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焔。

 「今、処刑と言ったなあ奴ら。しかも秘密裏に葬ると」

  

 「とっても、クソ野郎共です。レジスタンスに対する処罰だとしても、裁判吹っ飛ばしてやるとなるとそれはただの殺戮だろうが!」


 仲間が処刑されると聞いてじっとしていられず、飛び出そうとしたが、ヴェクサシオンに腕を掴まれ止められる。


 「っ、離せよ! 助けねぇと……」


 「落ち着け、敵の数が分からんのだぞ! それでも突っ込む気か!」


 「生き残ったであろうあんたの部下も死ぬんだぞ、ヴェクサシオン……!! それに、仲間が死ぬとこなんて二度と見たくねぇんだよ俺は!!」


 掴まれた腕を振り払い、歯を食いしばって紅蓮を引き抜きながら突貫する。叫び声を上げることは踏みとどまったが、歯を食いしばってなければ確実に叫びながら突撃していた。


 「っ、隊長殿……!」


 「報告にあった龍人の片割れか……殺るぞ、鱗や角は高く売れる」


 騎士共が気付き剣を抜こうとしているが、今更遅い。こちらの攻撃圏内に既に入り込んでいる。腕に魔力を流し、筋力を増強して、確実に殺すつもりで臨むことにした。


 剣を半ばまで抜いた敵の懐に飛び込むと、勢いのまま隊長と呼ばれた方の騎士の鎧ごと叩き斬る。しかし鎧とは案外脆いなと、何処か他人事ののうに考えていた。


 鮮血が舞い、血を諸に被ったが気にもならなかった。処刑なんて言いながら、奴等は愉しんでるように見えた。ただ金の為に殺したいだけなら魔物でも狩っていればいい。


 なのに、同族を殺すことを選んだ馬鹿共……そんなものの血、被った所で!


 「あっ……がぁぁ……」


 「隊長!? 貴様ァ……! あの時から気に入らなかったんだ……!」


 「……御託はいい、来いよ」


 ベルゲお付きの騎士も、華美な装飾が施された剣を焦りながらも引き抜き、その刃を振り下ろしてきた。それを避け、少し観察を始める。


 「どうしたぁ!! 避けるだけか蜥蜴風情が!」


 上下左右から何度も振るわれる刃を避け、時折受けながら観察を続ける。流石に騎士というだけあって、剣術も優れており、強さもそれなりにあるだろう。


 実際何度か弾き損ねては体勢を崩し、その度に刃を掠めている。しかし……


 「くたばれェェェ!!」


 「お前が、なぁ……!!」


 苛つきから大雑把に振るわれる刃が現れ始め、その隙を突いて顔面に拳を叩き込む。ヘルムが凹み、勢いよく吹き飛ぶ。


 お付きの騎士は数歩後退り、地面に倒れ込む。凹んだヘルムが落ち、地面に落下して音を立てる。


 顕になった顔には見覚えはなかったが、ある種族の特徴があった。


 「……鱗が顔に残っている……龍人か。ロアの野郎……」


 どうやら、ロアは思った以上に侵食してきているらしい。龍人は角や鱗、尻尾を見せなければ基本気付かれないから、こうして鎧でもつけられれば分からないのだろう。


 でもまぁ……


 「おい、潰れてんじゃねぇぞ起きろ。どうせ潰れるんなら全部情報吐き出せ」


 「ギッ……!? ガァァァァッ!? 貴様ァァ……!」


 情報を吐いてもらわないと困るので、ちょっと強めに顔を蹴り飛ばす。


 鼻の骨が折れたのか、血がダラダラと流れていく。


 「あのさ、こっちだってこんな拷問紛いなことしたくないの。情報渡してくれればやめるっての。だから、どこに集めたのか……教えて?」


 「誰が話すか、敵なんぞに……」


 うーん、これは強情なやつの気配。手間がかかりそうだ。


 なんてことを考えながら、間髪入れずに義手の手の甲で殴りつける。歯が何本か宙を舞ったが……まぁ、気にせずともいいだろう。まだいくらか残ってるし。


 「ぶうっ……!? おまっ……! 待て、いくら何でも……」


 「情報を吐く気にならなきゃ、ずっと殴るよ。痛みで吐く気にならなきゃ、まぁ……うん、その気になるまで殴るだけだよね。それが絶対楽だ」

 

