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不信。

 「うおっ!? こっち来やがったぞ!?」


 男は自分の方に向かってくる龍人を見て、焦りながらも武器を振り上げている。


 「瞬間強化……!」


 速度を上げ、振り下ろされる前に懐に潜り込むと、木刀の柄を握った拳を腹部に叩き込む。少し落ちたとはいえ、戦闘続きの為素の力も人並み以上にある。


 その結果、目の前の男から罅が入るような音が微かに聞こえた。


 男は振り上げていた武器を手離し、殴られた腹部を押さえてよろめき、膝を着いてこちらを睨んでいたが、口を押さえて咳き込み始めた。


 「ゲホッ! ゴホッ……てめぇ……!」


 「殺しはしない、これは守るから安心してよ。首にこの木刀を叩きつけるとかはしないって」


 そう言いながら、男の顔を蹴り飛ばした。面白いぐらいに真っ直ぐ飛んで行き、地面に転がった。


 「加減はしたから死んでないと思うよ。でもまさかそんなに飛ぶとはなぁ……ちゃんと飯食べてる?」


 冒険者達は後退ったり、一部はその場を去っていった。しかしまだ、ヴァンを含めて5人程残っている。


 それに俺もおかしい。何故か、いつもより饒舌だ。こんなことをしていて、興奮しているということはないだろう。不安なのか、憤怒からかは分からない。


 どちらにせよ、今はどうでもいい。後から吐くなり、震えが止まらなくてその場に座り込むなりすればいい。


 まずは敵の排除が優先だ、後のことは後になって考えよう。


 「さぁ、来なよ人間! 倒したいんだろう、殺したいんだろう!? なら殺してみせろよ、眺めてないでさぁ!」


 「コイツ、調子に乗ってんじゃねぇぞ……!!」


 「バカ! 一人で突っ込むな!」


 適当に挑発していたら、5人のうちの2人程挑発に乗り突撃してきた。二人とも考える頭はあるのか、二手に分かれている。刃の大きなサーベルと、無骨な槍を構えており、当たればただでは済まないだろう。


 「オォラッ!!」


 「あぶねっ……!」


 どうやって倒すかと思考を巡らせていると、サーベルが大振りに振るわれる。首を狙った一撃をスレスレでかわしたが、頬を掠めて血が滲む。


 大振りな一撃の隙を突き、木刀を振るおうとした時だった。もう一人が側面から槍が唐突に突き出し、心臓目掛けて突き刺そうとする。


 木刀で咄嗟に払ったが、一度で駄目ならと何度も突き出して来る為、避けたり防ぐので精一杯だった。


 「ほらほら、攻めて来いよ化け物!」


 「くそっ、だから2対1って面倒なんだよ……!」

 

 刺突の雨を捌きながら、槍を掴んで放り投げる。少し義手に当たったが、義手にそこまで損傷は見られなかった。


 槍使いの男は、空中で体制を整え着地すると、片割れと合流して最初の時と同じように二手に分かれて襲ってきた。


 先程の戦闘と今の突進で分かったが、こいつら結構速い。どちらか片方を相手していると、もう片方にやられるかもしれないと判断し、動かないでいると、至近距離にまで接近されてしまった。


