吸血鬼と狼人と龍人と。
あの後、少しして自分とロビンの止血を終え…といっても、応急措置程度だが…肩に背負う。
口の中に溜まった血を吐き出し、ゆっくりと歩き出す。
「おい…何してんだよオタクは…?」
「あれがトドメになって、死んだってならなんも気にせず戻れる…けどよ、まだ生きてて、放っておいてそのまま死んだって言われたら後味悪いだろうが…あとまたやろうって言って死ぬなよ…」
目標があるならせめて叶えてからにしてくれ…本当に。
「オタクも甘いねぇ…この状態でも…」
僕の首筋に、冷たい鉄の感触が触れる。
「殺すことぐらい出来るって…考えなかったのか?」
そう言ったロビンの顔は、無表情だった。生憎、僕は心理学とかはわからないから、相手がどんな事を考えてるとか、わからないし、興味もない。
…ただ…
「別に?ただ、助けられるなら助けるって決めた。馬鹿にするならすれば?それに、殺しに来るなら、その綺麗な顔面潰すよ?」
「おっと、そりゃ困る。まだ仕事残ってるしな…」
脅しが効いたのか知らないが、ナイフが地面に落ち、部屋の中に音が響く。
よかった…無駄な事に体力使いたくないし。…ましてや人殺しなんてしたくない。
「ほら、戻る道教えてよ。早いとこ戻らないといけないんだから」
「あー…穴の下。そこに立っとけ。後はなんとかなる」
「それが一番不安なんですけど…」
とりあえず、指示通りに落ちて来た穴の下に移動し、何かが起こるのを待つ。
「おーい、お嬢!終わったぜ、負けちまったよ!」
「いや叫んでどうすんだよ」
「大丈夫だって、どちらか負けたら止めるつもりだったしな」
その言葉の後、地面から足が離れ、意志とは関係なしに上昇していく。
「うおっ、なんだこれ!?」
「重力魔法の一種、《アンチ・グラビティ》だったか?」
「…何でお前ら盗賊やってんの?」
確か、この世界の重力魔法という物は、人を少し浮かせるのでかなりの魔力を使うため、あまり使用する者はいないと聞いたけれど、吸血鬼の一族が魔力を使用する事に長けているため、あるいは…?
「おい、着くぞ?」
「えっ?早くねってぐえっ!!」
かなりの勢いで登っていたのか、考えに耽ったまま、天井に衝突してしまった。あー…痛いうえにこれは黒歴史に入るかも…
「あら、あまり加速はつけていなかったのだけれど…」
「お嬢、あんたの加速なしは加速した俺レベルだろうが…」
どうやらこの方、かなりの速度チートのようです。まともに速度で挑めないなぁ…
「にしても…派手にやりましたね…っ!そうだ、雛さんは!?」
地面が削られたり、柱が溶けていたりするが、そんな事はどうでもいい。まずは雛さんを…
「あぁ、あの子はそこよ?あなたの後ろ、大体5ソルぐらいね」
ソルとは、この世界での長さの単位だ。テンプレ通り、1ソルで1メートルだった。
そして後ろを見てみると、ひび割れた地面に横たわっている雛さんの姿があった。それを見た僕は、血の気が引いていくような感覚に襲われ、雛さんの近くに駆け寄り、抱き起こし、その体を揺らす。
「大丈夫ですか!?」
「う…あ…光牙、さん…?」
よかった、目が覚めた!けれど、状態はあまりよくない、早いとこ回復しないと…
「さて、《フルヒール》」
って思っていると、お嬢と呼ばれた女性が回復魔法を飛ばしてくれた。ってちょっと待って?
「…一体、どういうつもりだ!!」
雛さんを庇いながら、剣を構え、いつでも迎撃出来るように準備をしておく。
「うーん…少し、暇だったから?そしたらあなた達がきてくれたのよ」
「…ふっざけんな!あんたの遊び道具じゃないんだよ、僕らは!!」
「分かってるわよ…正直やり過ぎたと思ってるわ。捕まってる人達も解放する。それだけは私達でやろうと思ってたの」
…なんか調子狂うな…待てよ、それだけは…?
「ボスでもいんの?無理矢理言うこと聞かせられてるとか?」
「そういう事よ…私達は二人とも、かなり珍しい種族だし…狼人と吸血鬼…あなた達程ではなくても、それだけで狙われる。だから適当な場所に転がり込んだって訳。実際、捕まった人達とは仲良くさせてもらったし」
根っからの悪人…というわけでもないらしい。うーん…信じていいのか?
「光牙さん…その人…信じてもいいと思います…」
「雛さん!…どういう事です?」
「…私にこの攻撃をした時、焦った様子を見せたんです。本気出してしまったみたいな…ここまでの威力を出すつもりはなかった、必要以上のダメージを与えるつもりはない…実際、ギリギリで逸れましたし」
うーん…信用しても…いいのか…?
「おい、何してやがる…侵入者か?しかも羽虫か…さっさと潰せよなぁ…!」
しまった!バレ…!
「おっと、あぶねぇ!」
ロビンに雛共々拾われ、巨大な棍棒の一撃を避ける事ができたが…なんだこの大きさ!?10ソルぐらいはあるぞ…!?
「よくやったわ、ロビン。しかし巨人族ね…よくこんなところに移り住んでこれたわね。あの図体で」
「確かに、あんな図体でよくこんな場所まで来てばれなかったなぁ…」
「うるせぇぞ、虫ども!踏み潰してやるよ!!」
沸点が低いのか、その巨大な足が僕らに向かって振り下ろされるが、障壁のような物で弾かれた。
「ねぇ、光牙?共同戦線と行こうかしら?どうせこれが終わってもいく宛なんてないし」
「…やりますか…ちゃんと全部弾いて下さいよ?」
「ふふっ、了解よ」
ここに即席の、しかも連携のれの字もないような奴らが、手を組んだ。