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始まり。

 作戦決行の時はすぐに来た。あれから体を休めながら魔力の操作を行うことによって、自分の怪我も直様治せるようにはなってきた。兵の方も、中々に鍛えられてはいる。


 しかし、死ぬことへの恐怖が拭える訳ではなく、作戦の日の朝には絶望しきった顔や、恐怖に怯える表情が多々見受けられた。


 「ディーン、雛。残っても良かったんじゃないの?」


 「バカ言うなよ。お前一人だけ良い格好させられるかっての。お前だけじゃないだろ、助けてぇのは……」


 「正直、光牙さん一人で突っ込むのは逆に恐ろしい点もありますからね……見張っていないと」


 そう言いながらも、二人の表情は何処か強張っていた。装備の方は大分強化されており、軽装ではあるものの、装備の位はとても跳ね上がったと言える。


 しかし、勝てるか分からない戦いはどうしても恐ろしい。義手が恐怖を敏感に感じているのか、先程から小刻みに音を立てている。


 「……そうなんだけどさ……俺は仲間も失いたくないの。だから死ぬと思ったら迷うことなく逃げてくれ……お願い」


 「言われなくても。死ぬつもりはねぇよ」


 「光牙さんこそ、死なないで下さいね?」


 「うん、俺もそのつもりだよ」


 そう言いながら、拳を突き出して来る二人。その拳にそっと拳をぶつけ、その場から離れてミストがいる会議室に向かう。


 「どこも引っ張り出せる武器は引っ張り出してんな……総力戦って言ってたけど、まさか戦えないやつにも竹槍とか持たせたりしないよな……?」


 向かう途中では、厳重に仕舞われていた武器や、埃を被っていた砲台等を整備しているのを見た。人狼と吸血鬼が協力してことに当たっているのだから、その進みは速い。


 しかし当たり前のことだが、人に対して武器が足りていない。元々戦闘部隊のみ装備していたのだから、武器の数は足りている訳がなかった。


 人狼の部隊からも借りてはいたが、それで何とか武器のみ行き渡るといった状態だ。防具はつけていない者が殆どだった。


 「防具なしの者は基本裏に下がる……けど、それでいいのか……?」


 「仕方ないんだよ、私達は少数で挑まなきゃいけないんだから」


 準備を進めているのを見ていると突然声をかけられた。振り返ると、ミストに連れられて来たときに睨んでいた吸血鬼だった。


 「あー……あんたは俺達嫌いじゃなかったっけ?」


 「助けられたんだ、嫌ってる訳にもいかないでしょ? そうだ、私はルーナ。ミスト様の部下だよ」


 「そういうもん……? まぁいいや、よろしくルーナ」


 互いに右手を差し出し、握手をする。まぁ認識を改めてくれたようで良かった。後ろから斬られないだけ安心できる。


 「で、ミストは何処にいる? 目標とか纏めときたいんだけど……」


 「その為に私が送られてきたんだ。ミスト様は皆の意見を纏めてる。逃げたい者は逃げてもいいとのことだったし、その旨を皆に伝えてる」


 ミストが皆に特攻を強要させるつもりはないと分かっていたが、それはそれで安心した。ミストのことだって分からないこともあれば、見抜けないことだってあるのだから。


 「そうだったか……ミストが街長になればいいのに。まぁいいや、確認したいことは最優先事項。それと、ハンターが現れた場合の対応を確認したい」


 「最優先事項は勿論、敵の将であるアルフレッド・カートライトの討伐。そうすれば、アシャにかけた呪いが解けるからね。絶対に逃しちゃだめだよ。ハンターが現れた場合は、臨機応変に対応をしてほしいってことだった。他には?」


