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迷路にて。

先程の尻尾を追いながら、全力で駆ける。それでも間の距離は縮まらず、角を曲がれば次の角を曲がろうとしているのがチラリと目に入るような状態だった。


すぐに見失ってしまい、息を一端整えながら周りを見渡していた。


「ぜぇ……ぜぇ……あいつ滅茶苦茶速いなぁ!? 追いつけやしない! つかなんだこの闘技場、随分複雑な構造してるのな!」


「ですね……はぁ……はぁ……敵だと思われているなら、どこからでも奇襲されそうですね……」


まるで迷路のような構造をしており、少し走り回ってしまえばそのうちどこから入ってきたのか分からなくなりそうだ。


「……まぁもう迷っちまった訳だけども! 出れるかなこれ……」


もうどこから走って来たのかが分からない。進むしかない。そう考えて一歩踏み出した途端、何かに引っ掛かり体が前に倒れ込む。


「うおっ……!? 何かある!」


「紐ですね……何かのトラップでしょうか?……うわっ!?」


突然雛の悲鳴が聞こえ、そちらを振り向くが、そこには誰もいない。どこかに連れていかれたのだろう。


「……嘘だろ……こんな所に一人にすんなよ敵さんよ……いってぇ!?」


辺りを確認しながらゆっくりと立ち上がると、肩に何かが突き刺さる。


痛みに耐えながらそれを引き抜いてみると、細い針のような物が手の中にあった。


「……これ、ヤバいよね……なんも伝えてないのかよミナスの馬鹿野郎……というかこっちにもそれぐらい教えとけっての」


針を捨てて刀を抜き、ゆっくりと歩き出す。


出来るだけ、音を立てないように忍び足で歩いたが、いつさっきのようなトラップがあるか分からない為、ただでさえ遅い歩きがさらに遅くなった。


「……まぁ、どれだけ警戒してもこういう罠って踏んでしまうものだよな。それなら駆け出した方がいいか……?」


ぶつぶつと呟きながらゆっくりと歩みを進めていると、ガコンと言う音が足元から聞こえた。


恐る恐る足元を見ると、足元の石レンガが沈んで込んでいる。


それを確認した途端、その場から飛び退いた。すると、左右の壁が開き、石槍が勢いよく何本も突き出された。一部の槍は返り血だろうか、ひどく黒ずんでいる。


まともに受けたら鱗の防御を貫通していたかもしれないと考え、ゾッとした。


顔を青くして後退りすると、そこに紐があり、紐が千切れる音が迷宮に響く。その途端に先程と同じように針が飛来し、突き刺さる。


「あぐっ……! くそっ、殺意が高すぎるだろっ!」


その場に膝を付き、足に突き刺さった針を引き抜き、それを放り捨てようとしてそれをコートのポケットにしまい込む。


何に使えるかは分からないが、手段は多めに取っておきたい。


「よーし……考えるのはやめた。一気に駆け抜ける」


一応応急手当として、針が刺さった箇所に包帯を巻き付けると、再度立ち上がり、歩き出すと段々速度を上げて走り出す。


何度か足元で沈む感覚がしたが、それを気にすることなく走り抜ける。


すると、左右の壁の至るところが先程と同じように開く。見えるのは血のついた槍の先端や、槌に刃など、殺す気かと思わせる武器のオンパレード。


普通の人間なら致命傷では済まないだろう。止まれば間違いなく死ぬ。なら、もうここを駆け抜ける以外に道はない。


「ぐっ、おぉぉ!! 走れぇぇぇ!! 何よりも早く走れぇ!!」


飛び出した槍をギリギリで掠りながら避け、横から襲いかかる槌の一撃を滑り込みながら避ける。


ここで一瞬速度が落ちた為かどうかは分からないが、何かが肩に深く突き刺さった。


「うぅっ……あぁぁっ!!」


肩の痛みを忘れようと、止まってたまるかと言うように叫びながら、地面を力強く踏み前へ。


首を刈り取ろうとする刃を刀で弾きながら駆け抜ける。一部の刃は弾けず、少しずつ頬や足、肩を裂いていくが、速度を落とすことなく向かいの壁まで走り抜けると、役目を終えたように壁の中に戻っていく。


それを見て、その場で足の力が抜けたのか、壁に凭れながらその場に座り込む。


「あ……あははっ……ははははっ! やってやったぞ! こんなの作りやがって! ざっけんなバカ野郎っ!! 殺意高すぎんだよバーカバーカ、バーカ!!」


急に込み上げてきた笑いと共に、拳を天井に向けてに突き出しながら叫ぶ。何処からか狙われているのは分かっているが、それでも叫ばずにはいられなかった。


……本当に心臓に悪いんだよ、ここ。


立ち上がろうと足に力を込めようとした途端、どこかに何か重い物が落ちたような音が響いた。その何かがこちらに音を立てて近寄ってくる。


「……マジか……なんかおる……」


その場で立ち上がると、刀を構えて周りを確認する。そうしている間にも音は近付いて来るが、人影は目に入りすらしない。


かなり近寄って来た所で背後の壁からその気配を感じ、飛び退こうとしたが、それよりも早く何者かの腕が壁を貫き、俺の胸ぐらを掴み上げる。


腕を柄の部分で叩いたが、その手が開くことはなく、壁に向けて引っ張られた。


俺の体は壁を容易く貫通し、その勢いのまま放り投げられ宙を舞う。


「うわっ!? 容赦ないな本当……!」


地面に激突する寸前に受け身を取り、襲撃者を探す。しかし、元々の暗さに壁が壊れた際の埃で探しのが困難になっていた。


「ちっくしょう、探しにくい!」


取り敢えず、この場から離れ、雛を探そうと踵を返す。すると背後に血走った目をした、筋骨隆々の男が立っていた。


「ウゥッ……!!」


「……あー、逃がしてくれると有り難いんだけどっ……!?」


話している最中に拳を振るわれ、急いで後ろに飛び退いた。無理に避けた為しかし態勢を崩してしまい、その場に尻餅をつく。


「ウガァァァァッ!!」


「わぁっ待ってお願いしますぅ!!」


なんとか拳の前に刃を滑り込ませて、ダメージを最小限にしたものの、拳の威力はとんでもなく、体が後ろに吹き飛んだ。


背後にある壁に激突し、肺の中にある空気が強制的に全て吐き出される。咳き込んでしまい、目の前の男から目を離してしまう。


目を離していても分かる程に音を立て、地面を揺らしながら男が突進して来るのを感じ、顔を前に向けた。


「がっ……ごほっ……! こんのっ、いい加減にしろっ!」


紅蓮をその場に置き、振るわれた拳を転がって避けながら、懐に潜り込み、強く握った両の拳を腹に叩き込んだ。


「ウゴッ……!? グガァッッ……!」


男は腹部を押さえて数歩下がると、そこで膝を付く。しかし血走った目からは戦意が消えることなく、こちらを睨み付けている。


「……はぁ……今のじゃ流石に駄目だよな……」


息を少し整えてから拳を構え、男が立ち上がるのを待つ。


「そりゃ、出来れば殴りたくなんてないよ。けど、殴り殺しにされるのはもっと嫌なんだよね……!」


男が立ち上がると、相手も同じように拳を構え、互いに相手に向けて駆け出した。

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