。刀は引いて斬るものだ、叩きつけていては切れ味の半分も出せまい」

 「うんまぁ……そうだな。当たり前のことと言えば当たり前なんだけどさ……マジかぁ……」


 焦る、要するに心が乱れると俺はまともに振るえなくなるらしい。正確には振るえてはいるが、本来の切れ味とは程遠い一撃を放っているとのことだった。

 首を撥ねたことあるのに、なんでだろうな……


 「ついでに魔力もだ。一部に流すのは問題なく行えているが……集束が下手くそだな。焔を纏えるのに何故だ」

 「分かんね、紅蓮でやるようにやってみたけど……普通に斬るよりも威力はあるだろうと思って」

 「確かに地面を抉る程ではあったが……時間をかけ過ぎだ。止まって魔力を流すのではなく、動きながらやってみせろ」


 動きながら、魔力を扱う。これも課題だ。今までどこに流すにしても、止まって行っていた。狙い目になる弱点は早めに潰しておきたい。


 「そういやアルロ、紅蓮だと焔の斬撃になるけど……そういうのって使い分けできるのか?」

 「……出来るかどうかは分からん。焔を纏わせるときの意識をしてみたらどうだ。今回はただ魔力だけ、といったようにだ」

 「難しそうだなぁ……まぁやってみよう……」


 鍛えなければならない点が、いくつも生まれた。ここをなんとかしなければ、この先生き残れない。

 そんな思いと共に息を整え、刃の欠けた刀を捨てると新たに刀を引き抜く。


 「もっと先に進まなきゃならない。だから、俺を鍛えてくれ。お願いだ」

 「元よりそのつもりだ。ルージュ様の願いなら、私は貴様と何度でも刃を交えよう」


 ほとんど同時に刀を構えると、互いに向けて駆け出し、相手の首を狙って刃を振るう。互いの刃と殺意が交差し、火花を散らす。

 ……が、突然お互いの持つ刀身が罅割れ、そこからポキリと折れてしまった。


 「……あー……これって」

 「ふむ……今日は終いにするか」


 拳を引きながらアルロが放った言葉に疑問を思うよりも早く、腹部に拳を叩き込まれた。


────────────────────────────


 「いってぇ〜〜っ!! 加減しろやアルロの奴……」

 「あぁ、あのリザードマンと戦っていたんですね。通りで切り傷だらけだと」

 「しっかし、なんでまたそんな奴が教えようと……何か狙いがあるんじゃねぇの?」

 「考えても仕方ないよ。力をつけるチャンスだと思うことにすれば、まぁ目を瞑れる……うん、多分」


 体を休める為にアルロ達は居住スペースに戻ったが、俺達はここにいろとのことだった。ここは不思議な空間で、いるだけでも傷の治りが早くなるらしい。本当に謎だらけだ。現在は雛達と合流し、傷に対する軽めの処置をしている。

 一日では結局、まともな一撃を与えることができなかった。それは悔しいが、これを続ければ何か掴める。確かにそう感じる。


 「所でそっちはどうだったの? 魔力糸、何とかなりそう?」

 「まぁな、案外使いやすそうで良かった」

 「巻いた途端、かっ飛ぶとかはなさそうですね。便利なものを作ったなぁ……」


 使い心地は良好なようだ。確かに俺も初めて使った時、これは便利だと感じたし、もっと使ってみたかった。やりようによっては攻撃も防げそうでもあり、非常に便利な物だと思う。

 その後も他愛もない話は続き、楽しい一時を過ごした。夜も深まった頃、雛が欠伸を一つこぼしたのを頃合いとして、皆それぞれ、明日も頑張ろうと決意を新たにし眠りについた。


────────────────────────────


 次の日。今回は魔力の扱い方を覚え直すとのことだ。魔力だけを飛ばす訓練……だったが。


 「何度やっても燃える……焔を飛ばすということは何度もしてきたけどさ、やり方が同じ過ぎて分からん……」


 ……結論を言ってしまえば、紅蓮では魔力だけの斬撃を飛ばすということはできなかった。何度やっても焔を纏ってしまい、思ったようにならない。

 苛立ち混じりに焔を纏った紅蓮を振るうも、燃え盛る焔は依然として力強い。


 「そういう武器もある、特殊武装だ。魔力の訓練も同様にそこの刀を使った方が良さそうだ」

 「そうらしい。はぁ……残念だなぁ」


 アルロから一振りの刀を投げ渡され、それを受け取ると鞘から引き抜く。紅蓮とは違い、なんの変哲もない刀身。

 紅く染まっている訳でもない、普通の刀。今になってこれを扱うことが難しいとは、夢にも思わなかった。

 

 「じゃあ……お願いします」

 「あぁ。神体強化も自己判断で使うといい」


 お互いが刀を構え、相手を見据えて動かず、相手の動きを予測する。こちらから攻めるよりは、相手から攻めさせるのがやりやすいように感じる。


 「……行くぞ、気を抜くなよ」

 「分かってるし、アルロ相手に気を抜く訳ない」


 そうして会話が終わると同時に、アルロの刀が振るわれた。その刃を受け、押し返すように刀を振るう。

 アルロが引くよりも早く振るうことができたが、いつものように軽く避けられてしまう。


 「あぁクソっ! 本当に、早いなぁ……!」

 「お前が遅いだけだ、早く基礎を身につけろ」


 軽く避けたアルロが距離を詰めて刀を突き出すが、義手に魔力を流し、硬度を上げて鋒を受け止める。

 試しにやってみたが、義手自体も硬度を上げることもできることが分かったのは非常に役立ちそうだ。これから先、硬いものを殴ることになるだろうし。


 「オォッ!!」

 「なるほど、義手自体が盾にもなるか……だがまだまだだ」

 「がはっ!?」


 そのまま刀を振るおうとしたが、それよりも早く突き出した刀を離し、胸部に強烈な張り手を見舞われたことで距離を取られてしまう。

 胸を突かれたことで、一瞬呼吸が詰まった上に目を閉じてしまった。少しでも視界を閉ざせば、その分敵は詰めてくる。それは今までの経験でも分かっている。なら──

 

 「そこだろっ!」

 「むおっ……立て直しは早くなったな」


 咄嗟に刃を切り上げ、切っ先が鼻先を掠める。血は流れていないが、微かに傷を与えたのは確かだ。

 この機を逃すまいと、そのまま振り上げた刀を返して振り下した。その刀はアルロに防がれるが、体勢を僅かに崩させる。

 その防御が崩れた瞬間、右回し蹴りを叩き込む!

 あいつの骨が折れることはなかったが、かなり重い一撃だったと思う。

 防御が間に合わず、地面を転がるアルロを見て、少し気が緩めた。


 「ふぅ……やってみればできるもんだな」

 「あぁ、後は気を抜かなければ完璧だったな」


 背後から声が聞こえ振り向くと、刃の部分が向けられていた。首の辺りに感じる鉄の冷たさが、死を間近に伝えてくる。

 咄嗟に刃を跳ね上げ、距離を取ったが、あそこまで死というものを実感したのは最初にロアと戦ったとき以来だ。


 「死を恐れろ。死んでしまえば、それで終いだ。どんな願いや高尚な想いがあろうと、叶えることは不可能となる。故に戦場では気を抜くなよ」

 「……肝に何度も命じとく」


 流れる冷や汗を手の甲で拭い、無銘の刀を握り直す。一つ息を吐いて、同じように構えるアルロへと向かって駆け出した。


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