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腕輪。

 「それでだ、レオパルドさん。これ一体何の効果がある?」


 「帰ってくるなりいきなりですか……もう少しゆっくりしてみては?」


 ディーンもここにいると聞き、雛と共にゆっくりと帰ってきた。レオパルドさんもいたため、すぐさま聞いてみることにしたが……何故か呆れられている。


 いや、ゆっくりしろったってさぁ?


 「リアムの野郎がずっとお怒りなんだよ、体は休められても心から休めねぇよ」


 帰るなり、リアムの襲撃を受けた。いきなりのことだったのですぐには反応できなかったが、最後は壁に叩きつけることで事なきを得た。


 が、うわ言のように「騙したな」と繰り返す為にとても……いやかなり居心地が悪い。本気で殺しに来ている目だった。


 「あぁ……許してやってください。亜人に親を殺されているんですよ、リアムは」


 「情報そんなサラッと出さないで欲しいわぁ……うわぁ、じゃあ俺存在が地雷じゃん」


 「まぁ、言って聞かせますので……腕輪についてでしたかな?」


 腕輪に指を指しながらの言葉に、頷いて肯定する。すると、どこから話したものかと考えるかのように、顎に指を当てて考え込み始めた。


 そして、考えながら……ゆっくりと寝息を立て始めた。


 ……いや、待ってくれないか? 


 「おい起きろぉ!! 途中で寝ないでくれませんかねぇ!?」


 「んおっ……おぉ、これは失礼。考えながら寝てしまいましたか」


 「最近寝てないとか言わないよな? レオパルドさん、悪いことは言わないから早く寝ようぜ。腕輪のことはこの際明日でもいい」


 ディーンの言葉で漸く気付けた。よく見なければわからない程度だが、うっすらと目の下に隈が見える。これまで健康的な生活をしてたが、突然生活リズムが狂ったせいで眠れなかったのだろう。


 その原因は恐らく、俺たちがここに来たせいだ。


 「……すみません。また明日にします。ゆっくり休んでください」


 「そうですか……では、少しだけ……腕輪に魔力を通すようにしてください。そうすれば、どんなものか自ずと分かるはずです」


 そう言い残し、彼は自身の寝室へと戻っていった。しかし、腕輪に魔力を通す?


 「義手に魔力を流す要領とは違うか……? 触れながら流し込んで……おぉっ!?」


 腕輪に触れて、魔力を流し込もうとした途端、ディーンと雛に腕を掴まれる形で止められた。


 「気は確かですか光牙さん!?」


 「そうだぞお前!? ぶっ飛ぶことだってありえんだからなそれ!」


 「あぁー……そうだったかぁ……いやでもあの人がそんなのよこすか?」


 そう言うと、雛は悲しげな表情をしながら、話を続けた。


 「……あの人も、結局人間なんですよ。裏切るかどうかじゃなくて、疑わなきゃ駄目なんです」


 「……そっか。そうだったね……迂闊だった」


 考えてみれば、当たり前だった。亜人に対して、普通の拘束具などつける人間はいない。大抵は逃げようと魔力を使えば炸裂する……らしい。


 腕輪に目をやり、どんな代物なのかを予想したが……まるで想像もつかない。気付けば二人も姿を消していた。


 大体の人間は嫌な奴ばっかりだ。それは分かってる。けど、それでも……


 「……信じたいなぁ、あの人を」


 そう小声で呟きながら、椅子から立ちあがり、ゆっくりと音を立てないように扉に手をかけた。


─────────────────────


 「……夜、案外肌寒いな。そこまで冷えないと思ってたんだけど……」

 

