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闇の街。

 音がする。馬車の車輪の音と、馬の蹄の音が。


 どうやらもう動き出しているようだ。目を開くと、今度は雛の顔が目に入る。疲れているのだろうか、小さく寝息を立てている。


 「……ぇ、えっと……? どういう状況ですかこれ」


 「お、起きたか? 状況はなぁ、霧でなんにも見えねぇから何も言えねぇ。後寝てるのは雛と光牙だけだぞ? アシャが元気で元気で……相手してたら雛が疲れちまってな……」


 「……だからって真横で寝かすなよ、びっくりしただろ……顔が近くて」


 そう言い、欠伸を噛み殺しながら上体を起こす。ミストは銃の手入れをしており、その場から動きそうにないが、アシャは馬車の中から外をずっと眺めている。


 「で、何がどうなってるんだ? 霧で全く見えないけど」


 「どうやら仲間がやってくれているようだ。敵にバレないよう、俺たちを隠している」


 どうやら、この霧はミストの仲間がやっているらしい。よく見れば蝙蝠が霧に紛れて飛んでいるのを見つけた。


 そのまま霧に紛れて進んでいくと、突然目の前の霧が晴れた。敵襲かと考え、咄嗟に魔導銃を引き抜いたが、ミストに止められた。


 「目的池に着いただけだ。しかし……かなり数が減ってしまったな……」


 ミストが馬車から顔を出し、辺りを確認する。安全を確認できたのか、こちらに手で合図する。


 顔を出して外を見る。闇夜をただ月明かりが照らしているが、それだけでは夜道を歩くのは心許ない。


 じっと目を凝らして見てみると、ボロボロになった砦が薄っすらと見える。そこでミストが10人程度の前に立ち、状況を聞いているようだった。彼らの裏には、質素な作りの墓が見えた。


 「ミスト、ここが……逆襲のための基地か?」


 「基地と言うほど、規模は大きくないがな。拠点がいいとこだ。しかも、陥落寸前のな」


 言われてみれば確かに、砦の至る所に損傷が見受けられる。酷い所は吹き飛んでいるようにも見える。


 「よく諦めなかったな……」


 「客人よ、吸血鬼の一族は誇り高い。俺達は、尖兵として利用されるのが我慢ならなかっただけだ。最も、勝てないと思い知らされたのか上の奴らはすぐに抵抗をやめたがな」


 吸血鬼の一人がそう言う。つまり、ここにいるのは誇りを捨てなかった者たちのみ。最後の瞬間まで、誇りの為に戦う反抗軍。それが彼らだ。


 「……なるほど、で、ミスト。俺達は何をすればいい?」


 「旅人を装って侵入してくれ。それで情報集めをしてほしいんだ。人間は気に入らないから見つけ次第殺せなんて野蛮なことはしていないだろうからな」


 「りょーかい。で、ディーンはどうする?」


 「馬車の見張りは必要だろ? 悪いけど、出会ってすぐじゃ流石に信用しきれねぇよ」


 そう言って、ディーンは馬車に戻っていった。


 「……だそうだが、光牙は?」


 「流石にまだ、ミストとアシャ以外は信用できないかな……どんな魂胆があるかなんて、わかったもんじゃないし」


 とは言ったものの、皆そんな野心はありそうには……待て、何だアイツ!? すごく睨んでますやん。


 「……そうか……それなら仕方ないな」


 「悪いね。散歩ついでに街を見に行くから、説明頼んだ」


 敵の街に自分から入ることになるが、何が起きてもおかしくない。偵察のためにも、吸血鬼の一団から一度離れることにした。


 あそこにいたら、襲われても炎で巻き込むのがオチだ。


 それに……寝首をかかれても困る。あれだけ睨まれるということは……敵意が欠片でもあるということだから。


──────────────────────────


 「……やっぱり、霧がすげぇな……街の中でもこれかよ。それに何で夜なのにこんな明るいんだか」


 吸血鬼の街に入ると、何故か暗さに悩まされることもなく歩けた。辺りを見回すと、所々に電灯らしきものが見られる。


 魔力が溜まると光る鉱石を使っている、若しくは魔力自体が流れている等、色々な予想は出来るが、何を言っても予想の範疇でしかない。今度見ることがあれば、調べてみたいものだ。


