決着。
「お前だけはここで殺す……!」
「帰ってくれよ本当に……」
正直辟易しているんだこっちは。何回殴って殴られたと思ってんの。頭が痛むんだよもう。
まぁ殴られた方が多いけどさ……
「死ねぇぇぇ!!」
いつの間にかサーベルを手に取り、それを振り下ろして来ていた。当たれば今度こそ気を失うだろう。
しかし、冷静ではないのか正確性が欠けている。今までより大分雑だ。力任せに振っている。
「少し水でも飲んで落ち着いた方がいいんじゃないの?」
「だまっ……ごはっ!? ……あ゛ぁぁぁぁ!!」
刀身を避けながら、左の義手で思いっきり殴りつける。殴られた腹部を押さえて後退るが、戦意は衰えていないらしく、すぐに立て直して向かってくる。
「……もういい加減にしろっての!!」
振るわれたサーベルを避け、脚を振り下ろしながら身体を魔力で強化し、根本からへし折る。
「っ、武器が……ゔっ!?」
折られたことに動揺したのか、動きが止まっていたので、尾を胴に巻きつけて引き寄せると、まず左の義手を胴体に叩き込み、拘束をやめてすぐさま右腕を同じように叩き込んだ。
身体強化はまだ続いており、体をくの字に曲げながら吹き飛び、壁に激突して倒れた。倒れた途端、口から血を吐き出して……
……ん? 口から血を吐いた……?
「……やっべ、死んでないよね……?」
ヴァンに駆寄ろうとして、少し躊躇う。こいつに近寄ろうとしたら、折れたサーベルを顔面に叩きつけられる、ってことも十分にあり得る。
「……取りあえず、武器を拾っておこうか」
比較的近場にあった槍を拾い上げ、ヴァンの体に近寄る。後一歩といった所で、折れたサーベルが突き出され頬を掠めた。
「……滅茶苦茶元気じゃん」
「腹クソ痛えけどなぁ……」
腹部を押さえながらも、ふらついて立ち上がる。その瞳から光は消えておらず、獣のようにこちらをしっかりと見据えている。
「……じゃあ、そろそろ……帰ってくれる気になった?」
「はっ、バカ言え。殺されでもしなきゃ止まらねぇよ……!!」
そう言い、猛牛の如く折れたサーベルを持ち、血を大量に流しながら突貫してくる。
「ラァァァァ!!」
「うぐっ……!? 痛えなぁオイ、離れろ……!」
一瞬気圧されてしまい、後方へ下がろうとしたが、傷口に拳を叩き込まれ、ズキリと激痛が走り動きが鈍る。
即座に距離を取るため槍を横薙に振るったが、容易く避けられ、拳が飛んで来る。その拳にタイミングを合わせ、龍化して鱗に包まれた腕で防ぐ。
「ぐうぅっ……!」
「良かった、防御貫通されたらどうしようかと思った……よっ!」
硬い物を殴ったためか、手を押さえてその場に蹲るヴァン。その隙を逃すことなく、槍をサーベルを持つ方の腕に突き刺す。
「あ゛がっ!? てっめぇ……!」
「ごめん、痛いだろうけど……痛くしないと帰らないじゃん? だから突き刺してるんだよ、すぐ帰ってくれるように」
そう言いながら、突き刺した槍を捻り、持ち上げて壁に叩きつける。うめき声が聞こえるが、そんなことはお構いなしにもう一度捻る。サーベルを捨て、槍を掴み引き抜こうとしているが、片腕では力が入らないのか、全く微動だにしない。
血が滴り落ち、地面に赤い華が咲く。このままでは出血多量で死ぬかもしれないと、少し力を緩めた時だった。
「ぐううっ!!……わかったよ、帰る……帰るからこれ抜け」
そう言いながら、無事な方の手を上げるヴァン。正直信用ならない……だけど。
「……分かった」
槍を逆手に掴み、一気に引き抜く。ヴァンの体が重力に従い、地面に落ちる。
「ぐっ、痛えなぁ……まぁ、生きてりゃ御の字か……」
槍が貫通した箇所を押さえ、ふらつきながら立ち上がる。そのまま折れたサーベルを拾い上げてしまうと、来た方向に真っ直ぐ戻っていった。
「今日の所は帰る……またいつかやり合おうぜ」
そう言うと、その場から去って行った。
「……あんなのとやり合うのは、もう二度とゴメンだ。おっとと……」
ヴァンが去って行ったのを確認すると、その場から離れようと動き出したが……ふらつき、咄嗟に手を地面につき、倒れ込むのを防いだ。
「ふぅ……危なかった……っ!?」
突然、体が痛み出した。手をを地面についたまま、体を見てみると、巻いていた包帯が真っ赤に染まっている。
「傷が……開いてる……っ!」
あれだけ派手に動いたのだから当然なのだが、今の今まで大丈夫だったのだからと、油断していた。体はとっくの昔に限界を迎えているのに。
「いやぁ……やっちまいましたねこれ……」
何とか立ち上がると、足を引きずりながら歩き出す。体が痛むけど、今は帰ることだけを考えないと。
そうでもしなきゃ、意識が飛びそうだ……