 日が落ち、辺りが寝静まった頃。思った以上に風が冷たく、体をブルリと震わせながら、誰もいない街を歩いていた。


 「何をしているんだ、赤い龍人よ」


 「……アルロだったよね。何、眠れないから夜の散歩だよ。何せあれだけぐっすりと眠ってたからね、目が冴えて眠れやしない」


 「そうか……」


 そう言うと彼は、何かを咥えて火をつけた。煙の匂いから、前世で言う煙草のようなものだろう。


 でもそれだけじゃない。何か他の成分が混じっている……と、何となくそう思った。


 煙を手で払いながら、口を開く。


 「げほっ、煙たいなぁ……そういうの吸うなら風下でやってよ。こっちに煙が流れてくる」


 「む? あぁ、失礼したな……」


 そう言い、アルロはこの場から離れていった。確かに風下でやれとは言ったが、離れる必要はなかったと思うが……まぁいいや。


 「これで漸く……腕輪がどんなものか試せる」


 着けられた腕輪に目をやり、その腕輪に手を乗せ、魔力を流し込んでみるが、何も起こらない。魔力を流すのが起動条件ではないのなら、これは一体何なのだろう。


 ……マジでただの拘束具? うそやん。


 「拘束にもなってないんだよなこれ……繋がらねぇんだもんこれ」


 確かに、少しばかり鎖はついているが……本当に少しだけだ。地面に着くほど長くもない。装飾代わりだとしても如何せん地味すぎる。


 「……ま、何もないことが分かっただけ良しとしよう」


 そう言い、重ねた手を腕輪から離した時だった。腕輪から、突然赤い糸が飛び出す。


 色は違えど、この街で何度も見てきた物だ。飛び出たまま雲散していくそれを見て、驚愕しながらも思考を纏める。


 「っ、魔力糸か……!? マジでこんなのどうやって仕込んでるんだ?」


 ……流石にまとめきれなかった……こんなもん本当どうやって仕込んでるのさ。教えてよ、絶対黙っとくから。


 それと、この魔力糸。腕輪をつけていれば使えるが……そのための魔力は、気にならない程度に少しずつ吸われているようだ。


 「ま、聞くことが増えましたね……と。そろそろ寝ないと明日に響くな」


 寝る前に少しだけ腕輪の効力を試してみたくなった。左腕を近場の柵に向け、糸を発射する。糸は自動的に柵に巻き付き、固定された。


 少し引っ張ってみるが、それだけではびくともしない。生半可なことでは外れなそうだ。


 「わお……便利だなこれ。遠くに吹っ飛んだ武器もすぐ回収できそうだし。でもこれ、どうやって早く移動するんだろう」


 街の人達は普通に移動していた。糸が巻き付いた所に向かい、何があっても真っ直ぐにだ。


 あれができれば、戦いの中でも便利だろう。だが、全くやり方が分からない。現時点では手詰まりだ。


 「うーん……まぁいいや今は。巻き取りとかできるのか……うおおぉっ!?」


 巻き取ることを考えた途端、勢い良く体が前に引っ張られた。視界がブレ、急速に柵が近付いてくる。


 「っ、ぐお、おぉぉっ……!!」


 糸を何とか切り離し、足を柵に向けると、勢いのまま柵に衝突する。作りが良かったのかそのまま止まることが出来たが、足からはビリビリと衝撃が昇ってきた。


 地面を転がり、痛みに堪えながら、足の様子を確認する。


 ゆっくりと力を入れて、地面に両の足で立つ。何の問題もなく立てたが、他の動作はどうだろう……?


 「跳ねる……よし、走る……よし! 問題なしと。しっかしいいもんだなこれ……」


 少し足を動かしてみると、問題なく使えることが分かった。今も少しは痺れているが、問題なく歩ける。


 「他にも試して見たいとこだけど……まぁ、うん。明日にしよう。疲れ切ったまま、ってのは避けたいし」


 腕輪から垂れている糸が雲散するのを見届け、自身の寝室へ向かって歩き出す。


 問題なく帰れたのは良かったが……問題なのはその後だ。横になってすぐ、日が昇るとは思わなかった。


 全く、なんてタイミングが悪いことだろうか。まぁそんなことはどうだっていい。


 これがどういう代物か、レオパルドさんに聞いた上で使いこなせるようにすることが先決だ。

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