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守るべきもの。

 構えた途端、顔めがけて寸分違わずに飛んできた弾丸をギリギリで紅蓮を使って弾く。


 「なっ……弾いただと!?」


 「っ、こんなの心臓いくつあっても足りねぇ……弾くのは心臓に悪いわ!」


 生憎、スリルを求める質じゃないし。弾ければ楽だろうと思ったが……毎回やる気にはなれない。


 距離を詰め、何度か紅蓮を振るったが、その全てが当たらず、同じタイミングで回し蹴りを繰り出す。


 力ではこちらが上な為、足を振り抜き後退らせると、距離を再度詰めようとした途端に銃弾が飛来。地面を転がり避ければ、そこは相手の距離。こちらの攻撃は届かないため、避けるしかない。

 

 そのまま、何度も放たれる弾丸を時折走り、時折転がって避け続けた。大きめの荷物の山に隠れ、準備を始める。


 「ちょこまかと……!」


 「痛いのは嫌だからさ! あんたも嫌だろ?」


 そう軽口を叩きながら、脚に魔力を流し込む。十分に魔力を流せたと感じた瞬間、荷物の影から飛び出し、放たれる弾丸を避けていく。


 「っ、先程よりも速い……! 魔法か!」


 「当たりだよ、その通り!」


 円形の部屋でスピードはそのままに、壁に向かって突っ込んでいく。止まる瞬間を狙ったのか、そこに銃口を向けている。


 「《スターダスト》」


 詠唱なしの魔法。久々に使ったものの、一部を突出して強化する魔力による強化と、体全体を満遍なく強化する方法をかけ合わせる。


 その結果、壁を蹴って飛び出すだけで異様な速度で飛び出した。正しく人間砲弾だ。銃弾が壁に当たる頃には、吸血鬼の目の前に飛び出していた。


 「っ、速っ……があぁっ!!」


 しかし、目と体が慣れていない為、この状態でできるのが今の所全力タックルしかないという部分が難点だ。


 タックルを受けた吸血鬼の男は、勢いよく吹き飛び、背中を強く打ち付けて地面に叩きつけられた。一応ダメージにはなるのだが……


 「いってて……加速はいいけど、速すぎたな……」


 こちらにも相当のダメージが入る。自分と同じ、下手すれば自分より硬いものに突っ込むのだ、相当なダメージになるだろう。


 「魔法が解けて……魔力は回し続けろ……それなら痛みはマシになる……」


 怪我をマシにするため、魔力を全身に回し続ける。痛みに耐えながら、吹き飛んだ吸血鬼の方に目を向ける。


 気を失っているのか、ピクリとも動かない。ホッと息をつき、紅蓮をしまってから起こそうと近づく。


 「……不用心だったな、次は気を付ける事だ」


 「っ、しまっ……!!」


 突然、吸血鬼が上体を起こし、片手で撃てるタイプの銃ではなく、両手で撃つタイプの銃。所謂、スナイパーライフルに似た魔導銃を向け、その弾丸が腹部に直撃する。


 腹部を押さえて後退った所に、また2発の銃弾が飛んでくる。右胸と、左肩を正確に捉えた弾丸による多大なダメージに、堪えきれずに膝をその場に着いた。


 「ぁ……が……あ゛ぁっ……!」


 「……新作だが、これはいいな。《ポケット・イン、アウト》」


 呪文を唱えると、吸血鬼の手から光となって銃が消え、別の銃が手の中にあった。先程まで使っていた銃だ。それを手に、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


 「っ、《シュート》!」


 「なんだとっ!? 同じタイプの魔法か、マジックアイテムか……」


 咄嗟に指輪の力を使い、収納したままの刃を飛ばす。吸血鬼は突然現れた刃にぎょっとし、地面を転がりながら避け、距離を取る。距離を取ったのを確認してから、適当な荷物の陰に隠れた。