 「あら貴方、観光かしら? 珍しいわね、人間一人なんて」


 「あっはは……旅してたら迷い込んでて……」


 「そうだったの……気をつけてね、人間の血は吸血鬼にとってはご馳走だから。たまらず襲いかかることもあるの。だから、警戒していて損はないわ」


 「肝に、命じておきます……ありがとうございました」


 人間の旅人が来るのはやはり珍しいのか、相当な数の視線を感じる。時折今のように話しかけられることも少なくない。


 「にしても……やっぱ吸血鬼の街だから、夜の方が活気があんのかな? 普通に人間の国の昼間並みに人がいるし」


 先程から、ずっと吸血鬼とすれ違い続けている。談笑しながら歩いている人を見ていて気付いたのだが、犬歯が非常に鋭い。その特徴だけで見ると、ここにいる殆どが吸血鬼になる。


 また、昼間のような活気がある。夜でもこの具合ならば、


 「……全員が敵ってことはないだろうけど、なぁ……流石にそう考えると辛いぞ……勝率なんてないようなもんだ……」


 考え事をしながら路地裏に入り、翼を広げて飛び上がる。空から見てみると、一つだけ豪邸と言える建物を見つけた。あそこに魔力が集められているのを感じ取ると、ゆっくりと元いた場所に降りる。


 「あそこの情報が、必要だよな。正面から攻めるなんて真似、できるわけ無いし」


 正面はがら空きに見えたが、あそこには恐らく貴族のような、地位の高い一族が住んでいる。そこをあんながら空きにしておくだろうか? 


 あり得ない。余程の馬鹿じゃなければ、それ相応の罠がある筈だ。


 屋敷の情報を知ろうと隠蔽の度合いを上げ、上から近付いていく。


 隣の建物まで辿り着いたが、不思議なことに窓から何も見えない。普通何が置かれているか等はわかる筈なのだが……


 「もう少し近付く必要があるか……ってぇ!?」


 ある程度近付くと、突然何かにぶつかったかのように弾き飛ばされた。空中で体勢を整え、地面に叩きつけられないようにしたが、疑問ばかり浮かんで来る。


 「一体何が起きたんだ……? 何で弾かれたんだ……? どの辺りだったか……この辺りか」


 周辺を見てみるも、不思議な物は何一つ見当たらない。もう一度、ゆっくりと近付き手を伸ばすと、壁のような物に手が触れる。


 魔力を感じるため、魔力を使った障壁だと言うことは分かる。


 「……通りで、見張りがいらない訳だ。こんなのあれば、侵入者なんてほぼ防げる」


 現状では手が出せないことを確認すると、誰もいないであろう路地裏を探して飛び立つ。


 「いやぁ、難しいなぁ……あの建物について調べねぇと……え?」

 

 飛ぶのをやめ、降り立った所では何故か吸血鬼二人と人間の男が殺し合いを始めていた。


 人間の男は人とは思えない身体能力を持っており、一人を刺し殺すとすぐさまもう一人に飛びかかり、防御した上から蹴りを頭に叩き込む。

 

 「何だ……アイツ……!?」


 どうやら脳が揺らされたのか、吸血鬼が上手く立てないでいるところをナイフで斬りつけた。そのまま斬られた首を押さえ、ふらつきながら脱力し、痙攣しながらその場に倒れた。


 吸血鬼といえばかなりの不死性があると思っていたが、そうでもないようだ。現に、唯一見える傷が首にある切り傷だけだが、目から光が消えている。


 「……やべぇなアイツ。逃げよ……」


 「ん? ……あーあ、見られちゃった。運がないねアンタ。見たとこ……観光客か。こんなとこに観光なんて、何もないぜ?」


 突然男に声がかけられ、人として見られていることから一応隠蔽は機能していることが分かる。しかし、その男からは何も感じられなかった。


 しかし、目が獲物を見定める物だということは、嫌でも理解できた。


 「そ、そのようだね……こっちには何もなさそうだから、向こうへ行ってみるよ」


 「そうも行かないだろう。大体、狩人さんの狩場を見たのにそのままさよなら、なんて流石に虫が良すぎるだろ?」


 手に持つナイフを弄びながら、ゆっくりと近付いてくる。ジワジワと詰まる距離に応じて、殺意がゆっくりと近付いてくる。


 後退りながら、魔法を使おうとした瞬間だった。眼の前の銀髪の男は、後ろにちらりと見てからナイフをしまうと、残念そうな目を向けて話し始めた。


 「何だ、本当に観光客か。流石に人間を殺すのは偲びない。アンタ、ここで見たことは忘れた方がいい。夢でも見たんだと思って、とっとと帰りな」


 「え……は、はぁ……」


 そう言い、横を通り過ぎようとした時、耳元で囁かれた。


 「また会おうぜ、龍人」


 「っ、お前……!?」


 背筋がゾクリとし、男の方を振り向くと既に姿はなかった。あの一瞬で何処に消えたのか、全く分からなかったが、兎に角今はこの場を離れることしか考えられなかった。

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