夜空。
日が暮れるまで馬車で、食事を済ませて寝ようということになった。
分かっていたが、馬車は歩きよりもとても速かった。ギリギリ門が閉じる時には間に合わなかったが、目的地には着いたのだから。
「それで、光牙たちはなんでここまで来たんだ? やっぱ冒険者になるためか?」
「そうだねぇ……うん、大体そんな感じ。ディーンは?」
「へへっ、俺もだ! 昔からの夢でさぁ……」
雛がすぐに寝てから、ディーンと火を見ながら話をした。内容は他愛もないことだったが、話している時のディーンの顔はとても楽しそうに見えた。
「そっかぁ……夢を叶えに来たんだね」
「まぁどこでもなれるんだけどな、冒険者には。登録云々が必要なだけで」
しかし、笑っている顔が時折陰ることがあった。……家のことだろうか。それを指摘することはしないが、少し気になる。こういうのは指摘してもまるで届かないだろう。
それに指摘して外れたら恥ずかしいだろ。
「そうだったのか。俺達はずっと田舎の方に住んでたから知らなかったよ。どこか大きな国に行かなきゃならないのかと」
「んー、そうでもないな。でもまぁ、デカイ国の方が依頼の数多いだろ?」
「そうなのか……? まぁいいや。所でさ、そこの国の情報って持ってないか? 何も知らないんだ俺達」
俺の言葉を聞くと、ディーンは苦笑いしながらも教えてくれた。
「よくそんなことで旅してこれたな……教えてやるから、ちゃんと聞いとけよ? あの国はな、カーサラルドって言ってな……どんなやつも実力で這い上がる国なんだ。種族なんて関係なし、気に入らなかったら喧嘩吹っ掛けるってならず者達の国……なんだけど、基本的には」
「基本的には? どういうこと?」
ならず者達の街なら仕方ないんじゃないのか? まず街として成り立つのが疑問なんだが。
「それがな、ギルドを作ったんだよ、王都エスプロジオーネが」
「……それは、大丈夫なのか? エスプロジオーネは国だろ?」
人間側の領土は、幾つかの国が連合を組んでいる状態ではなかったのか……? それに今更だが、何故国に王都なんて付くんだ。
「……あー……勘違いしてるから言っとくな、東西南北にある都市と、エスプロジオーネ合わせて一つの国なんだよ。国の名はトリュアイナ、そんなことも知らずに歩いてたのかよ……?」
「……すまん……」
ずっとエスプロジオーネってなんで王都なんだよ、お前は都じゃなくて国だろって突っ込んでたわ。
「気を付けろよ? で、話を戻すと、あそこはほんっ……とうに治安が悪かった。悪かったからギルド立てちゃおうとなったらしいな」
「らしいって……」
「人伝いだからなぁ、この辺はわかんねぇ。でも魔族との戦争では最前線に位置する場所にあるから資材とかも沢山らしい」
……話を聞いてて思った。とんでもないとこ来ちゃったなぁ……
そうやって頭を抱えていると、ディーンが唐突に声をかけた。
「……じゃあさ、俺からもいいか?」
「何? 話せることなら話すけど」
「光牙達の種族って、龍人なのか?」
……世界から音が消えたような気がした。焚き火はまだ燃えているのに、火花の音が聞こえない。その上、ディーンから目を離せない。
自然と目がディーンの方を向いてしまう。今の俺の顔は、恐怖に支配されているだろう。どうすればいいのか必死に頭を回していると、突然ディーンの顔が綻んだ。
「反応で大体分かったよ。でもびっくりしたなぁ……龍人って、こんな近くにいたんだな」
「……バレちゃったか……殺すの? 俺……いや、俺達のこと」
「それをやったら俺は化物以下だよ、龍人だからって殺す……とか、最悪だろうが」
……やっぱり、変わっている。普通の人なら、俺達が龍人と知るや否や、すぐに見る目が変わるなんてことは日常茶飯事なのに。
「同じような姿をしてて、互いに話ができるのに、なんで殺し合わなきゃいけないんだか……」
「……知らないものが怖いんだよ、人間は。いつ牙を剥くのか分からないから、殺してしまおうってなるのは極端過ぎると思うけどさ」
その場で横になり、夜空を眺める。それから星を眺めていると、自分達がちっぽけなものに感じ、その上で死んだらあそこに浮かぶのだろうなと感じた。
「俺達って、小さいよな……」
「は? あ、うーん……小さいんじゃないか?」
伝わってねぇなこれ。まぁ……いいか。