 「獲ったっ……!」


 「死ねよ、化け物っ!」


 片割れの刃が振り下ろされるが、避けたら後ろから槍で諸に受けることになる。それを分かっているのか、二人の顔は笑っていた。


 「嘗めんなっての!」


 突き出された槍の先を掴み、奪い取ると魔力で強化し、薙ぎ払うように刃に叩きつけた。


 強い衝撃と共に、全体的に強化された槍の柄が、刃を容易くへし折る。


 男はサーベルが折られたのを見て、呆けた顔をしており、振るった勢いのまま叩きつけると、体が一回転して鼻血を流しながら地面に横たわった。


 「……槍もいいかもな。突いてよし、払ってよしのリーチが長い武器だし」


 槍を一旦くるくると回し、ニ、三回突き出す。そうして、槍使いの男の方を向いた。


 槍使いは暫く放心していたようだったが、頬を掠めるように槍を突き出してやると掠める寸前で意識を取り戻したようだった。


 「……はっ! あぶねぇな、何、だ……ひいいっ!?」


 こちらを見て、怯えたような動きをして距離を取る槍使い。足が縺れ、転んでしまうが、それでも距離を取ろうとしている。


 冒険者とはいえ、武器が無くなればこんなものか。魔物との戦いを素手でやるようなやつはいないだろうし。


 空いた距離を詰めていると、逃げるのが無駄と悟ったのかこちらを見ると口を開いた。


 「な、なぁ、見逃してくれねぇか? もう二度とこんなことしn……がぁぁぁぁ!?」


 言葉の途中で、槍を脚部に突き刺した。煩い悲鳴が響き渡るが、意に介さず何度か捻り、引き抜いた。槍が抜かれた男は呻き声を上げ、その場に丸まっている。


 二度とこんなことしない? 当たり前だ、なんの為にこんなことをしたと思っているんだ。ただでさえ、お前らに対する不信感でいっぱいなんだよ?


 もう二度と亜人を狩ろう等と思わせない為に、冒険者としては再起不能、それか怪我を負ってもらわないと。


 「見逃しても、代償がなかったら同じことをしそうだからね……何度も言うけど安心しなよ、命は取らない」


 そう言うと、丸まっている男の顎を蹴り上げた。すると男は呻き声一つ上げず、仰向けに倒れ込んだ。


 息があることを確認するとその槍を地面に突き刺し、冒険者達の方へ向き直る。


 「さて……これでもやる? 諦めてくれると、俺としても有り難いんだけど」


 一人一人を、注意して見回す。全員眼が合うと、一人を除いてそれだけで後退る。そうしているうちに一人が武器を背負い、両手を挙げた。


 「俺は降参だ、割に合わねぇよ。一人でこれだろ? だったらこの先、もっと強いのがいるかもしれねぇ。そう考えると俺は怖くて堪らないね」


 「分かった。序でにそこで気絶してる三人も引っ張って行ってよ。後無いとは思っているけど……」


 「誰にも言うな、だろ? 当たり前だ。まず俺等は自己判断で来てるんだぜ、言った所で自己責任で終わりだ」


 その言葉を皮切りに、冒険者達が武器をしまい、逃げ帰るように去っていった。先程伸した3人も、武器は置いて行ってもらうことになるが、命があるだけマシだろう。


 ついでにその3人も持っていってもらったので、手間が省けたのは素直に有り難かった。


 これ以上は体力が持たないと感じていたのだ。一部は残るだろうと予想し、上まで運ぶのは面倒なことになると判断したのだ。


 しかし、残ったのは一人だけだった。この街で最初に戦った、粗野で乱暴者の問題児。蛇を彷彿とさせる紫の細い瞳を持つ男。


 ヴァン・セルピエルテが笑いながら立っていた。


 「あの時は途中で邪魔が入ったからなぁ……続きとしては丁度いいなぁ……!」


 「俺としては続きなんて来なくていいと思ってたよ。あんたとやるのは骨が折れるし、あんたは嫌いだ」


 木刀を構え、油断無く見据え、脆い箇所がないか探す。


 着けている鎧は普通に金属製の物だろう。しかし、所々黒ずんでいる。返り血をそのままにして放置、なんてことは普通にやりそうなことだから、気にはならなかった。


 肩に担いだ武器は、あの時と同じでサーベル型の武器だった。しかし、今回は刀身が錆びついていない上に、幅がある代物だった。


 斬ると言うよりも叩きつける、突くのにとっかした武器だ。これがあいつの本来の武器なのだろう。


 「いいぜェその目……その目がいいんだぁ……! 殺し合おうぜェ……!」


 「……殺さないよ、面倒になりそうだし」


 最も、ここで手を出した時点で面倒極まりない事になっている気もするが。


 「さぁ、俺を楽しませろぉぉ!!」


 「どっか行けよ戦闘狂、迷惑だ」


 互いに思っている事をぶちまけて駆け出しながら、武器を相手目掛けて振り下ろした。

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