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自制。

 「……悩んでたら、夜が明けてた……」


 長い夜の間、必死に悩み続けても何も良い考えが浮かばなかった。頭を振り、一旦眠気を振り払うと立ち上がり、天幕から出ると欠伸をしながら歩き出した。


 「そりゃ一人で悩んでも良い結果になるわけないけどさぁ……」


 こういうものは一人で考えると思考が固まり、ろくな結果にならない。まだましな結果か、ひどい結果になるかの二択だ。


 ましてや言葉を間違えればアウト。おかげで慎重になりすぎてろくな考えが浮かびやしなかった。


 「……ま、何とかなる……といいけどなぁ……流石にノープランじゃ何ともならねぇよ……」


 頭を掻き、その場に座り込む。朝早くは人通りも少ない為、道の真ん中に座っても迷惑をかける相手もいない。


 しかし、全く経験のないことをするとなると、ここまで恐ろしい物なのだと改めて思い知った。


 「……というか、こっちに来たほうがまだ人間らしく生きれてるってどうなんだよ……初めてが多い赤ん坊の見る世界かっての」


 初めての経験は、こちらの世界の方が圧倒的に多かった。良いこともあれば、悪いこともあったけど。


 ふと思ったのだが、瞳や髪が赤いという理由で碌に育てないというのはひどく時代錯誤ではないだろうか。不気味だとは思うが、せめてそれを直接ぶつけるのは……


 「……まぁ、それは難しいことも分かってるんだけどさ……」


 せめて、一人で生きられるようになるまでは……と思っても気味が悪いものを一緒に置いておくのも嫌だったろう。


 だから、父親にだけ伝えて、自分から家を出た。


 「自分の意思って訳じゃなかったろうけどなぁ……耐えられなかったから、逃げた……それがピッタリだよな」


 あそこにいる時は、ただぼんやりとして生きていた。自分のことはどうでもいい存在ではあったが、父親のお陰でここにいたら死ぬ、まだ死にたくないと思えるようになっていた為、家を出ることが出来たのだろうと思う。


 「ま、それは置いといて……うーん、雛が許してくれるかだよなぁ……」


 兎も角、今はそれだけが気掛かりだ。人の気配も増えてきた為、一度天幕に戻ることにした。


─────────────────────


 亜人達の街も復興が進み、大きな瓦礫は殆ど撤去された。小さな物は子どもが遊ぶ為、丸く削られて台の代わりになったものもあるが、大多数が家の補強に使われた。


 今は最後大きな瓦礫を撤去する為に、レオニと運んでいる最中だ。


 「……グッ、オォォォ……!」


 「お互い完治してないってのに、人遣い荒いよねぇ……!! 人手が足りてねぇんだろうけどさぁ!」


 レオニと二人がかりで、何とか運べる重量。それを今日のうちに、5つ程運んでいる。もう腕が震えている上に、足を進めるのにも一苦労だ。


 それももう、直ぐに終わりそうだが。


 「着いたぁ……!!」


 瓦礫を下ろし、その場にレオニと共に腰を下ろす。息を整えようとしているうちにも、心臓の音が煩く感じる程に響く。


 「重かったぁ……こんな重いんだな、これ……」


 この療養期間の間にも、得るものはあった。今なら、もう少し重い武器も振るえそうだ。でも……


 「……もう、次へ向かわないといけないな……」


 悪い癖だ。少しでもその場所で過ごせば愛着が湧いて離れ難くなる。


 ましてや、あれだけ暴れてしまったんだ。よくよく考えれば、あれは悪手だっただろう。次報復とかで仕掛けられたら……


 「……それでも何とかなりそうな気がするな……」


 何とかなりそうな気もしなくもないが、やはり自制を覚えるのは大切だろう。次怒りに任せて剣を振るえば、それこそ味方を斬り殺しかねない。


 「なぁ、レオニ。自制ってどうしたら見につくんだ?」


 レオニの方に振り向きながら、声をかける。レオニは驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの仏頂面に戻り唸り声を上げて考えているようだが……そんなに時間もかからずに肩をすくめた。


 「分かんないかぁ……仕方ない、自分なりに自制しないと……」


 横になっていた状態から立ち上がると、レオニをその場に残し、エラを探しに街に戻る。見つけやすいように人ごみを避けて探していると、エラよりも先に雛が見つかった。


 「あっ、雛……その……昨日は、ごめん……」


 「……いえ、問題ないですよ。光牙さんも、以前の世界では色々あったようですしね……」


 問題ないようには思えない声色で、淡々と言われてしまった。今の雛は、言いたいことを無理して噛み殺しているように見える。


 えぇい、迷うな。思っていることを伝えるだけだろうが。ただそれが難しい……


 「……多分、こういうことがあったら俺は真っ先に突っ込むよ。自分の認識はそう簡単に変わらないから。でも……これからは出来るだけ抑えるようにする。これで今は手打ちにしてくれない、でしょうか……?」


 雛は俺の考えた答えを聞くと、少し考えてから口を開いた。


 「はぁっ……これからは自分の命のことも、偶には顧みて下さいね……幾ら治療ができると言っても、欠損は治せないんですから。これはその腕が証明してますよね」


 雛は義手を指差してから、その手を掴んでから続けて言った。


 「即死や手足を失う程でないのなら、何とかまだ治せます。なので……これからは自制して下さいね?」


 話の途中でいつもの調子に戻った雛は、手を離すと歩いて行ってしまった。返事を聞かずに行くなんてとは思ったが、それと同時にこれから自制を心がけると思いながら立ち上がり、再度エラを探しに向かった。

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