獰猛。
「せめて楽しませろよクソガキィィィ!!」
「ぐうっ……! なんて、馬鹿力……!!」
力任せに振り下ろされたサーベルは、木刀で防ぐことができた。だが、あまりの威力と圧力に片膝を地面についてしまう。
周りの住民の反応を見るが、関わりたくないのだろうか、わざわざ遠回りをする人、目を反らして遠くに逃げる人が多かった。挙げ句の果てには、賭け事をしているやつまでいる。
(増援は、見込めないか……くそっ、幾らなんでも薄情過ぎるぜっ……!!)
「防いでくれてよかったぜ……まだまだ楽しめるんだからなぁ……!」
「この、戦闘凶め……!!」
木刀の峰に左腕を当て、全力で押し返す。チンピラはバランスを崩しながら距離を取ったが、石を拾い上げるとこちらの顔に向けて投げつけてきた。
「なんでもありかよっ!」
「はっ……使える物を使って何が悪いんだ?」
飛来する石に気を取られ、チンピラから意識をはずしてしまっていた。
その声が聞こえた時には、チンピラは目の前に立っており、俺の腹部に衝撃が走った。腹部からじわじわと痛みを感じ、木刀が手から落ちる。
「ごっ……!!」
「オラ、まだ行くぞ……耐えろよ? 俺を楽しませろや」
(一撃が異様に重い……場合によっては、攻撃も検討しないとな……)
木刀を落とした瞬間、再度腹部に膝蹴りが入る。衝撃が体を突き抜け、息が出来なくなる。
「かはっ……あぁっ……」
「おいおい、もう少し耐えてくれよ……なっ!」
「ぐうっ!? ……くっそ、ボコボコ好き放題蹴りやがって……」
そのまま数歩下がって後ずさると、顔に蹴りを入れられ、その場で地面に倒れる。
すぐに立ち上がったが、鼻から血が地面に垂れる。その血を拭うと、近くに転がっていた木刀を拾い、切っ先を向けた。
「へぇ……漸くやる気になった訳か?」
こちらに向けた指を曲げ、かかってこいと挑発するが、生憎そんなものに引っかかるほど馬鹿じゃない。チンピラをじっと見据える。
「……はぁ……イライラすんなぁ……!!」
「思い通りにならないと暴力って子供かお前は!?」
先程と同じように剣先を地面に擦らせながらこちらに向かい走ってくる。それに合わせて、走り出すと、錆びたサーベルが振り下ろされる。
それを肩で受け、肩口から痛みが走る。だが、必死で耐えて刀身を押さえる。
「がぁ、いてぇ……!! でも、耐えられない訳じゃない……!」
「あぁ……? なん……う゛っ……!?」
刀身を左手で押さえながら木刀を離し、握り拳を作るとそれを躊躇わずに腹部へ真っ直ぐ叩き込んだ。
叩き込む寸前には掴んでいたサーベルを離し、吹き飛ばしも兼ねる。チンピラの体は大きく後ろに吹っ飛び、近くの壁に激突した。
「痛っ……ちったぁこれで懲りたろ。それじゃあこれで……あっ、やべぇ……」
あまりに攻撃が激しかったので、こちらからは攻撃しないということがすっかり頭の中から抜けていた。
「あぁー……やっちまったな……これ両成敗になるんじゃ……」
頭を抱え、気を抜いてその場でしゃがみ込む。なんとでもなりそうな気がするが、今は頭を抱えることしかできなかった。
そうして頭を抱えていると、誰かの影がかかる。ここで思い出した。まだ戦闘は終了していないことを。
「あぐっ……! しまっ、た……!!」
後頭部に走る衝撃と、そこから鈍い痛みが広がっていく。
なんとか背後に気を向けると、腹の辺りを押さえたチンピラの男が立っていた。すぐに立とうとするが、視界がぐらつき、力が入らない。
そこに追撃のように腹部を蹴られ、腹から不快感が込み上げてくるが必死に堪えた。
「おいどうしたよ……正義の味方さんよぉ……!!」
サーベルが再度振り下ろされる。痛みに備えようと、目を瞑った瞬間だった。
「……またですか、ヴァン・セルピエルテ」
声が聞こえ、その後にすぐに人が倒れるような音が聞こえた。
目を開くと、そこにスーツ姿の男がいた。手についた汚れを払うかのように手を振るっている。これがギルドの職員なのだろう。
「危ないところでしたね、立てますか?」
こちらに目を向けると、そのまま無表情で手を差し出して来た。俺はその手を取り、立ち上がる。
「すみません、助かりました」
「いえ、こちらこそすみませんでした。もう少し早く辿り着けていればよかったのですが……他にも何人かが暴れていまして。君、その男を拘束してくれ」
全く表情を変えずに、そう言いながら部下に指示を出している。かなり上の役職なのだろう。
「さて……申し訳ないのですが、少し話を伺っても宜しいでしょうか……龍人さん」
……それでいて、油断できない人物でもありそうだ。