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襲来。

 「っと、そうだ……首飛ばしても生きてるんだっけ、吸血鬼だし」


 疲労とダメージで体が重く、すぐにでも座り込んでしまいたかったが、トドメを刺すべくアルフレッドの肉体に向かって歩き出す。


 「気をつけろよ。生命力の高い個体は、首だけになろうが生きているからな……確実に、心臓を潰してくれ」


 「了解。でもまぁ……こんなの死んだも同然だ」


 ミストの呼びかけに答え、アルフレッドの体に近付いていく。今首がどこにあるかは確認できないが、近くにないことは確かだ。


 「心臓って、この辺りだよな……じゃ……おしまい、っと!!」


 紅蓮の切っ先を心臓に向け、まっすぐに振り下ろす。突き刺された体が一瞬痙攣した後、力が抜け、体の末尾から灰に変わっていった。


 「これで、本当に終わり、だな……?」


 「あぁ……ありがとう、光牙。それに皆。色々と助け……」


 ミストが言葉を言い終える前に、何かが俺達の間を回転しながら通り抜ける。


 遅れて、何かを貫き、倒れる音がした。


────────────────────


 「……アシャ!?」


 「そんな……!? 敵の気配はなかったはず……なのに何処から……!」


 ミストがアシャに向かい、駆けていく。こうしている間にも、真っ赤な血が床を赤く染め上げる。


 アシャの小さな体に、武器が突き刺さっている。心臓の辺りを貫通しており、苦しそうな表情のまま、声を出さずにゆっくりと死へ向かっていく。


 「全く……アルフレッドには見る目がないらしい」


 聞き覚えのある声が、その場に響く。


 間違いない。一時も忘れたことなどなかった。憎悪の対象であり、リュミエールを焼いた、張本人。


 人間の支配を謳い、敵や自分に必要な物以外は斬り捨てる、非情なる雷龍。


 フリード・ロアが元からその場所にいたかのように、武装を投擲した状態で立っていた。


 「最初から期待していなかったとはいえ、殺すべき対象を殺さず、魔法を封じて放り出すだけだとは……愚かにも程がある」


 「……テメェッ!!」


 「突然現れて、何してんだ!!」


 激情に任せて、紅蓮に焔を纏わせ斬りかかる。が、そんな攻撃が当たるはずもなく、簡単に避けられてしまう。


 ディーンの攻撃も同様で、回避された挙げ句に、白い雷を受けて吹き飛ばされ、気を失った。


 「ディーン!! お前、また仲間を……!」


 「今は貴様らに用はない。要らぬ駒が、でしゃばるな」


 「はっ、何度でもでしゃばっ──」


 言い終えるよりも早く、強い衝撃が身を襲った。壁に背を打ちつけ、肺の中の空気が全て絞り出される。


 「光牙さん!」


 「問題ない……! アイツ……! あ? 何で腕が動か……!?」


 両手をついて立ち上がろうとするも、左腕が全く動かない。義手を見ると、肘の辺りから下がなくなっていた。


 義手が遂に限界を迎え、今の攻撃で千切れたのだろう。


 「お前は……何故、アシャを殺そうとする……!」


 「強すぎる駒はいずれ、不安要素になり得るからな。できるだけ撤廃するのが正解だろう? 最も、そこで灰になった無能が行うはずだったのだが……子への愛だったのかもしれぬ。全く、くだらない……」


 息も絶え絶えなアシャを抱き、庇いながら聞くミストの問いに答えながら、アシャに深く刺さった剣に、手を向ける。すると、アシャの傷口から勢い良く抜け、アシャの体から血が吹き出した。


