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衝動。

 「……なぁー……これ、いつまで続くんだ……」


 「んー……結構かかるな。なんだ、酔ったか?」


 「違う、載せている物が落ちるんd……あっぶねぇ!!」


 馬車に乗り、カーサラルドを発ってすぐのこと。荷車しか乗る場所がないとは言え、もう少し乗り心地がよくなってくれるととてもありがたいのだが。


 荒野を走っているからか、とても道が悪い。正直吐きそうだ。おまけにさっきから、載せている物が落ちそうになっているせいで心までは休まらない。頭に向かって落ちてきた時は死んだと思ったぐらいだ。


 「せめて、固定しときましょうよ……」


 「割れないものは大抵こう運んでるけどなぁ……」


 「あんた絶対運ぶ物傷つけてただろ、それも滅茶苦茶に。割れ物じゃなくて良かったよ本当……」


 そう言いながら、落ちてきた籠を受け止め、少し考えてからそれを頭に被った。


 「……何してるんです?」


 「頭守れるかなって。完全には防げないけどマシにはなるでしょ?」


 「見た目が間抜け過ぎますよ!?」


 頭を守る為にはこういう……少し大きい物の方がいいんだ。だって守れてないところに落ちてきたって防げないじゃん。


 「籠被るってのはちょっと……やめといた方がいいんじゃないか? ほら……その、埃被ってるぞそれ」


 それを聞いた途端、すぐさま被った籠を放り投げた。


 いやまぁ……自分のせいなんだけどねこれ……


─────────────────────


 何とか荒野を抜けたものの、少ししたところにあった林に差し掛かったところで日が暮れてしまい、そこで休息を取ることになった。


 次からは少しはマシになりそうだと思いながら、折れた木に腰掛けて空を眺めていた。


 「んー……食料足りるかこれ……干し肉とかはあるんだけど……」


 「途中、どこかで買い足します?」


 「その方が良さそうだな。無くなってからじゃ遅いし……売れる素材は結構あるし、路銀も少しはあるからな」


 ディーンと雛が、食料について話をしている。このままエスプロジオーネに向かうと、足りない可能性が出てきたようだ。


 まぁ、いつまでにと言う期限がないのだから、ゆっくりと進んで行くのもありだろう。


 「っと、そうだった……テントを出しとかないと。流石に馬車の中じゃ眠れないだろうし……」


 掌を地面に向けてから、魔力を指輪に流す。すぐに指輪が赤く輝き始め、準備が整った。


 出したい物を頭の中で強く念じ、イメージが形になった時に口を開く。


 「《リリース》」


 その言葉を言った途端、目の前に思った通りの天幕が現れた。


 「よし、ちゃんと機能してるな……コードは単純だったけど、覚えやすいほうがいいだろうし」


 そう言いながら、天幕に近付いて、そのまま少し曲がっている部分を直していく。


 「よし……でもちょっと臭うかもなぁ、どっかで日干しとかしないと……」


 よく見れば小さな穴が空いている部分もある。新しい物を見つけるか、穴を塞ぐ補修が必要だろう。最も、補修をするためには新しい布が必要だが。


 「食料以外の為にも、どこか確実に寄らないといけないなぁ……」


 「どうした、天幕に穴でも空いてたか?」


 「そうなんだよ……結構下の方にあったからなぁ……そりゃ結構傷んでるよなぁ……」


 これには弱った。近くに都市があればいいのだが……それも結構ガバガバ警備のとこ。人をそんなに警戒しなくて、亜人を軽視しない所。


 ……まぁ、ないだろうなぁ……敵扱いだし。


 「近くには……覚えている限り大きな都市はないな。でも、小さなやつはあるかもしれない。明日から探してみるか?」


 「……そうしようか。雛も完全に寝てるし」


 ディーンとの会話の途中、雛は眠気に負けたのか突然眠りに落ちていた。今も焚き火の近くで眠っている。


 「……ディーン、雛を天幕まで運んでくれる? 俺は見張るから」


 「いや、二人で見張ろうぜ。何が起こるか分からないし」


 ……確かに、ここでは魔物が近づいても一人じゃ気付けないこともあるだろう。


 亜人族の街で、雛には要らない心配をかけてしまったし、ここで休んでもらおう。


 「そうしようか。雛は天幕まで運んで来るから、先にお願い」


 「分かった、先に焚き火の用意しとく」


 話を切り上げてから雛を背負い、天幕へ戻っていく。背負うのではなく抱えるという手もあったなと背負ってから思ったが、もう後の祭りだ。


 雛の心音が、ここまで近付いて漸く感じ取れた。何度も目の前で、消されてきた命の灯火。消えるときは無造作に消される物。


 今背負った重さ、それがこの世界での人の命の重さだ……とまでは言わないけれど、以前生きていた時の世界よりかは、とても軽く感じた。


 「うーん……自分の命はどうでもいいかもしれないけどさ……他人の命の方が大切だってのは、イカれてんのかなぁ……自分も守れやしないのに」


 雛を天幕の中で寝かせ、長い黒髪に触れる。手をそのまま持ち上げると、髪がさらりと地面に落ちた。落ちた髪から視線が雛の寝顔に向き、固定されてからはゆっくりと顔に意識が集中し……


 「……な、何してんだろ、俺。人の髪の毛なんて弄ってさ……」


 何かがヤバいと感じ、即天幕から飛び出した。何故かは分からない……


 けれど、何かを壊しそうな気がした。

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