 そう言いながら、また拳を叩き込む。一発では鎧が拉げる程度だった為にもう一度叩き込むと、内臓がイカれたのか盛大に血を吐かれた。


 「うっわ、もうやめといた方がいいんじゃないの……? やる側が申し訳無いよ、正直……」


 「ごふっ……やめてぐれ……! はな、話すから……! もう、なぐらないで……」


 もう一度振りかぶった所で、やめてくれと懇願された。ゆっくり拳を下ろすと、恐怖に染まった表情で話を始めた。


 「ぜぇ……ぜぇ……捕まえた奴は、向ごうの広場にい゛る……そこで、全員殺すって……」


 「ん、ありがとねー。じゃあおやすみ」


 必要な情報を話してくれたので、紅蓮を引き抜き首を落とす。すぐに、楽にしてやろうと思った……が、あれだけ殴っておいて楽にしてやろうは無理があるか。


 ヴェクサシオンに騎士が持っていた剣を投げ渡し、紅蓮をしまうと声をあげる。


 「よし、ヴェクサシオン。敵陣真っ只中に向かうぞ。なぁに、二人だけだけども死なないだろうさ。奇襲作戦行くぞー」


 「……お主は時折容赦が無くなるようだ」


 そう言いながら、情報にある広場の方向に走り出した。


─────────────────────


 広場に付くと、多数の鎧騎士がいた。どいつもこいつも、綺羅びやかな装飾が施されている。少し血が着いていることや、首のない死体が転がっていることから、間に合わなかった者もいると分かってしまった。


 「もっと、速く情報を吐かせておけば……間に合ったのかもなぁ……」


 「言っても仕方ないだろう。後は全て助けるしかあるまい……行くぞ」


 そう言ってから、ヴェクサシオンは遠吠えをすると、正面から突っ込んで行き、すぐに剣戟の音が響き出す……


 ……え゛待って!? 正面から行ったかアイツ!?


 「アイツもアイツで正気じゃないでしょ……!?」


 しかし、これは好機だ。ヴェクサシオンを囮に、皆を救い出せる。しかし……その場合は決して軽くはない怪我を負ったヴェクサシオンは、間違いなく死ぬ。


 加勢した場合、全滅させれば問題ないが……下手をすれば助けられず、おまけにどちらも死ぬという全滅が待っている。どちらを選べばいいのかなんて、わかりきったことだった。しかし……

 