 避けられた刃は、勢いのまま壁に突き刺さった。


 銃を壊せればよかったのだが、こうも簡単に避けられてしまうとは。当てるには工夫が必要だ。


 「っ、クソいてぇ……《クローズ》……」


 受けた傷を押さえながら、飛ばした刃を回収する。ただ飛ばすだけでは当たらない。斬撃を飛ばすことも考えたが、あれでも先程の刃より良い結果になるとは思えなかった。


 打開策になるようなものはないかと、辺りを見渡す。近くに落ちているあるものが目に入る。


 最初に弾き飛ばした、魔導銃だ。銃が撃てるか、そもそも当てられるのかという疑問があったが、すぐさま手を伸ばし、銃を掴む。


 掴んだ瞬間、ほんの僅かだが懐かしい感じがした。最後の瞬間にまで、本心を知ることをなく、完全に同化したアイツ。


 「テリーの……なんでまた……いや、今はどうだっていい……!」


 そう言った瞬間、弾丸が飛んでくる。咄嗟に銃を向けそうになったが、間に合う筈もなく肩に被弾した。


 「っづう……!! 気が緩んだ……!」


 「……馬鹿か。懐かしい気配を感じたのか知らんが、気を緩めるとはな。せめて楽に死ぬといい」


 先程撃った箇所から動かず、すぐに撃てるようにこちらを狙っている。目は鋭く、既に引き金に指をかけている。


 「ハァ……生憎と、死んでやれない理由があってね……!」


 「……貴様に撃てるのか?」


 「あんだけ何度も見てりゃ、分かるわ……!」


 こちらも、魔導銃の銃口を向ける。標準を定めるのには結構かかるだろうと思っていたが、かなり近くにいた為、簡単に狙いがつけられた。


 (まずは、この銃の中にあるコアに向けて魔力を流す……形をイメージすれば弾丸、形のイメージがなければそのまま放出されるだけ……)


 銃口に、エネルギーが集まり始める。赤と黒が混ざったようなエネルギーが収束され、球体を形作る。


 「っ、これはまずい……!」


 「後は自分のタイミングで……引き金を引くっ!」


 何処かへ下がろうとしたが、もう遅い。躊躇うことなく逃がすものかと引き金を引いた。


 その途端、反動に耐えきれずに左腕が跳ね上がる。咄嗟に消し飛ばさないように紅蓮を離し、右腕で支える。


 (やっべ……! 反動失念してた……!)


 義手の損傷は見られなかったが、放たれたエネルギーの奔流は、下から上へ、直線上にあるものを薙ぎ払っていった。


 時間にして五秒程だったが、壁をブチ抜き、天井にまで穴を開けていた。


 「これ以上はお互い怪我じゃ済まない。この辺にしとかない?」


 「っ、何だ……この威力……!!」


 避けそこねたのか、吸血鬼が左肩を……いや、消し飛んだ左の腕を押さえて座り込む。しかし、徐々に再生を始めているようだ。


 それを見て、斬りかかろうとしたが、足が縺れて壁によりかかる。そのまま力を抜き、ズルズルとその場に座り込み、声を出した。


 「……落ち着いて、話し聞いてくれる気になった?」


 「……あぁ。敵ならそのまま消し飛ばせばよかったものを」


 「だから敵じゃないんだっての。言ったろ」


 会話をしながら、自身の体に目を向ける。かなり銃弾を受けたが、痛む箇所はそれほどない。


 強いてあげれば、スナイパーライフルもどきで撃たれた箇所と、蹴られた部分が少し痛む程度だ。魔力を回していればそのうち痛みも消える。


 「……お前は、何しにここに来たんだ」


 「追っかけ回されたから敵を排除しようとしてる感じだな。そっちは?」


 「そうだな……簡単に言えば、人助けだな」


 「人助け……吸血鬼は同族と行動しないイメージがあったけど」


 「そうでもない、夜にしか行動できない奴らがそんな奴らってだけだ」


 どうやら、目の前の吸血鬼は昼間でも支障なく行動できるらしいと、息を整えながらそう思った。恐らく何らかのペナルティはあるのだろうが、死なないのは大きいだろう。


 「……デイウォーカーか、人との混血ってやつか」


 「あぁ、混血だ。だから普通に食事を取って生きて来たんだが……そうもいかなくなった。護るべきものができた」


 そう言いながら、白い女の子を指差す。目の前の吸血鬼からは、何が相手でも守るという意志を感じ取れた。


 「そっか……なら一緒に逃げようぜ、馬車ならあるし」


 「……いいのか?」


 「まぁちょっと説明はいるだろうけど、何とかする」


 会話を一旦終え、立ち上がる。吸血鬼の手を取ると、引っ張り上げて立たせた。


 「いいやつはほっとけないし、正直亜人の知り合いはいくらいても困らないだろうから」


 「……そうか。なら頼──」


 その時だった。白い女の子がこちらに向かって走ってくるのと同時に、壁に押し付けられる。


 勢いのまま押し付けられた為、頭を打ったのか目の前に火花が散る。


 「いっだぁ!! ちょっ、何を……」


 「話は後だ、逃げるぞ。今ので壁が壊れた」


 「壁? 逃げるにしても何で突然……うっわ……」


 視界が戻り、真っ先に目に飛び込んで来たのは何かの攻撃で破壊された壁だった。流れていく外の光景が目に飛び込んでくる。


 しかし、奇妙なことに敵の姿が見えない。


 「ちっ、敵襲か!?」


 「違う、俺達が暴れすぎたんだ……! 拡張された空間が持たない! 脱出するぞ!」


 「うわちょっと待っ……!!」


 白い女の子を背負い、俺の声をスルーしながら掴み上げ、壊れかけた馬車を飛び降りた。

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