 それだけでも、今のアシャには十分致命傷になり得るものだ。胸を抑えていた腕をだらりとさせ、体全体から力が抜ける。少ししてから、灰に変わっていく。


 「まぁ……これで漸く、夜の王が死んだ」


 血の付着した剣を振るい、血を落としながら、ロアは言った。


 「……きっ、貴様ァァァァッ!!」


 「何てことを……!」


 ミストが激昂し、自身から流れた血を操り、槍を作り出す。それを持ち、妹を殺した仇に向かい、駆け出した。


 「はぁ……ベルゲ。任せるぞ」


 「ホホッ、お任せくだされ!」


 指示と共に、何者が槍の一撃を防ぎ、ミストを弾き飛ばす。咄嗟に槍を地面に突き刺し、勢いを削ぎ、現れた人物を睨みつける。


 「裏切り者だとばかり思っていたが、最初からどちら側でもなかったのだな……ベルゲ!」


 「ふん、貴様らの小競り合いなど興味の欠片もなかったわ。最初から、雷龍様の下僕だったよ」


 ベルゲは会ったときとは違い、若々しい姿をしていた。筋骨隆々という言葉が、ぴったりだろう。老人のままならまだしも、今の若々しいベルゲと、ロアの二人を相手にして生き残れるのか。


 答えとしては、無理だろう。


 「くそっ……身体が思ったように動かない……」


 ミストはそんな状況でも立ち上がろうとするが、身体が思ったよりもダメージを蓄積しているのか、立てずにいる。


 ロアがそんな様子のミストに近寄り、剣を首筋に近付け、嘲笑しながら口を開いた。


 「無様なものだ。妹を救えず、父親も他人の手を借りねば倒せなかった。どちらの目的も、果たせなかった……そんなものに、生きる価値はあるか?」


 「……今すぐその口、閉じろぉ!!」


 ミストに対する言い分に、耐えきれず叫ぶ。やはり、あいつの言うことには理解できることはあっても、決して相容れることはない存在なのだろう。


 アルフレッドが持っていた剣を掴み、ロアに向けて投擲する。ベルゲに簡単に弾かれてしまうが、知ったことではない。気にするべき事柄でもない。


 身体強化を全体に回し、弾丸の如く飛び出す。


 「消えた!? どこに行きおった、小童め……」


 「遅いんだよ、ノロマが」


 「っ、速───」 


 姿を消した俺を探すベルゲの背後に回り込み、全力での回し蹴りを首に叩き込む。確かに骨をへし折る感覚を感じながら、その脚を振り抜いた。


 ベルゲの体が壁に叩きつけられるよりも速く駆け出し、脇差しである火花を引き抜き、馬乗りになる。


 その勢いのまま、同時に壁に叩きつけられるが、そのまま火花を心臓に叩きつけた。


 「ミスト達を馬鹿にするな。ましてや──裏切ったお前が。これ以上邪魔になる前に、くたばってくれ」


 「がはっ……! おのれ、蜥蜴の小僧が……!」


 ベルゲが俺の首に手を伸ばそうとするが、それよりも速く心臓に刺さった火花を捻り、心臓へのダメージを甚大なものにする。


 動きが緩慢になりだしたが、まだ生きている。ならばトドメを刺さなければならない。何度も火花で滅多刺しにし、夥しい量の血を浴びながらベルゲの息の根を止めようとする。


 ここで、ロアの手下であったこいつを、殺さなければ。アシャが死ぬ原因になったのも、こいつがロアについたからだ。絶対に逃がすものか──


 「っ、光牙さん!! 駄目です! もうそれ以上は!!」


 雛に引っ張られ、ベルゲから強制的に離される。そのままベルゲの体は、灰となって崩れ落ちていく。が、突然体の向きを変えられると、頬を勢いよく張られた。


 「……ってぇ……」


 「一旦落ち着いて下さい!! 冷静にならなきゃ、勝てるものも勝てやしませんよ!」


 そうだった。ベルゲを殺すことで頭が埋まってしまったが、今ディーン、ミストは行動不可、ルーナが……生死不明という状態だ。


 生き残るには、ロアをどうにかして追い払う必要がある。なのに怒りに目を曇らせ、邪魔をしたベルゲを殺すことに躍起になっていた。


 皆を逃がす。これを最優先の目標とし、ロアの前に立ち塞がるように動く。

 