 「……えぇい、俺も正気じゃないなもう!」


 ヴェクサシオンの背後から襲いかかろうとしていた鎧騎士を鎧の合間から突き刺し、一撃で絶命させる。


 不死性があると面倒だった為、一応紅蓮の刀身から炎を発し、中身を焼いてから引き抜くと、ヴェクサシオンと背中合わせの状態になる。


 「おや、少し遅かったんじゃないか?」


 「囮にしてやろうかと考えていたんだよ……バカ正直に突っ込むとは思わなかった」


 「これしか知らんのだ、許せ」


 「頭の中筋肉の猪突猛進な猪野郎め、脳味噌の代わりに木くずでも詰まってるだろ」


 そんな軽口を叩いていると、残っていた鎧騎士が叫び声を上げて突貫してきた。一部は鎧をきていないが、その分翼を使って空を飛べる。それは面倒だ。


 「さて……暴れるとしようかな……!」


 「あぁ、殺し合いだ……」


 打ち合わせもなく、ヴェクサシオンと同時に地面を蹴り駆け出す。まずは空飛ぶ弓兵を狩る。


 「撃て、敵はたったの二人だ! 矢達磨にしてしまえ!」


 その指令の後、矢が飛来するが斬りかかってきた近場の鎧騎士を掴み、盾代わりにして防ぐ。


 「っ、我が同胞を盾に……!」


 「少しばかり不格好な傘だったなぁ!!」


 そう言ってから魔導銃を指輪から取り出し、引き金を何度も引いて弓兵を撃ち抜く。焼ける肉の匂いと、苦しむ騎士の声が耳障りで仕方なかった。


 ある程度遠距離の数が減ったところで、レーザーを放ち、遠距離攻撃の兵を焼き尽くすと、魔導銃の方にも限界が来た。暫くは使えないだろう。


 「貴様ァァ!! 同胞をよくもぉ! 私自ら殺してくれるわ!」


 叫び声と共に、炎の中から剣を抜いて走ってくる騎士が一人。どうやら同胞を殺されたことが、ひどくご立腹なようだ。剣が勢いよく振り降ろされ、龍化した腕で受け止める。


 剣を受け止めながらじっくり装備を見てみると、装備のグレードというべき物が他と比べて高いことに気がついた。恐らくこいつは隊長格、ということだろう。


 隊長格ということは、力量も凄まじい。そのため、冷静な判断をできなくしてやることが大事だと考え、煽るような言葉を選んだ。


 「戦いで死ぬことを想定してないの? よっぽど無能な長なんだろうな、兵が死なないと思ってるなんて。いつだって最悪の場合を考えなよ」


 煽るような言葉というより、直球で馬鹿にするような言葉になってしまったが、まぁそれは良しとしよう。


 どうやら煽れたようではあるし、手に力を込めるのが面白いように見て取れた。その瞬間、剣が引っ込められ、上から刃が振り降ろされる。


 刃に合わせて拳を叩き込み、衝撃で距離を取ると、すかさず紅蓮を引き抜き斬りかかるが、すんでの所で避けられてしまい、攻撃が当たることはなかった。


 「勝てると思うな、蜥蜴めが!」


 「はっ……そっくりそのまま返してやるよ、蝙蝠もどき……!!」


 口を動かしながら、何の脈絡もなく炎を飛ばす。隙をついたわけでは無い為、簡単に避けられるが、避けた方向に回り込んで炎を纏わせた脚での回し蹴りを放つ。


 蹴りを受けた騎士の体は、大きく後退したがダメージはそこまで入ったように感じなかった。


 「ぐうっっ……! 貴様っ……!!」


 「まともに決められなかっただけいいじゃないか、防いでるんだろ?」


 実際、蹴った方の脚が痺れている。硬いもののを蹴ってしまった場合の痺れだ。小手が少しばかり焦げて黒くなっている。大方、小手で防がれたのだろう。


 まぁ、でも……


 「人様の大切なものに手を出そうとしたんだ、こんなもんで……手首焼けた程度で済むわけないだろ?」


 こちらも腸が煮えくり返っているんだから、そんなもので済ませる訳がない。刃のように研ぎ澄まされた殺意が、やってしまえと後押しをしている。


 自分の意思が、漆黒に染まっていく。見えているのは、敵である騎士。


 そして……その命の灯火を吹き消す自分。殺意の塊だ。


 「……殺す」


 「やってみろ、できるものならなぁ!」

 

 騎士が剣を引き抜き、何度も刃を振るう。上下左右から襲い来る。まともに当たれば、腕が撥ねられ、痛みに呻きながら首を斬られてしまうだろう。


 だから弾くか避けねばならない。当たれば即敗北なんてクソゲー、やってられるか。


 「ちいっ!! おのれちょこまかと!」


 そう言いながら騎士が距離を取ると、翼を広げて空に飛び上がる。


 そのまま剣を大きく振り上げ、魔力の収束を開始した。膨大な魔力がどんどん刃に収束していくのが、一目で分かった。


 あれを撃たれてしまえば、それで終わりだろう。しかし、溜めには時間がかかる。それが弱点だ。


 「……隙も作らずに大技か、そんなの的にされるだけだろうが。《飛焔・連刃》」


 魔力を溜め始め、動きを止めた所に炎の斬撃を飛ばし、何度か避けられるが、一撃当たってしまえばこっちのものだ。そのまま2発、3発と被弾の数を増やしていく。


 炎の斬撃が、当たった箇所から鎧ごと焼いていく。炎はだんだん勢いを増していき、全身を包み込んだ。


 炎に包まれた吸血鬼は、地面に落ちて藻掻き苦しんでいたものの、次第に火が消えていくと、ヨロヨロしながら立ち上がる。火傷の傷も再生している所を見ると、焔は効果的ではなさそうだ。


 「まぁ……どれだけ焼こうが同じか。最後には殺すことに変わりないし」


 「お前……! 命を一体何だと……!!」


 「……? 別にどうにも思わないけど、敵の命なんてさ」


 紅蓮を構えたまま、敵の問に答える。


 確かに、命は尊いものだと、そういう考え方はまだできる。しかし、尊いものだというのなら、何故殺し合って……下手すれば同族同士で無為に命を落とすのか。 


 それは、実際のところ敵の命はそこらに転がる石よりも劣る価値しか感じられていないからだ。

 

 「大体命が尊いなら尊い犠牲なんて強いない方がいいだろうに、全く……」


 「ではお前は敵なら殺すと!? 何も感じずにか! それではお前は獣……ぐうっ!!」


 「……もういいよ、口閉じてろ」


 一瞬で懐にまで飛び込むと、鎧ごと中身の吸血鬼を斬った。だが、すぐに再生を始めてしまい、意味がまるでない。


 「っ、死ねっ……化け物ォォ!!」


 勢いよく剣が振り下ろされるが、その剣ごと紅蓮を振るい断ち切る。大きく体制を崩したところに突撃し首に紅蓮を突き刺す。


 「がっ……! この程度で……」


 「終わらせるわけ無いだろ、焼け落ちろ」


 魔力を流し、突き刺したまま刀身から炎を放つ。次第に勢いが増していき、顔も鎧も炎に包まれた。


 炎の中からボトリと黒焦げになった腕が落ち、その場で灰に変わる。


 炎が消えた頃には、吸血鬼の騎士の姿はどこにもなく、焦げた地面の上にある灰が風に攫われていった。


 「……やり過ぎたなこれ。さて……他にもいたよな」


 紅蓮を何度か振るい、鞘に戻す。数は少ないが未だに残党が残っている。逃がす……という手はないだろう。まず逃した所で、余計に数を増やしてくるだけだ。


 「お仕事延長っと……」


 そう言いながら近場に見えた残党兵に向かい、腕に炎を纏わせ走り出した。

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