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修練

 「魔法道具で、魔力糸を生み出せる物……? そんな腕輪使ってるけどいいのか? これって結構いいもんだと思うんだけど」

 「えぇ、いいんですよディーンさん。私はただ、腕輪のような物はないかと言われたので」


 ディーンとレオパルドさんが腕輪について話しているが、とてつもなく眠い。さっきから瞼が落ちてきている。


 いくらなんでも、真面目な話の途中で眠りに落ちるわけにはいかない。いかないが……瞼がもう重くて重くて……


 瞼が完全に閉じるか閉じないかで、肩に手が置かれた。


 「……光牙さん? 眠そうですが……」

 「んあっ!? 何? 全然寝てないよ!?」

 「それは寝てたって自白と同義なんだよ……」


 置かれたのは、雛の手だったようだ。しかしまた隠しきれなかった。この二人に何か隠そうとしてもすぐバレてしまう。何故だ?


 そんなことを考えていると、小さく笑い声が聞こえてきた。3人揃って声の方を向くと、彼は声を押し殺して笑っていた。


 「いや、失礼。あまりに仲が宜しいようでつい」

 「いや別にいいけどさ……でもよくバレなかったね? 魔法道具なんて基本モロバレするだろ、あいつらなら見慣れてるだろうし」


 確かにそうだ。こんな魔法道具等、職業柄見慣れている筈だ。それに拘束用の術式が付与されてないとなると……すぐ気付いてもおかしくない。


 なのになぜ、こんなものを?


 「……話してしまうと、あちら側からの提案なのです。形だけでもいい、拘束できるような物を持ってこい、と」

 「……まーじで? 本当に共闘戦線張ることになるのか。あの薬の抹消って言ってたけど」

 「目的が同じならそうなりますね……しかしあまり信用は……」

 「しなくたっていいだろ、別に共闘が目的って訳じゃないんだぜ? お互い勝手にやればいいさ」


 自分の顎に手をやり、思考を回す。


 二人の意見はどちらも正しい。正しいから余計に困惑してしまうんだ。正直、あのリザードマン……アルロ一人でもムクロの群れは突破できる実力はある。なのに何故俺達を兵力としてカウントするんだ?

 

 「……駄目だ。毎度のことながら何も分からん」

 「頭悪いのに思考回して何もわからない位ならやめとけ、アイツらのこと考えたって何の得にもなりゃしないよ」

 「考えるだけならいいだろ? 別に首を突っ込むって言ってるわけじゃないんだから」

 「あのなぁ……巻き込まれてんの俺らは既に! 逃げようがねぇだろ。もうどこでも目を光らせてるぞ、あいつら」


 手回しが早いことで……しかし、そうなると下手に逃走なんて選べそうにないな。


 それに、ムクロも最近活発になってきている。おまけに馬車はムクロの活動領域の中……あれ、ちょっと待って?


 「……嫌でも協力するしかなくないか、これ」

 「言うな……言うなよ……!」

 「敵かもしれないのに協力するしかない状況に、追い込まれてますね……」


 現在の状況を把握し、3人揃って溜息をついた。思った以上に状況は悪そうだ。


 「ご愁傷様です……魔力糸の方、練習していかれますか?」

 「……協力するなら、練習した方がいいなぁ。これ、案外じゃじゃ馬な気がするし」


 制御しているとはいえ、あの爆発的な加速力はいただけない。練習しなければ、おいそれと使える代物ではないだろう。


 実際あわや激突、隣かけた張本人がいるわけだし、等と考えていると、レオパルドさんが立ち上がった。


 「分かりました。では、ついてきてくだされ。修練場へと案内します」


 そう言い、明らかにボロボロな扉を開く。かなり深くまで続いているようで、先が見えないほどに暗い。


 灯りをつけようと火を出そうとしたが、その時にはレオパルドさんがランタンを手に取り、視界を手に入れていた。

 

 少し焦っていたようにも見えるが、まぁ気のせいだろう。と考えていたら、頭を強く叩かれる。


 「お前は馬鹿か、龍の焔なんてこんなとこで使われようものなら全部吹き飛んでもおかしくねぇっての!」

 「いってぇな、そんな強くねぇよ俺のは!」

 「そうかもしれないけど、ここ木造だぞ! 燃えることぐらい分かるだろ!?」


 そこでハッとした。完全に無意識的に火を使おうとしており、止められてなかったら焼け落ちる家屋に巻き込まれていたのだろう。


 「……すみませんでした」

 「問題ないですよ、結局火は着きませんでしたし。それに……燃えるかどうかも怪しいですしね……」

 「ん……? それってどういう……」

 「さて、進みますよ。その答えはこの先で見て下さいな」


 少しばかり疑問を残して、会話が終わる。レオパルドさんは暗闇の中をズンズンと進んでいき、古びた扉の前に辿り着いた。


 「久々ですが……稼働するかはわかりませんな……」

 「おい待て今なんつった??」

 「そんな古い場所なんですかここ!?」

 