 「……アルフレッドは、俺達が殺してもいいのか?」


 アルフレッドを俺が殺すということは、ミストの望みを、俺自身が砕くということになる。それでもいいのかということを、確認しておきたい。


 「いいらしいよ。殺せる者が、殺してって命令を出した。本人も、俺が殺すことには拘らないって言ってたし」


 「……長年の望みを捨てるのか、勝つ為に。すごいな……捨てきれるのか、自分の望みを」


 「そうだね。難しい決断だったと思うよ」


 「あぁ……後はいいや。敵は斬るだけだし」


 そう言い、ルーナから離れて思考を回し続ける。


 長年の望みを捨て、仲間が勝つということに賭けるというのは中々難しいことだ。それができるのはほんの小数の人間だろう。


 しかし、ミストの決断が正しい物だとは誰にも分からない。願いを捨てたとしても勝てないことだって普通に有り得てしまう。


 ここは物語のように、決められた道筋が存在している訳ではない。どれだけ犠牲を払おうが、何かを対価として支払い、強い力を得たとしても簡単に死ぬそんな世界だ。


 ただその願いを捨てた分、勝てるということを祈ることしかできない。


 「ハンターからは逃げた方がいいだろうな……流石に危険すぎるし。でもどうしようもない時は……やるしかないよな」


 「出来ればそうしてくれ、こちらとしても無視できない被害を出されるのは困る」


 声の方向に振り向くと、ミストがこちらに向かってきていた。その方向に向き直り、ミストが向かう方向に続いて歩き始める。


 「ミストの指令は行き渡ったのか?」


 「滞りなくな。全員が残ると言ったのは正直驚いたが。上に立つ者としては正直、お粗末な部類だと思っていたんだが……」


 「それでも付いてきてくれるならいいじゃん。逆に減るかもしれないと思ってたよ俺は。人気のあるようで何よりだ」


 そう軽口を叩くと、ミストは笑いながら小突いてきた。緊張を解そうと思い軽口を叩いたが、そんな必要はなかったようだ。


 「あまり緊張していない様子だね?」


 「……いや、緊張はしているさ。流石に死ぬのは怖い」


 そう言うミストの顔は、確かに強張っているようにも見え、普段通りの顔を保っているようにも見える。


 「それは俺もだよ。死んだらどんな大層な夢を持ってても終わりだし……」


 「やはりか? しかし上の者が恐怖心を見せる訳にはいくまいよ」


 「死ぬ覚悟はしといた方がいいけど、実際死なないように立ち回るのが一番。別にビビって逃げた所で……まぁ、俺は責めないよ」


 「……そうか……ありがとう。ただ、俺は逃げない」


 ミストの顔から、不要な強張りは消えた。しかし、今から行われる戦いに逃げ場はあってないような物だ。勝とうが負けようが、ミスト達の立場からして上に立つのは難しいだろう。


 ミスト達や人狼にとっては街を何とかする訳ではなく、ただ上に対する反逆。そして、俺たちにとってはロアの企みを砕く為。


 利害が一致した為の共同戦線。しかし決して正しい物ではないというのは、ミストは痛いほど理解しているだろう。


 「じゃあ……死ぬなよ」


 「当たり前のことを言うな、アシャがいるんだ。死ぬ訳にはいかない。光牙こそ死ぬな」


 互いに死ぬなと声を掛け合い、その場から離れ、ディーンと雛がいる場所へ向かう。


──────────────────────


 「お、戻ってきたか。どうだったよ、味方の士気は?」


 「それなりに良かったと思うよ。ミストの緊張も解れたみたいだしさ」


 「そいつは良かった。しかし、俺達3人に人をつけるって言ってたが……まだかねえ?」


 ……初耳なんだが。こんなことにサプライズの精神は必要ないだろう。しかし、もう一人ついてくるというのは非常に気になる。


 「顔見知り……ってことはないと思うけどなぁ……」


 「その通り、顔見知りだよ。後からミスト様も来る」


 突然雛の物でも、ディーンのものでもない声がした。背後に気配がすることから、後ろにいることは分かった。しかし誰だろう、最近話したような感覚だ。


 敵ならすぐに斬れるように、紅蓮に手をかけながら口を開く。


 「えーっと……ルーナ、でいいんだよな?」


 「おっ、あったりー」


 返事が返るが、ちらりと横目で背後を確認する。確かにその姿は先程少し話していた吸血鬼、ルーナだった。


 味方だと確認できたので、紅蓮から手を離しながら息を吐く。ふと二人の方を見ると、同じように短剣や薙刀をしまうところだった。


 「でも警戒しすぎじゃない? 光牙だけじゃなくて、そっちの二人も」


 「俺達、旅してると敵ばっかだからさ。どれだけ警戒しても損はないよ」


 そう言いながら、ルーナの方に向き直る。それなりに上等な装備を付け、帯刀しているルーナはアシャを連れており、同様に装備をつけている。


 「……アシャも、連れて行くのか?」


 「そりゃね、呪いが解けたかどうか、すぐ確認したいんだって」


 「解呪の方法は殺すしかないんだっけ、物騒だなぁ本当……」


 「いや、他にもあるんだけどねー……どうしても、お金がかかるんだよねぇ……希少性の高い道具が必要なんだよ。滅多にお目にかかれない代物のお宝だから、現実的じゃない。それを売れば一生遊んで暮らせるよ」


 どうやら、今の所取れる手段でこの世界の呪いを解くにはかけた人物を殺すといった方法しかないらしい。


 実際解呪の方法は他にもあるようだが、中々手に入らない代物のようだ。


 「へー……まぁそれはどうでもいいさ。倒すしかないんでしょ?」


 「……生き残るにはね」


 「なら話は速いじゃん。やるしかないよ、どれだけ世界が糞みたいでも」


 そう言いながら、紅蓮を引き抜き、いつでも戦闘が行えるように備える。それと同時に、目の前の空間が裂ける。その裂け目から、目的地である吸血鬼の街が見えた。


 「……ここに突っ込めばいいんだっけ。まぁいいや、行くぞ」


 一度深呼吸をしてから、その裂け目に向かい一歩踏み出す。


 これが吸血鬼同士の紛争を、終わらせる戦いの始まりとなった。

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