凸凹。
「あっ、ぐうっ……レオ、ニ……? 何で……」
片腕を抑えながら、フラフラと立ち上がりレオニに問いかける。
しかしレオニは俺の問いかけに答えることなく、唸りながらゆっくりと岩の魔物に向かって歩いて行く。
岩の魔物も同じように、レオニに向かってゆっくりと距離を詰めていく。
互いを敵として認識し、その腕が互いに届く距離に迫った時、同時に目の前で静止する。
そして、互いに示し合わせた訳ではないが、同時に腕を振り抜き、互いの顔を殴りあった。
「うおぉっ……!? なんて、馬鹿力だよあいつら……」
互いの拳が衝撃波のようなものを生み出し、その衝撃によって体が宙を舞う。何とか地面に落ちる寸前で体勢を整えたが、体が受けたダメージはどうしても無視できず、脂汗が滲む。
痛む箇所を掴み、歯を食い縛ってもといた場所まで戻ると、レオニと岩の魔物が全力で殴り合う最中だった。
拳の威力に互いにバランスを崩すが、すぐに立て直すとお互いがノーガードで殴り合う。守りに入ればやられると一発で判断したのだろう。
お互いが目の前の敵を黙らせる為だけに、相手を滅茶苦茶に殴る。そんな光景が目の前に広がっていた。
「互いにノーガードって……ヤバイなあそこ。下手に手を出すと巻き込まれるか吹き飛びそう」
それに加えて、体へのダメージも大きい。少し休む必要がありそうだ。
「グォォォォォ!!」
「ギ、ガガガ……」
レオニの殴打の嵐の前に、岩の魔物は押されている。レオニのような剛力の持ち主はただ力任せに殴っているだけであっても、相手にとっても脅威になる。
しかし、この攻勢をいつまでも続けるのは難しいだろう。滅茶苦茶な攻撃は確かに読みにくいが、その分体力の消費も大きい。そのうちに疲労がたまり、見切りやすくなるだろう。
加えてレオニも連戦続きだ。体力もかなり消費している為、できるだけ速攻で決着をつける必要がある。
そのためには長く休んではいられない。少し休んだのちに、レオニに加勢する。それが勝つ為に必須な条件……の筈。
「ふぅ……《ファーストエイド》……少しはマシになるだろうけど……問題は協力だな……出来るのか……?」
拳を受け、血を流しながらも滅茶苦茶に拳を振るうレオニを見て、あれに割り込めるか考える。
……正直、諸とも殴られる気がしてならない。ほぼバーサーカーと化しているレオニに意志疎通が取れるか、これが大きな問題だ。
そんなことを考えているうちに、レオニが反撃を受け、大きく体勢を崩した。岩の魔物は直ぐ様拳を叩きつけようと振り上げているのが見える。
「まずっ……!《ブースト・エクスプロージョン》!!」
足の裏に魔法陣を発生させ、地面を蹴った瞬間、その魔法陣が爆ぜる。傷だらけの体に痛みが走り、叫びを上げそうになった。無茶をしたなと自分でも思ったけれど、これが今出来る最善の策だった。
その勢いを保ったまま、岩の魔物の人で言う腹の辺りに頭突きをした。岩の魔物はよろめき後ろに下がったが、あまり堪えていないのか、拳を振り上げる。
「くっ、これならどうだよ岩野郎……!」
「ゴオッ……!?」
頭突きしたことで、目の前に火花が散っていたが、咄嗟に拳に先程の魔法陣を展開し、その拳を叩きつける。拳を叩きつけた箇所に魔法陣が展開され、再度拳を叩きつけると爆発を起こし、俺と岩の魔物は互いに後ろに吹き飛んだ。
受け身をとれずに地面に倒れ込み、直ぐ様上体を起こすと、岩の魔物の体にヒビが入り、吹き飛んで地面に倒れた状態で停止していた。
「あでで……でもまぁ、割れてないだけセーフか……」
頭を押さえながら、レオニの方に振り向き、話しかける。目が合うと、唸り声を上げながら睨んでくるが、今はどうでもいいことだ。
「レオニ、気に入らないのは分かるよ。龍人が憎いってのも。でも今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ? 別に友達になろうって言ってる訳じゃないんだ、あの岩野郎を倒すまで協力するだけでいい……だから、手を貸してくれ」
俺の言葉を黙って聞くレオニ。暫く唸っていたが、唸り声を止め立ち上がる。
「……ヴォウ……」
俺の横まで来ると、魔物の方を向き拳を構える……非常に嫌そうな顔をしているのが、玉に瑕だが……まぁ……うん……協力してくれるだけよしとしよう。
心から憎んでいるなら、どうしようもないし。
「ハイ、ジョ……!」
そんな声が聞こえ、レオニと二人して振り向くと、多少体にヒビが入ったものの全く問題なさそうに立ち上がる岩の魔物の姿があった。
「排除排除って繰り返して……排除されるのはお前だよ、岩野郎。今回みたいに人様の家におじゃまするときには一声かけてから来い、そうすればそれ相応の応対はしてやるからさ!」
「グオォォォォォ!!」
刀を抜き、切っ先を向けて言い放つと、同時にレオニが雄叫びを上げて突っ込んで行く。それを見て、一拍子遅れて俺も走り出す。
信頼もチームワークもない二人での共闘。どうなるか分からないけれど、少し楽しみな自分がいた。