謎と同行者。
あれから3日後、ここを経つ日になった。その間に世話になった人には挨拶をし、ちょっとだけアドバイスを頂いたり、小言を聞いたりしていた。
目を覚ました際に義手を付けてくれた人からはもう無茶すんなと言いながら、塗り薬を半ば押し付けるように渡された。
そして、日が昇り始めた頃。エラとレオニ、隠れているフィアに見送られながら、亜人達の街を去ろうとしている。
「では、長い間お世話になりました」
「あぁ、また来るといいよ」
雛とエラが別れの挨拶を済ませている中、俺とレオニは……
「ぐぐっ……! 力強いって、どうなってんのさ本当……!!」
「ゴ、アァァッ……! グオォッ!!」
最後に力比べをしていた。勢い良く地面に叩きつけられたが、これもまぁ……一種の思い出だろう。
……多分。
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「いてて……筋力も課題だな、こりゃ……多すぎやしないか、課題……」
「まぁ、命がけで戦闘……はしてなかったようですからね……戦闘の意味が変わってますから、多いのも仕方ないかと」
駄弁りながら、カーサラルドの道を歩く。以前は角を隠すためにフードを被っていたが、出発する前に隠蔽の魔法をエラと雛に教わることで普通に街を歩けるようになった。
突然街中で戦闘が起こったとしても、これならばどこから来るのかが分かりやすい。視界が広いというだけでも、かなり動きやすくなる筈だ。
「最も、バレる時はバレるだろうなぁ……」
「まぁ、その場しのぎではありますし……」
まぁ、ないよりはマシだという程度の隠蔽だ。実力者相手にはすぐにバレるだろう。それは常に心に刻んでおこうと、ギルドに向かう道で考えていた。
「さて、ミナスに会いに行かなきゃな……」
「信用してはいないけど、ですか」
ミナスの行動には、謎が多かった。仲間達に会いに行かせ、そのまま放置。合流したら真っ先に来るべきではないか? 龍人を止めるには、龍人や亜人でなければならないというわけではないだろうに。
龍人と看破されたのもそうだ。確かに龍人としての力は、一欠片も使っちゃいなかった。普通に筋力は龍人のものだったが、それ以外は普通に戦っていたし。
恐らくは最初から龍人と分かっていたか、それとも……
「……結局、敵なのかもしれないし、警戒はしておいて損はないな……」
そんな思いを抱えながら、ギルドにたどり着いた。しかし……嫌な予感というものは結構当たるものだ。
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「いない……ですか……」
「はい……別のギルドだったのでは? 名簿にも名前はありませんし」
近くを通った職員の方に声をかけ、無理を言って調べてもらうと、ミナスという職員はいないという答えが帰ってきた。
「……そうかもしれません。無理を言ってすみませんでした」
「いえ、問題ないですよ。それでは」
そう言い、職員は離れて行った。さらにミナスに対する不信感が募り、謎も大きくなった。
「どういう目的だ……? 行動原理が分からない……」
ギルドの外へ出た途端、すぐに頭を回し始めた。
人の考えを読み解ける訳ではないが、どう考えてもミナスの目論見が分からない。第3勢力か敵、ましてや味方かもしれない。味方という線は薄い……と思うが……
「戦力強化……? なんの為に……」
「ロアを、倒すため……?」
ロアを倒す。確かに今のままでは、全く歯が立たないだろう。あの時の敗戦は鮮明に思い出せる。
白い雷の威力、速度共に桁違いのものだった。今まで受けたどの攻撃よりも、強力で苛烈なものだろう。
「……まぁ、何だろうが……次出会うときには警戒しておこう」
これに尽きる。現状、これ以外に出来る手はなかったし、心配事を増やしすぎても意味がない。
今は決して会えないのだから、どう足掻いても無駄だろう。
「ですね……では、そろそろ王都へ?」
「そうなるね。ディーンがいてくれれば……」
「呼んだか?」
「えっ……」
声がした方向へ振り向くと、怪我を完全に治し、動けるようになったディーンがいた。
「久しぶりだな! 雛、光牙!」
笑顔で話すディーンにつられたのか、雛も笑みを浮かべ、俺も近付いて背を叩く。
「ディーンさん! 体は大丈夫ですか?」
「あぁ、ピンピンしてるぜ……それで、要件は?」
「王都へ行きたいんだ。その為に馬車を借りたいんだ、けど……」
声にしている途中、ディーンがボロボロにされた時の事、白焔を殺した時の事を突然思い出した。
この先の事を、口に出してしまっていいのだろうか。ましてや、彼は冒険者という夢がある。その為に家を出てきたのに、勝手な理由で巻き込んで……
そう考えると、この先の事を口にする事は憚れてしまった。
「んー……よし!」
ディーンが突然そんな事を言うと、両肩にディーンの手が勢い良く置かれた。
「でぇっ!! えっ何!?」
「いいか、俺はお前が何考えてるのか検討もつかない。ただ、俺に対して遠慮してるってのは分かるんだ」
そう言いながら、ディーンは俺の顔をしっかり見据えると、もう一度口を開いた。
「巻き込むとか考えてるんなら、気にすんな。俺ぐらいじゃんじゃん巻き込めよ! 頭数は大体向こうの方が上なんだろ、こういうのって! 少しでも手がいるんじゃねぇのか!」
「ディーンさん……」
かなりデカイ声だから周りの目が痛いんだけど……等と考えていたが、先程浮かんで来た悪い考えはいつの間にか消えていた。
もう一度続けてディーンが開こうとしたところで、俺は漸く口を開けた。
「ディーン……頼む。俺達を王都へ……連れて行ってくれ。報酬は何とかする」
「あぁ、了解だ。報酬、楽しみにしてるぜ!」
ディーンはニヤリと笑いながらそう言い、肩から手を離すと、一足先に馬車へと向けて走り出した。
「ハァ……本当にいい奴……お人好し過ぎる……」
「結局、巻き込んでしまいましたね……これでいいんでしょうか」
「……まぁ、何とかなるさ。移動が結構、楽になるだけでもありがたい。それに……本人はそれで良さそうだったし、どこで覚悟決めてんだか……」
頭を掻きながら、雛と共にディーンの後を歩いて追いかける。
もう一度あの馬車の揺れに耐えるのは、少し厳しいかもしれないが、新しい同行人が出来た事は喜ぶべきだろう。