 「……すまん、悪かった……雛、皆を連れて離れてくれ」


 「またですか!? 一人で戦える相手じゃ……!」


 「じゃあこれ以外に方法があんのかよっ!? これ以上仲間を殺させないようにする方法が!!」


 雛に向け、怒鳴り散らす。自分でも申し訳ないと思ったが、こんな状況だ。迅速に動いてもらいたかった為に、つい叫んでしまった。


 「……ごめん。絶対、無理はしないから。先に逃げて。こいつは倒せないにしても、時間を稼ぐぐらいはするから」


 「……信じますからね」


 「逃がすものか。誰一人として生かして返さんぞ」


 そう言い、雛が動き出そうとする。それと同時に、ロアも雛を狙い、動き出した。体全体に強化をかけ直し、ロアの向かう先に飛び出す。


 「……! なるほど、それなりには動けるようになったのか……」


 「ここからどこにも行かせねぇよ! 絶対に、なぁ!!」


 紅蓮を引き抜き、首を狙って振るうも、ロアのギリギリを掠める程度に終わった。

 

 すぐに、炎を足裏から噴射し、勢いよく飛び退く。飛び退いた瞬間、先程までいたところに雷が落ちた。


 「何ともまぁ、速くなったことだ。落ちる雷よりも速いとは」


 「偶然だ、狙いが甘かったからな……!」


 会話をしながら、雛達の場所を確認する。もうすぐ館からは脱出できるといった所であり、ミストがルーナを、雛がディーンを支えている。


 「些か、背後を気にしすぎではないかね?」


 「っ、しまっ……!」


 そんな声と共に飛来する、突然の雷撃を紅蓮で弾く。ロアの姿を見失わないよう、目を逸らさないようにしたが、ロアの動きは想定していたよりも速かった。


 紅蓮を戻すよりも速く、正面に移動していた。こちらに向けられた掌からは、白い雷が漏れ出ている。


 咄嗟に後ろに飛びながら、尻尾で地面を叩きその軌道から抜けようとするも、遅かった。掌の光が強まり、雷が放たれる。


 「そら、存分に味わうといい……!」


 「ぐうっ……! あ゛ぁぁぁっ!!」


 雷がこちらに向けて放たれ、体を焼かれる寸前、紅蓮を不安定な体勢のまま雷の発射点である掌に向けて突き出した。


 体を焼かれ、激痛が身体中を走る。だが……紅蓮の切っ先は、確かにロアの掌を貫いた。


 「うぐっ……! 油断したか……」


 「だぁっはっ……!! やっぱり滅茶苦茶痛え……!」


 互いに地面を転がり、距離を取る。地面に倒れ込みながら、ロアを見ると貫かれ、流血する掌を眺めていた。


 少ししてから、ロアがこちらに向き直り、ゆっくりと距離を詰めながら歩いてきた。


 「……不要な駒だと言ったが、取り消そう。それなりに、面白い駒だ」


 「それを聞いて、喜ぶとでも……!?」


 「いいや? 本当に手駒にしたいよ。だが……お前は、俺の元に付く気はないだろう?」


 「ご明察なようでっ!!」


 そう言い放ちながら紅蓮を投擲する。片手で弾かれ、ロアがそのまま向かってくる。


 紅蓮を手で弾いたのを確認してから、手に火球を生み出し、こちらからも走り出す。


 「本当に……残念で仕方がないよ!」


 ロアの攻撃が、少しばかり速かった。雷を纏わせた手刀が、頭めがけて降ってくる。


 本意ではなかったというような言い方に、頭の中が真っ赤に染まる。無意識的に火球を握り潰し、焔を纏わせた拳を強く握る。


 しかし、相手の方が速い。尾を利用し、手刀を受け止めるが、半ばまで切断される。焼けるような痛みに、叫びそうになるが、堪えて拳を関節が白くなる程握り込む。


 「残念だというのなら、リュミエールの殲滅なんて、するんじゃねぇよバカ野郎がっ!!」


 「なっ───ぐううぅっ!!」


 切断されかけた尻尾も利用して拘束し、掌にある火球を、拳と一緒に叩きつけ、炸裂させる。


 ロアの体が、爆発音と共に宙を舞う。至近距離の爆発によって、自分の体も大きく後ろに吹き飛び、お互い壁に叩きつけられた。


 「っ……! ふぅ、強烈だった……! 爆裂拳って、やるもんじゃねぇな……」


 「貴様……相変わらず無茶をするものだ。長生き出来んぞ?」

 

