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信用。

あの後、暫くして混乱していた頭は落ち着いた。それと同時にとても申し訳ない気持ちだった。


いや……だって……ねぇ? 泣くのを見せるのって案外恥ずかしいし、色々ありましたし、はい……


「あのぉ……雛……そろそろ離して……?」


「あ、すみません……」


雛はそそくさと離れ、再度向かい合って座る形になる。少し呼吸を整える為に息を吸い、口を開いた。


「俺、多分またどこかで無茶するよ。自分のことを全く分かってないんだと思う……」


「でも、死にたいわけではないんでしょう?」


「うん……だからまずは、皆と合流するまでに自分を見つめ直す。そして、無茶せずに繋がりを守れるようになりたいんだ」


何個目か……は分からないけれど、この世界での目標が増えた。


「そうですか……なら二人で、皆と合流したら皆で頑張りましょう!」


「うん……頑張る。ねぇ雛、ここって本とかないの? 魔法とかあれ、まだただ撃ってるだけだしさしっかりとした物を学びたいんだ」


「エラさんと探してはみますけども……あるでしょうか……」


「まぁ、だよね……あればでいいんだ」


そうだろうなぁ、目的の物が都合よく残っている訳がない。焼けてはいないだろうが、探すのが手間取る程には瓦礫は散乱している上、まず本そのものが見つかるかどうか怪しい。


まずそういった瓦礫を退かすのにも、かなり時間はかかりそうだ。頭の中で見つかるかどうか考えていると、雛は会話を終えて天幕を出ようとしていた。


「うっ、くっ……」


「雛……!? 大丈夫か!?」


肩口を抑えながら、その場に蹲る雛。体の重さに耐えながら近付いて雛の手を退けてその部分を見ると、包帯が巻かれており血が滲んでいた。


「雛も怪我してたのか……?」


「鋭い角が、少し掠めてしまいましてね……でも軽傷ですよ、切り落とさないといけない訳ではありませんし。では、ゆっくり休んでくださいね」


滝のように汗を流しながら痛みに耐えその場に立ち上がると、天幕から出ていった。


それを見て、手を伸ばしていたが、すぐに引っ込めた。何故雛に手を伸ばしてたのかは自分でもよく分からないが、その手を握り、横になる。


「……まぁ、皆無傷って訳にはいかないよな……」


外の音を聞きながら、目を閉じる。小さな子の声や、痛みに耐える声、指示を飛ばす声が入ってきた。


……そう言えば、あの白い尻尾を持った子とは全く話せていない。遠目で見ていただけだったし、近くに来たこともなかった。


「動けるようになったら、探してみようかな……」


傷が少しでも良くなれば、動き回ってみようと思いながら、目を閉じて眠りについた。


疲労は深刻で、目を閉じてすぐに睡魔がやって来た。その睡魔に身を任せ、深く眠りについた。


──────────────────


あれから暫く経ち、一人で立ってそれなりには動けるようにはなった。


しかし、長い間眠っていたり、横になっているとそれなりの弊害があるものだ。


「はぁ……はぁ……! 体……おっも……洒落にならないよこれ……!」


体力の低下がその弊害にあたる。長い間眠りに落ちていた体は、体力が落ちきっていた。


「はぁ……元の体力に戻るまでは、かなり時間かかりそうだなぁ……」


しかし止まっていられる時間は少ない。すぐにでも向かいたいところだが、怪我が治り次第ここを出るつもりだ。


「少しでも、体力を……戻さなきゃ……!」


なんとかふらつく体で自分の天幕に戻ったが、この状態では剣を振るうのも難しいだろう。一度や二度ならまだ振るえるだろう。


だが問題はその後からだ。三回以上となると……少しキツイ。三回目まではいいのだが、それ以降は息が上がってくる。そのまま二十回目まで振っていると、木刀を手放してその場に膝をついてしまった。


「あ゛ぁ、もう日にちの感覚もわかんねぇし……! 何日経ってんだろうな、本当!」


滝のように汗を流しながら、落とした木刀を拾い、広場から立ち去ろうとする。


木刀を掴んだ時、不意に痛みが走り、掴んだ木刀を取り落とした。


「い゛っ……! まだ痛むか……」


時折、右腕に痛みが走る時がある。固定せずに良くなったのだが、やはり深いところでは完治していないのだろうか。


「たまに同じように、頭にも痛みが来るからな……あ、そうだ拾っていかないと……」


再度木刀を手に持ち、自分の天幕に戻る。その最中に何度か人にすれ違い、少し話をしたりした。


……中には、不快そうな視線を向けながら避ける人もいたが。


「……そうだ、レオ二は怪我の具合どうなんだろ……」


ふとそう思った。自分のことで精一杯……というより、目的で頭の中が一杯で、レオ二のことが頭から吹き飛んでいた。


自分ながら、薄情なものだ。一緒に戦ってくれた人のことを忘れているとは。


「……どこにいるかも、わかんねぇけどさ。大丈夫かな……」


「何が大丈夫なんだ?」


唐突に声をかけられ、その方向を向くとエラが知らない人物を連れてこちらに歩いて来ていた。フードを深く被っており、顔が見えない。


……少し、警戒しておくのがいいか?


「エラさん……そちらの方は? 顔を隠している方は少し信用しにくい」


「ん? あー……お前また……」


「だってほぼ初対面じゃない……!」


「迷路の中で合ってるだろ、君は……追いかけられたと言っていた筈だが……」


迷路の中……? 追いかけられた……? 思い当たる節が全くない。追いかけたのはあの白い尻尾の……あぁ……


「……あぁ、彼女が俺達が二人で追いかけ回した……」


「そう、彼女だ。名前は……」


「自己紹介は自分でするよっ!! 怖いけど……フィアよ……」


フードを目深に被り、決して目を合わせようとしない……ひどく怖がられているのだろうか? それならば少し悲しい……


いや、ひどく悲しいんだけど。理由なく怖がるんじゃないよ、トラウマなんだよそういうの!


「……白天 光牙。光牙って呼ばれてる。ひどい人見知りだね?」


「どうにもならないんだよね、昔から……顔を誰にも見せたこともないし……」


もう人見知りとかそういうレベルじゃない気がする……そういう物なのか……?


しかし、針をあんな暗い場所で正確に狙える物なのか……? フードを目深に被っているのに。元暗殺者だったのか……?


取り敢えず、少しの時間だけで信用しきるのは難しそうだ……


もっとも、それはお互いに言えるのだけれども。


「……信用してないって、感じするね……」


「当たり前だろ、顔も知らないのに信用できる訳がない。まぁ……見ず知らずよりかはマシなんだろうけど」


そう言うと、フィアはフードを更に深く被り、俯いてしまった。言い過ぎたか……? いや、間違ってはない筈だ……


……他人を信用するのが、以前よりも難しくなってしまったと実感しながら、エラの苦笑いを見ていた。

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