魔の者。
「……彼の種族は?」
「獅子人だ。白い雷を放つ龍人が率いる軍に侵略を受けたようでな、その時に殆どの殺されてしまったらしい……レオニも虫の息で生き延びたが……その時に声帯をやられた。その時から、獣のような声しか出せなくなってしまったんだ」
「……白い雷……ロアか……!」
あいつは、どこでも同じようなことをしているらしい。やはり相容れない存在なんだなとこの話を聞いた時に確信を持てた。
「やはり、知っているのか……」
「あぁ、ロアの奴は俺たちの里を焼かれたんだ……」
「……本当に、嘘であって欲しかった出来事ですよ……」
無意識に手に力が入り、拳が震える。半月程経った今でも、明確に思い出せ、夢の中で魘される。
そして最後には決まって、白い雷が視界を埋めて、そこで目が覚める。そこまでの道筋は違えど、この結末はいつも同じだった。
「……苦労しているんだな……同じ龍人であるのに、止められるのか?」
「あいつと俺が同じ種族だからだよ、止められるかじゃなくて止めないと……!」
あいつが世界に対して喧嘩を売る前に。そして……他の龍人、雛やエステル達に世界が牙を剥く前に。
「……そうだな。では少し話を……」
エラがそう言った途端、大きな爆音と共に地面が揺れた。立てなくなる程の振動に地面に倒れ込む。振動が収まるとすぐに立ち上がり、人々のざわめきを聞きながら辺りを見渡す。
「っ、なんだ……!?」
「分からん……しかし、外かここに何かあったようだな……」
「絶対録なことじゃないでしょうよ……!」
辺りを見渡してみたが、目に見える異常は地下にはなかった。雛と目を合わせると、エラの方を向く。
「エラさん、俺たちで何が起こったか確認しに行きます! 恐らく地上でしょうけど、そのまま侵攻してこないとも限らないですし!」
「私達が様子を見ますので、ここを守る人は守りにつかせて下さい!」
「し、しかしだな……!」
そう言うと、答えを聞かずに振り向いて走り出そうとした時だった。轟音と共に足元に影がかかり、その影が段々と濃さを増していく。
「っ……雛、避けてっ!!」
「分かってます!」
エラを掴んで、雛に続いてその影から抜け出した少し後に、また轟音。上を向くと、天井に大きく空いた穴から青い空が見えた。
その穴から、大きな角を持つ四足歩行の魔物や、鳥のような魔物、岩の体を持つ人型の魔物が数体見えた。
「……あー……天井ぶち破って来たのか……わらわら入ってくるなぁ。招かれざる客だなぁ……」
「さっさと帰ってもらいましょうか」
エラの腕を離すと、その場に落ちて来た魔物を全力で蹴り飛ばす。足に硬いものを砕く感覚が伝わると同時に、魔物の体を吹き飛ばした。
「ようし、まず一体……連続戦闘は苦手だけど……雛、エラさんを連れてレオニを探してくれ」
「っ、また一人で……!」
「今はそんなこと言ってらんないでしょ、結構な数だよ?」
こう話している間にも、四足歩行の魔物が猛烈な勢いでこちらに向かってきている。
「……だから、早く行ってくれ。見ず知らずの人とはいえ、戦闘に巻き込まれてしまって亡くなるなんて人はいない方がいい」
「……お気をつけて」
話を終えると、雛はエラを連れて走り出した。怪我人の治療もできるし、即死レベルじゃなきゃ大丈夫だろう。
「さーて……あの突っ込んで来る魔物は……サイみたいだな……あんなに凶悪な感じじゃなかったけど。角もあんなにでかくないし」
遠目で見ると、そのままサイだ。サイを凶悪に改造したような見た目に、鎧を着けたような魔物。なんで落下に耐えれたのかは微妙だけども。
「大方、重力軽減とかあるんだろうなぁ……」
「グゴゴ……ッ!!」
勢いよく向かってくる魔物の角を飛び上がって避けると、腰に差した木刀を引き抜き、落下の勢いも利用して脳天に叩きつける。
魔物の頭は顎から地面に叩きつけられ、その場でもがき始めた。
「グォォォン……」
「よーし、大体の強度は分かった……でもこれ、武器をこんな風に何個も腰から下げてたらちょっとなぁ……引き摺るし、なんかそういう魔法、ないかなぁ……あ、とどめはしっかり刺しとかないと」
まだ足が動いてるのを確認し、木刀を再度脳天に叩きつける。そうすると魔物はピクリとも動かなくなった。
この鋭い角を斬っておこうと手を伸ばしたが、今はそれどころではないと手を引っ込めた。
「よーし、まずは一体……ロアの仕業か、魔王の策か知らないけど……そう思い通りにさせてたまるかっての……!」
振り返ると、丁度何体かの魔物が音を降りてきた。
顔を引き締め、木刀を肩に担いでその魔物達に向かい駆け出すと、魔物達も警戒し、構えを取る。
「だから恨みはないけど、倒されてくれよ!」
一体の魔物の眼前で飛び上がり、その頭に向けて木刀を振り下ろした。