 レオパルドさんの、不穏な呟きを聞き取ったのか、二人ががぎょっとしているが、まぁ気のせいだろう。


 ……まぁ、俺も聞いてしまったのだけど。気のせい、だったら良かったなぁ。


 そんな風に考えていると、扉が不穏な音を立てて開く。扉の先には、砂地と岩場が広がっている。


 突然、外の風景が見え面食らうが、以前聞いた魔法を頭の片隅から引っ張り出す。


 「……空間魔法? にしては広すぎるし……」

 「似たような物です。世の中にはこんな魔法道具もあるんですよ」


 そう言い、レオパルドさんは俺達をこの砂地に押し込んで行き、扉が閉じた。すると、扉自体がそこになかったかのように消えてしまう。


 「……えっ? 待って、待ってよ……?透明なだけであるよね……?」


 扉に近付き、ドアノブがあった辺りに手を伸ばした。だが、何も触れることなくすり抜ける。それを見て、タラリと冷や汗が垂れてきた。


 二人の方を見ると、同じように嫌な予感がしたのか……考えたことは同じようだ。お互い顔を見合せてから、息を強く吸う。


 「放り込むだけ放り込んで出ていくなぁぁっ!! 謎の場所に取り残すんじゃねぇよぉ!」

 「どっどどど、どうしましよう!? 私達出られないんじゃないですか!?」

 「いや二人共落ち着けよ? 叫んでもいいことないから」

 「逆になんでそんなに落ち着いてんだお前はよぉ!?」


 全く、何なんだあの人は! 


─────────────────────


 「まぁ、一周回ると何か冷静になるよね……不思議なことに」

 「人間の不思議……こんなことで再認識したくねぇよ俺は!」


 ちくしょう、と悪態をつきながら近くの岩を蹴るディーン。気持ちは分かる。だが正直物に当たるのはやめてほしい。


 下手に欠ければ、破片などが飛んでくるかもしれない。反撃として魔法だってあり得る。


 ……地形が反撃ってなんだよ。


 「駄目だぁ、俺も大概冷静じゃないなぁ……雛ー、何か見つかった?」

 「進展なしですー、扉自体がなくなってますねこれ。小さな異世界みたいな感じ……要するに、こちら側からの干渉はまぁ……不可能ですね」

 「駄目かぁ……」


 退路は最早ない。それに、閉じ込められたにしては雑だ。何も言わずにここに押し込めばいいのだから……それに、練習すると言ってからここに連れてきたのだから、閉じ込めるとはちょっと違う……? 


 ……待てよ? 練習すると言ってからだから……

 

 「……まさか修練場かここ? そうだとしたら説明足んないよあの人……」

 「説明不足ではあるな、確かに」


 ここにはいないはずの声が響く。何故ここにいるのかも分からないが、どこにいるのか……


 「貴様の後ろだ、赤い龍人」

 「何で後ろ取るのかねぇ? ホント好きだねそういうの……なぁアルロ」


 そう言いながら背後に顔を向ける。そこには前に戦ったリザードマンのアルロが、以前のように刀を抜いて立っていた。


 「鍛えてやれと言われてな。しかし私には教えてやれることなどない故、この形式にしてもらった」

 「二人はどうすんだよ?」

 「あちらはレオパルド殿がやってくれる。倅もいるのだ、大丈夫だろう」

 「なるほどね……俺だけ特別授業か……」

 「あぁ。個人的な物だが……」


 そこで言葉が切れ、不思議に思っていると刀が振り上げられた。咄嗟に義手で受け止めるが、不意だった為に体勢を崩してしまう。


 体勢を崩したところを狙い、刀を突き出されるが、魔力糸を岩に引っ掛けて移動し、距離を取ることで避ける。


 「っ、いきなりなんだよっ……!」

 「甘さを捨てろ。亜人だから斬りたくない、等というのはここから先は通じぬぞ」


 刀を構えたまま、近付いてくるアルロ。その威圧感は凄まじく、たとえ訓練だろうと斬ると感じさせた。


 「嫌でもやらされる訳か……仕方ない」


 紅蓮を引き抜き、構える。突然始まった修練だが、アルロの技を体験することができるというのは非常に大きい。元より、我流……というのもおこがましいレベルの剣術だ。強い相手と戦う時にはほとんど通用しないだろう。


 この先を生きる為に是非とも、ここで教えてもらいたいものだ。


 「あぁそれと……お前の武器を使わず、あそこの刀を使ってもらうぞ」

 「は……? あそこってどこをっ……!?」


 言い終わるよりも速く、襟首を掴み上げられた挙げ句に投げられた。体勢を整えることすら出来ず、背を岩に打ち付けて漸く止まる。


 「あ゛ぁっ……! いってぇ……どんだけ飛んだ……?」

 「そこまで飛んでおらんわ。さぁ、ここにある中から一振り選べ」

 「一振り……? うわぁ、戦場跡みたいだ」


 アルロがすぐに追い付いてきたが、今にはそんなことどうでもいい。俺は、今いる場所をこの時初めてこの目で見た。


 投げ飛ばされたそこはまるで、刀の墓場のようだ。錆びてはいないが、殆どが放置されたせいでボロボロだ。


 「……ここって地下だったよねとか、空間おかしいとか色々言いたいことはあるけどもさ」


 近場にあった刀の柄を握り、引き抜いて切っ先をアルロに向ける。


 「特訓だってことは確かなんだろ? なら、怪我しても文句は言わないでよ」

 「当たり前だ」


 そう言い合ってから、お互いに向かって駆け出した。

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