執念。
肉薄しながら焔を纏った紅蓮を振り降ろすも、近付くよりも早く作られた血の剣によって止められてしまう。
押し込み、焔で焼こうとしたところ、もう片方の腕にも同じように血の剣が現れ、首を狙って振るわれるも、アルフレッドを蹴り飛ばし、無理やり距離をとる。
「はぁ……はぁ……まだまだ元気か……そりゃそうか、互いに決定打は与えられてないし……」
「……今相手しているのは4人だけだというのに、ここまで苦戦するとは……私も年か」
「だったら野望なんかぽいと捨てて、とっとと隠居しろっての……!」
会話を途中で切り上げ、先程と同じように肉薄しながらも、槍を突き出す。が、槍を踏まれ、そのままへし折られてしまう。
「っ、やっぱり慣れてない武器は駄目か……」
槍を手放し、咄嗟に距離を取ろうとするも、その時に既に懐に潜り込まれていた。営利になった爪が、肉を引き裂こうと向かってくる。
防御も回避もできない状況で、咄嗟に義手の拳を前に突き出すも、双方の攻撃が激突した衝撃で背後に吹き飛ぶ。
「がっ……!?」
「ぬうっ……!! 鼠と侮っていたが……」
互いに息を詰まらせながら、立ち上がり義手の損傷を確認する。大きなヒビが入っており、この戦闘では最早無茶ができないということを示していた。
だが、アルフレッドも余裕が消えてきている。へし折れた腕の再生にも時間がかかっていることから、相当消費しているのだろう。
「おい、お前魔力が尽きてきてるんじゃねぇか? どうだよ、この辺で降参しとけよ」
「あぁ、勿論死んでもらってもいい」
ディーンとミストが、そう言って前に出てくる。口ではそう言っているものの、戦いは続くということを察しているのか、しっかりと自分の武器を向けている。
「俺もそう思うよ、アルフレッド。もう止めとけ、死ぬよりは生きろ」
「……嘗めるなっ!!」
アルフレッドはそう言うや否や、腰の剣を引き抜き、高速で突貫した。ミストが魔導銃の引き金を引くが、それを容易く避け、ミストを高く蹴り上げる。
蹴り上げられたミストの腕からは、砕けるような音が聞こえた。しかし、ミストも魔導銃を取り落としながらもすぐさま体勢を整え、アルフレッドを探すが……
その時には既に懐に潜り込んでおり、腹部に深々と血の剣を突き刺された。ミストはその場に崩れ落ちながらも、魔導銃を突きつけるが、顔を蹴られて倒れ込む。
「ぐううっ……!! 何だ、突然早く……!?」
「ミスト、一旦下がれ! こいつは俺たちで……ぐおぉっ!?」
ディーンがミストに駆け寄ろうとした瞬間、再度始まったアルフレッドの突貫をモロに受けてしまい、体が宙を舞う。
そのまま地面に叩きつけられるが、すぐにその場から離れて短剣を投げた。だが、短剣を容易く避け、ディーンの背後に蝙蝠に变化して回り込む。
その拳には、尋常ではない魔力が込められていた。あれに触れれば、ディーンは無事では済まないだろう。
「っ、何でもありかよっ……」
「ディーン! 避けろっ!!」
そう言いながら、折れた槍を全力で投擲する。投げられた槍は一直線に飛んでいくが、アルフレッドが手を翳すとその場で停止する。そしてその槍を掴み、こちらに向かい突貫する。
その余波だけで近くにいたディーンは吹き飛び、壁に激突してしまう。
「ディーン!!」
「他人の心配を、している暇があるのか?」
声が聞こえた瞬間に、指輪から木刀を取り出し、槍の一撃を防ぐ。が、衝撃によって後ろに吹き飛ばされた上、木刀には少しヒビが入った。
「脆い武器だ。このタイミングで取り出したのがただの木とは、笑わせるな!」
「っ、早っ……がぁっ!?」
体勢を大きく崩していた所に、回し蹴りを叩き込まれ、天井まで吹き飛ばされた。勢いよく天井に激突した後、重力によって床に叩きつけられる。
落下が原因でへしゃげた床から、何とか立ち上がると、木刀をしまい、紅蓮を引き抜き、斬りかかる。
だが、最初と比べると剣の勢いがまるで足りない。ダメージの蓄積が、ここに来て響き始めたようだ。そんな剣戟など見切られ、容易く避けられてしまう。
しかし、ここまで来れば後は意地だ。当たるまで振るってやろうと、紅蓮を両手で握り、力を入れて振るう。
「本当に頑丈だな。結構な力を込めて蹴ったのだが」
「へっ……体だけは頑丈なんでね……!」
紅蓮の刃は躱され続け、掠りすらしない。しかし、諦めてはいけないと自分のを鼓舞し、何度も振るい続ける。
少しの間、振るっては避けられの状況が続いていたが、紅蓮の刃を素手で掴まれ、動きが互いに停止する。
「踊るのは、お互いもう飽きただろう? 閉幕としよう」
