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逆鱗。

 「はぁ……はぁ……意識して、魔力を扱うのってこんなに難しいものだったのか……」


 地面に大量の汗を流しながら大の字で横たわり、息を荒げている。一体何時間程、剣を振っていたのだろうか。それは分からないが、言えることは一つ。


「延びた時もあれば、逆に時間が縮む時もあるのはどういうことなんだろうな……」


 取り落とした木刀を見ながら、ぼやくように呟いた。


 実際、最初の時と比べれば圧倒的に継続して使用できる時間は延びた。しかしその延びた時間にムラがある為、少し戦闘では頼りないものとなっている。


 この一撃で、なんて時に切れたら目も当てられない。


 「武器の強化と肉体強化を同時にやるしかないか……時間が切れる前に全部倒す、しかないよな……無理だろ」


 木刀を杖がわりにして、フラフラとしながら立ち上がり、腕と脚に魔力を流す。魔力を流すこと自体は長くやっていたので、集中しなくてもスムーズにできるようになった。


 これだけでも大きな進歩だ。進歩なのだが……進みがゆっくりとし過ぎている。周りが走っているのに、自分だけ歩いているように思える。


 「……最も、進み出すのが遅かったんだから、これが当たり前なのかもな。でも止まってちゃ何も出来ない……!」


 体全体に、鉛を埋め込まれたようだ。ただただ全身が重い。魔力を扱うということは精神的にも疲れが生じるようで、心と体が異様に疲れている。


 「死ぬ訳じゃないんだ、無茶してでもものにしてやる……!」


 と意気込んだはいいが、疲労からか少し進んでふらつき、その場に倒れ込んだ。


 「……まぁ、休憩もいるよな……ぶっ続けでやっても結果はあまり良くならないし」


 廃れた闘技場に空いた大穴から見える空を見上げる。あの大穴、塞げるのかと思いながら見上ていると、鼻の先に水が落ちた。


 「冷たっ……雨か、今日は戻ろう」


 大穴から空を見上げるのを止め、戻ろうとした……時だった。耳の横を掠めてナイフが飛来する。

 

 「……誰だっ!?」


 咄嗟に木刀を構え、辺りを見回す。すると小石がパラパラと上から落ちて来た。その方向を見ると、見覚えのある錆びたサーベルを担ぎ、笑ってこちらを見る男がいた。


 「よぉ……久しぶりだなぁ……」


 「ヴァン・セルピエルテ……! 何の用だ!」


 「教えると思うか?……味方には見えねぇしなぁ……!」


 話している間にも、装備を付けた男達が松明を持ってこちらを睨み、囲んでいる。無視して縄を下ろしているようで、降りて来る準備をしている。

 

 「まぁ、教えてもいいか……調査だよ、突然魔物が落ちて来るなんざおかしいだろうが……亜人共がいる可能性があるからなぁ……見つけて殺さねぇといけねぇだろ……」


 「ここは種族なんて関係ないんじゃないのか!? 何故亜人を殺さなければならないんだ!」

 

 「うるせぇんだよ、魔物モドキ!」


 この声と共に、ヴァンの隣にいる男が石を投げつけてくる。それを避けると、面白くなさそうに鼻を鳴らし、大きく口を開き叫んだ。


 「いいか、どの種族も平等なんてある訳ねぇんだよ! ギルドが勝手に言っているだけだ! 魔物か人か分かんねぇ化け物の癖してよぉ、てめぇらは皆人間に黙って狩られとけばいいんだよ!」


 それに続いて、同意の声が響き、石が投げ込まれる。


 ……やはり、亜人も俺達と同じらしい。自分と違う部分があるだけで排斥される。こんな醜い部分で、自分の世界との共通点を認識したくなかった。


 石が複数回体を打ち据える。当たった箇所から鈍い痛みが走るが、全く気にならなかった。


 先程叫んだ男が、全力で石を投げつけて来た。それが頭に当たり、血が流れ出す。


 「よっしゃ、ヒット!」


 「おい次俺な! どこ狙うかな……目なんてどうだ?」


 「ハハッ、ひでぇやつだなぁお前! 目を潰す気かよ!」


 あぁ……エラさん達はこんなのを守る為に夜戦ったのか? 安全の為とはいえ、都市の地下では必ずバレていただろうに。この場所を知らずに、上の都市に住む亜人もいる。


 ……その結果が、これか。上で住む亜人も、機会があれば殺そうとしていたのか?


 ロアの気持ちが分かってしまった。こいつ等は……武器を持ってはいけないタイプの種族だった。


 「……けない」


 「……? オイ、何かアイツ……」


 「いいんだよ、ほら目が潰れるぜぇ!!」


 その言葉が聞こえると同時に、石が投げられ、目に向かって飛来する。


 それを受け止め、投げた奴の所へ全力で投げ返す。反応出来なかったのか、顔面にモロに受け、その場に倒れ込んだ。その際に歯が何本か口から飛び出すのが見えた。


 「なっ、オイ! 大丈夫か!?」

  

 「あ……がが……」


 「その程度で済んだだから、別にいいだろ? 生きてるんだし。最も、暫く固形物は食べられないだろうけどさ」


 そう言うと、その場にいた全員がこちらを睨む。先程まであった嘲笑の笑みは消え、敵意を持って睨んで来ている。


 「なんだよ、やるのは良くて、やられるのは嫌なの? 都合がいいね、本当。ねぇ、亜人は本当に滅びなきゃいけないのかな?」


 「あったり前だ! 俺たちは化け物共が生きてちゃゆっくり出来やしねぇんだよ!」


 最初に叫んだ男が歯が折れた男を抱えて叫ぶ。化け物、ねぇ……


 「そうかい、化け物かぁ……俺達からしたら、君達の方が化け物だよ。お前達みたいなのがまだ何人いるから……今こうなってるんじゃないか」


 足元にあるナイフを逆手に持ち、木刀の先をヴァンに向ける。


 「お前達の方が、生きていてはいけない存在なんじゃないのか? 人間共」


 「……ハァ……殺れ、お前ら……このクソガキに後悔させてやれ……!」


 武器を構えて、複数人が降りてくる。ナイフやメイス、剣に斧等、装備は選り取り見取りだ。


 「安心しなよ、殺すなんて真似しないからさ……!」


 そう言い放つと、連中の一人に向かい駆け出した。

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