 体についた煤を落としながら、ロアが立ち上がる。同時に体の傷を確認しているのか、至るところを確認してから、こちらに視線を向けた。


 「《ファースト・エイド》っと……生憎、これしか知らないんだよね。知ってるのかもしれないけど、いざ実践になると忘れてしまうんだ。で、まだやる?」


 正直な所、もう帰ってほしい。できることなら、重症にしてやりたい。だが、さっきの魔法で少しはましになったもの体中傷だらけ、魔力はほぼ空。おまけに義手が破損している状況。


 はっきり言って、勝ちの目なんてない。逃げに徹しようが、雷の速度より速く動けるわけがない。つまり、手詰まりだ。


 ここで帰ってもらえないと、俺は間違いなく殺される。それを避けるためにも、紅蓮を手に持ちながら、どうすればいいのか思考を回し続ける。


 「ふむ……そうだな……ここで心行くままに、お前と殺し合うのも良さそうだが……止めだ。まだこの程度だというのなら、問題なく殺せるだろう。ここで引き上げるとしよう」


 「なんだよ、やけに速く帰るんだな? 痛みにびびったか?」 


 撤退してくれる、というのは非常に有り難かった。だが同時に怪しくもある。目の前の敵が、いずれ邪魔になるだろう龍人を逃がすとは、到底思えなかった。


 そのせいで安堵することも、紅蓮を持つ手を緩めることもできなかった。

 

 「何より、先程用は済ませてある。夜の王という、規格外を残してなどおけぬわ」


 「……やっぱり、お前はクソ野郎だよ。ふざけた目的の為に、子供を殺すんだから」


 「決して理解されようなどと思わん。傲り高ぶった人間のせいで、我々はその数を大きく減らした。魔物と同じようなものだという、愚かな決めつけからによってだ……我が両親も、そのせいで死んだ……!」


 話しながらロアの顔が、激しい怒りで歪んでいく。前々から並々ならぬ怒りを秘めているとばかり思っていたが、予想以上だった。怒るロアの視線を正面から受け止めた時に、少し怯んでしまった。


 それほどまでに、激しい憤怒。

 

 「我等は奪われたのだぞ!? 名どころか、顔も知らぬ同胞を! 両親を!! それを何故許す事ができるのだ!?」


 激昂しながら、青白く明滅する掌がこちらに向けられる。咄嗟に防御体勢を取ると、視界の殆どを埋め尽くす程の雷撃が放たれた。


 大剣である焔牙ならまだしも、紅蓮では防ぎようがなく、体のほとんどが焼かれていくのを感じる。


 「ぐゔゔっ……!! でもっ、耐えられない、わけじゃない……!」


 体を焼かれる、強烈な痛みに耐えながら、今ある魔力の殆どを流し込んだ紅蓮を振るう。雷撃を振り払おうとした行動だが、魔力を使った為かはわからないが、雷を打ち消すことが出来た。


 全身に走る痛みに耐えながら、ロアの姿を探す。しかし辺りを見回しても決して姿を見つけることはできなかった。


 恐らくあの雷撃の中で、飛び去ったのだろう。そう結論付け、紅蓮を取り落としながらも、壁を背に座り込んだ。


 「……確かに、それは許せないだろうな……でも、それだから化け物に変えて、支配下に置く……のは、間違いなん、じゃないか……?」


 残った魔力で、体を癒やしつつ、ロアの言っていたことを考える。


 しかし……今のこの世界のことを考えると、それは間違っているとロアに向かって言いきれないのが、非常に心苦しかった。

 

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