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裏切り者は?

 「とは言ったものの……!」


 「どこから来るかわかんねぇのがきついな……」


 ディーンと背中合わせになり、敵の襲撃に備える。何かが動き回っていることは分かるのだが、それだけだ。


 「っ、来た……!」


 右側から足音がする。靴の音ではない、獣の足音だった。咄嗟に紅蓮を振るうが、手ごたえがなかった。空振ったということだろう。


 「くっそ、こんな暗闇じゃ見えねぇぞ……」


 元からかなり暗かったが、僅かな明かりも消えてしまったことでとても視界が悪い。こうも暗いと、火をつけて燃やした方が早いだろう。だが、味方もどこにいるか分からない。


 そんな状況で使える手ではない。使えたとしても、罪悪感が残るだけだ。


 「となると……見つけたやつからやるしか……?」


 「待て待て、こんな時に便利なもんがあるんだよ」


 少しの傷は覚悟の上で突っ込もうとしていると、ディーンに襟首を掴まれる。何をしようとしているのは分からないが、何かを取り出そうとしているようだ。


 「あったあった、これ使えるぞ」


 「お、どんなも……何、これ……? てか今どっから出したよお前」


 手渡されたのは、何かよく丸い物だった。丸くて投げやすい物ではあるが、これが何になると言うのか。


 「まぁいいから投げてみろよ、出来れば遠くにな」


 「大丈夫かこれ……?」


 適当に遠くに投げると、その地点から破裂音と共に、光の玉が天井近くまで浮かんだ。ウェアウルフの群れがどこにいるかも筒抜けになると同時に、不意を突かれた吸血鬼達の亡骸も目に飛び込んでくる。


 吸血鬼といえど、常に夜目が効くわけではないらしい。


 「グウッ……目が……!! がっ……」


 「視界があれば、こうなるよなそりゃ……」


 突然の光に目を眩ませたウェアウルフの一匹に組付き、首に短刀・火花を深く突き刺し、勢いよく引き抜いてから、他のウェアウルフに向かって走り出す。


 ディーンの方を見ると、金属の棒を奪って口に無理矢理捩じ込んでその先を蹴り上げるという方法で一匹倒している。動かなくなったことを確認すると、直様駆け出してきた。


 「ディーン、便利だけど何これ」


 「虚仮威し閃光弾。俺の自信作だ。最も、そんな量産できる程俺は魔力がないから一発限りだけどな」


 「……照らす時間は?」


 「精々2分、ってとこだな。充分かは分からないけど、やるしかねえだろ」


 吸血鬼側も被害を出しながら、ウェアウルフを倒している。しかし……数が多い上、金属製の武器によるダメージが大きいのか、一度受けたら崩れ落ちる者が多い。基本的に刺されたら即死している……?