アルフレッドが紅蓮の刃を掴んだまま、腰にある剣を抜き、ゆっくりと振り上げる。
距離を取ろうと刃を引くが、強く掴まれておりびくともしない。指からは血が流れていることから、刃によって斬れていることはわかるのだが、決して離そうとしないのだ。
「くそっ……離せよっ!!」
必死で引くも、変わらず刃を離すことはない。片手で掴んでいるのにも関わらず、両手で引く力に負けない膂力と、指が斬れようと掴み続ける意思。
それが、相手になるとこんなにも面倒だとは。想像すらできなかった。
「では、終わりだ。良い眠り……お゛っ!?」
「っ、危なかった……! せいっ!」
「あっ、がぁぁぁぁ!!? 貴様、腕をぉ……!」
突然、アルフレッドの体がよろめく。紅蓮の刃もその拍子に手離し、開放された。
咄嗟に紅蓮を振るい、紅蓮の刀身を掴もうとした腕を斬り飛ばしてから、距離を取ろうと動き出す。
それでもなお、逃さまいと手を伸ばされるが、後方から放り投げられた筒状のものが破裂し、強烈な光を放つことで視界を奪う。その隙をついて、壊れた家具の裏に駆け込んだ。
「危機一髪……所で今のは……ミストと、ディーンか?」
「その通り。一旦仕切り直しにしようや。流石に搦め手使わねぇと、死んじまうわ……何で真っ向から挑んだんだろうな?」
「そうだな……さて、作戦を……と言いたいが……休憩も終わりっぽいな」
作戦を話す暇もなく、隠れていた家具が吹き飛ぶ。アルフレッドが、迷うことなくこちらに向かいながら剣を振るったのだ。
ディーンと同タイミングで、咄嗟に床を転がることで刃を避けた後、それぞれの武器を引き抜き、まずディーンが斬りかかる。
その刃は簡単に防がれてしまうが、すぐに距離を取ると壁を蹴り、更に勢いをつけて斬りかかる。何度目か防いだ後、アルフレッドが口を開く。
「自ら近付くとは……頭がイカれたか?」
「周りが殆どイカレポンチなんでね、そりゃイカレちまうだろうよ。自分でも怖えしな」
短剣のリーチの長さを考えると、態々相手の攻撃範囲内に飛び込まねばならない。恐怖に打ち勝てるかどうかが試される武器だろう。
しかし、ディーンは真っ当な剣士ではない。寧ろ闇討ち上等、云わば暗殺者といった部類にあたる。
「ほらよ、お代はいただきませんよ。いらないので、追いかけてくんじゃねぇぞ!」
再度照明弾を放ち、視界を奪う。アルフレッドが目を押さえながらよろめいた所に、雛が薙刀を持って突貫する。
「っ、貴様……! 前に出てくるとは……!」
「私、守られてるだけではないつもりでしたが? 実際、矢で翼を潰したでしょう?」
視界がほぼ潰れているのか、満足に防げず、雛の薙刀による攻撃をまともに受けている。
全力で薙ぎ払い、剣で受けたアルフレッドが体勢を崩した所に、ミストが突っ込む。魔導銃の引き金を何度も引きながら、まっすぐに突貫していく。
「年貢の納め時だな、アルフレッド……ここで仕留めるっ!」
「くっ、そんな玩具が通じるか……!」
視力が回復してきたのか、放たれる弾丸を尽く叩き落としていく。しかし、それでもミストは弾を撃ち続け、堪らず空へ逃げ出した。
「えぇい、鬱陶しい奴だ……!」
「飛んじまっていいのか? そこにはまだ一人いるだろう?」
アルフレッドより高く飛び、勢いよく落ちる勢いと同時に、焔牙を振り下ろす。
血の剣と、手に持った剣で防がれるも、骨が砕ける音を響かせながらその防御ごと地面に叩き落とした。
「がぁぁっ!! おのれ……蜥蜴モドキがっ……!!」
「その蜥蜴モドキと、自分の息子が連れてきた奴らに今から殺られるんだよ。まぁ……娘を自分の権力の為に捨てた時点で、覚悟できてたんじゃない?」
焔牙を一旦しまい、紅蓮に持ち変え、翼を広げて突貫する。アルフレッドの背後からも、ミストが、血の剣を持ち突撃している。
「これで……」
「「終わりだ!!」」
二つの刃がアルフレッドを捉え、血が滲み出す。
アルフレッドは、同時に二つの方向からの剣戟を防御しようとした。だが、どちらも満足に防御できる程、体が万全ではなかった。その結果、二つの刃を同時に受けてしまうことになった。
自分から攻め立てるのは得意だが、防御は苦手だった、ということだろう。
「でぇぇぇぇぇい!!」
「これで、漸くアシャの呪いも解ける……本当、長い喧嘩だったな、クソ親父!」
互いに武器を振り抜き、アルフレッドの首を飛ばす。お互いに赤い血がかかるも、そんなこと気にもならなかった。
取り敢えずは、ミストの悲願が成就されたということ。それを喜びたい。