 また金属製のものが当たった箇所を見ると、一部が焼け焦げているようにも見える。


 「……あれ銀か! ウェアウルフも銀だめじゃなかったっけ……!? それとも弾丸だけアウト!?」


 「今気にしても始まらないだろ!」


 ウェアウルフ達もこちらをターゲットと定めたのか、こちらに数体向かってくる。


 粗末な腰布だけの個体は銀の棒だが、少し地位が上の個体は鎧をつけている上、武装も剣となっており、他より手強そうだ。


 まっすぐに向かってきた上位個体が振り下ろした刃を、腕を龍化させて防ぐ。


 「ほう……貴様か、奴の言っていた龍人とやらは。それなりに場数を踏んでいるようだな」


 「やっぱ手引きがあったか……なぁ、お前ら一体何がしたいんだ? 何故ここの吸血鬼を襲う?」


 「……明かせぬ。我々にも、事情があるのだ!」


 眼の前の敵が、苦々しい表情をしながらもう片方の拳を握り込むのを見て、咄嗟に腹部に蹴りを叩き込み、距離を取る。


 「うっ……判断が早いな……」


 「そういうあんたも全然堪えてないね、腹蹴ったのに」


 紅蓮を強く握り、相手の動きを見ていると、背後から叫び声を上げてウェアウルフが飛びかかってくる。


 武器をどこかに投げ捨てていることから、4本の足を使い、まさに獣として距離を詰めてきたのだろう。


 ここまで接近されては紅蓮での防御は間に合わないと判断し、義手で牙を防ぐ。何度も噛みつかれるが、義手は軋みすらしない。


 「防いだか……だがその状態では満足に動けまい!」


 先程距離を取った上位個体が、先程と同じように距離を詰めてくる。しかし、速度は先程の比ではなく、下手をすれば、4つの脚を使った個体より速かった。


 「っ、速い……! でも……」


 距離を完全に詰められる前に、向かってくる個体に向き直る。噛み付かれた義手を前に突き出し、ウェアウルフの攻撃を防ぐ。


 「ギャアァァ!!」


 「貴様、同胞を盾に……ぐうっ……!!」


 「使えるものは使わないと駄目でしょ?」


 体勢を整えられる前に、斬られたウェアウルフを投げつけ、体勢を崩させる。しかし、すぐに体勢を整え、斬られたウェアウルフを横にさせるとこちらに向き直った。


 「貴様、正々堂々とやる気はないのか!」


 「えー……殺し合いに正々堂々なんて求めるのがバカらしいでしょ?」


 「……ならば、容赦はせんぞ。このヴェクサシオンが、貴様を狩ろう」


 「何が容赦しないだ、元からだろ?」


上位個体……ヴェクサシオンは、武器を持ったまま距離を詰めてくる。目がギラつかせて、確実に殺そうという意志を感じさせている。


 こちらもそれに合わせて紅蓮を構え、同じように前進し、互いの手が届く程の距離になる。


 「……行くぞ!」


 声と共に忽然とヴェクサシオンの姿が消える。捉えきれない程のスピードの相手は何度かしたことがあるが、未だにまともな戦闘となると難しい。現に今も見失っている。


 「貴様の後ろだ!」


 「自分で言って、良かったのかよ!!」


 そう言いながら尻尾で薙ぎ払う。しかし、当たった感触がなかった。外したのかと考えていると、尻尾を蹴られるのを感じた。


 周囲を探すが、まるで気配を感じられない。考えてみるも、検討がまるでつかない。結論を出すには、情報が少な過ぎる。


 「戦場で止まっていていいのか?」


 「っ、やべっ考えすぎてた!」


 突然ヴェクサシオンの姿が空中に現れ、刃が振り下ろされる。押されながらも紅蓮で防ぎ、金属音が響く。


 「……幻惑か何かか……? にしても微妙なとこだが……」


 「さてな? 考えてみるといい。じっくりとな……最も、それを許すかどうかは別だがな!」


 何度も振るわれる刃を、反対方向から紅蓮を振るうことで相殺し続ける。正直きりがない。相手がバテるのも狙えるが……体力では恐らく、ヴェクサシオンの方が上だろう。


 「こうなりゃ、一か八か……っ!」


 紅蓮で防ぐのを止め、刃の前に身を躍り出すと、義手の前腕部分でその刃を受け止める。硬度では義手の方が上のようで、当たった途端に砕け散った。


 「なっ、しまっ……!」


 「動きが悪くなったなぁ……!! 喰らえっ!」


 刃を折られ、狼狽していたヴェクサシオン。その隙を逃すかと、強く拳を握り込むとその拳を顔面に叩き込んだ。  


 ヴェクサシオンの体が容易く吹き飛び、壁に衝突する。衝突した壁は罅が走っており、かなりの勢いで吹き飛ばしたことが見てとれた。

 

 床に落ちてもその場で藻掻いてはいるが、暫くは動けないだろう。


 体勢を整えられる前に距離を詰め、万が一逃げられた時を想定して脚に魔力を流して紅蓮を振り上げた、その時だった。


 突然轟音が響き、勢い良く吹き飛ばされる。頭を打ったのか視界が明滅している中、辺りを見渡しながら、状況の確認をするが……上手く状況が掴めない。爆弾か何かを使ったようだが、てんで検討がつかない。あまりに突然のこと過ぎた


 「っ、何なんだよ今度は……!!」


 「見つけたぞ……」


 突然声をかけられ、驚きと共に戦いの途中、何度か聞いた声の方に咄嗟に紅蓮を突き付ける。ヴェクサシオンだ。


 見たところ、与えた傷以外にも少しばかりの軽傷を負っている。やけに右腕を庇っていることから、最も酷い傷は右腕なのだろう。


 「待て、休戦を申し込みたい」


 「……襲ってきたのはそっちだろ」


 「我らもやらねば滅ぼされてしまうのだ、吸血鬼にとっては我らが鬱陶しいようでな……従わねば滅ぼす、と言われたのだ……貴様は許せないが、この状況ではな……」

 

 紅蓮を一度下ろし、考える。どうするのが信用だろうか。先程まで戦闘していた相手だ。信用すべきではないとは、分かっている。しかし……


 誰も信用出来ずに生きていくなどできないだろう。


 「……分かった、ミストに聞いたことを全て言え。そうすれば信じてやる」


 「有り難い……正直信じて貰えるとは思わなかったぞ」


 「別に、信じたわけじゃない……」


 そうだ、心の底から信用しているわけじゃない。もうこれ以上犠牲を見たくないだけだ……そう考えながら、紅蓮を納刀する。


 「しかし……一体何が起きた?」


 「恐らく砲撃だな、城が半壊した為にやめたのだろうが……着いてきた我が同胞も、殆ど死んでいる……」


 「雛、ディーン……無事だろうか」


 そう話していると、足音と共に鎧を着けた騎士がこちらに歩いてくる。


 咄嗟にヴェクサシオンと瓦礫の影に隠れ、見ていると、ベルゲと呼ばれていた吸血鬼の警護をしていた騎士だと気付いた。


 「あいつ、やっぱり裏切ってたのか……獣の匂いはウェアウルフと会っていたから……ベルゲが黒幕か?」


 「ベルゲ……あぁ、そんな名前だったような気がするぞ、我らを脅した奴も」


 確定じゃないか。隠れてやり過ごそうとしていると、更に豪華な装飾を施された鎧の騎士がやってきた。


 「もう生き残りはいないだろう、死体ばかりだ」


 「はい、生き残りは何処へ連行するので?」


 「全て処刑するからな……今回は獣だけでなく、龍人や人間もいる。バレないようにここでやるだろう」


 ……嘘だろ。処刑すんの? バレないようにって、独断で? 最悪過ぎる。

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