憂さ晴らし。
暗くなった道を、盗賊達を引き連れ歩く。今から俺はこの……十人程度を憂さ晴らしの為に殺そうとしている。
「……着いたよ。ここがあんたらの墓場だ」
「クソが……嘗めんじゃねぇ、こっちは十人いるんだ! 囲んで殴れば、それで終わりだろうが!」
「……その十人が傷を付けられるかが重要だろうが。頭の中蛆虫でも湧いてる?」
そう言うや否や、一人が雄叫びを上げて棍棒を振り上げながらこちらに向かい走り出した。それを見て刀を放り捨て、拳を構える。
「死ねやぁぁ、クソガキィィ!!」
「うるせぇよ、汚ねぇ口は閉じとけ」
棍棒が振り下ろされた瞬間、尾で棍棒を弾き、掌を顎に撃ち込んで口を無理矢理閉ざさせた。受けた男はよろめいて、その場に崩れ落ちそうになっている。口元に手を持っていくということは舌を噛んだのだろう。
「ぐぶっ……いってぇ、舌噛んだ」
「さっさと立たないのは失策だったな、無理にでも立たせてやろう」
尾で男の首を締め上げながら持ち上げ、無造作に腹部に炎を纏わせた拳を叩き込む。それだけで男は悲鳴を上げることもなく白目を向き、棍棒が男の手からこぼれ落ちた。
男の胸に手を当てると、心臓の鼓動は感じられなかった。
「……この程度で、死ぬのか。大体分かった。後九人。」
尾で男の死体を投げ捨て、他の盗賊達のところに向かう。
「お、お前ら! やっちまえぇ!! あいつだって生きてんだ、殴れば死ぬ筈だぁぁ!」
「「おぉぉぉぉ!!」」
暫定的なリーダーが指示を飛ばすが、恐怖に囚われたのか二人しか向かってこない。その二人にも恐怖の顔が見て取れる。先程の男よりは二人とも筋肉質な体をしているが……
「足りないっての」
二人の棍棒を掴んで受け止める。そこで他の盗賊達に目を向けると、一人が魔法を使い、既に大きな火球をこちらに放っていた。
避けようと棍棒を離すと、二人の男に手を掴まれ、その場に縫い付けられてしまった。
「へへっ、これなら動けねぇだろ!」
「……油断したか、でもな……食らうのはお前自身だ」
別の盗賊を、手を掴んだ盗賊に投げつけ、力が緩んだ途端振り切り、盗賊達を火球の軌道上に割り込ませる。
目論見通りになり、火球が盗賊達に着弾し、爆発する。爆発跡には、全身にひどい火傷を負った男達が二人が呻いていた。
「後7人。ひどいことするね、仲間でしょう?」
「てめぇがやったんだろうが……!」
先程火球を打った盗賊がそう言ってから魔法を唱えようとするが、足元の棍棒を蹴り上げながら拾い、投げつける。
投擲された棍棒は頭を砕き、脳髄を撒き散らして物言わぬ肉塊へと変化させた後、直ぐ様その隣にいた男に肉薄する。
「ひいっ……!?」
「後五人……!!」
恐怖に染まった男の顔を掴み、後頭部を全力で地面に叩きつけてから、足で踏み抜く。骨が砕けた感覚が、足から伝わってきた。
「やべぇぞ……あいつ……」
仲間がこんなに死んだ今になって、状況を把握したのか。遅すぎるだろう。
棍棒を拾い上げ、盗賊達に向かい走り出して、及び腰になっていたやつを一人叩きのめし、それを見て逃げようとしていたやつを一人炎で焼き尽くす。
そして次のやつに向かおうとした時に、棍棒が折れた。そこで盗賊の二人が飛びかかり、体が地面に倒される。
「このっ……化け物が!!」
「うおっ……」
抑えたうちの片方が拳を振るい、頬を打ち据えるが、軽すぎる。全く痛いとは思えなかった。もう一度拳を振るってきたが、それに合わせて拳に頭を叩き込んだ。拳の方からミシリと音がする。
「いっでぇぇ……!!」
「威力が足りなかったな、出直せっ!」
「ごぶっ……!」
腹部を蹴り上げて、もう一人もその後投げて空中で激突させる。そこに炎を放ち、黒焦げにする。
「……後、一人。あんたは何か装備が他の人と比べていいね……特に刀持ってるとことか」
残ったのは、指示を飛ばしていた男だろう。他の盗賊が腰に布を巻いただけの質素な格好だったが、こいつは革の鎧を身につけ、刀の切っ先をこちらに向けている。
ひどく刃こぼれしている刀の為、恐ろしくは感じないが。
「お前は……殺しを何とも思わないのか!?」
「はぁ?」
何言ってるんだこいつ。そう言いながら何度も斬りかかってくるし。その上刀を叩きつけるように使っている。これでは斬れやしないだろう。
「お前は……容赦してやろうとか思わないのかよ!?」
「あのさ、死にそうになったら命乞いとかさ……」
一度距離を取って紅蓮を拾い上げ、そのまま肉薄して腹部に深く突き刺す。男の血が盛大にかかったが、今は気にしない。
「ぐ……がぁ……」
「……調子が良すぎると思わない? それにこれは八つ当たりだよ。人の物を奪って生きてきたあんたと八つ当たりで殺した俺……お互いに誉められたもんじゃないね」
言いたいことを言い終えると、刀を引き抜く。再度血が噴き出し、男の体が倒れるが、血を避けるとその場で刀についた血を落とし、歩いて近くに水場はないかと探し始めた。
「白焔と違って……何とも、感じなかったな……」
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すぐに水場を見つけ、コートの血を洗い流そうとして気が付いた。コートについた血がない。血を勝手に洗い流す効果でもついているのだろうか。
「……便利だなぁ……やっぱ助けられてるよ、白焔に」
白焔の意思を持っていくなどと口にしていたが、白焔にはその命が尽きた後も助けられている。そう感じた。
「……でも、顔のは落とさないとな……仮面とか売ってたら買うかな……?」
しかし、そんな事を考える前にまずは顔を綺麗にせねば。よくよく考えたら、この水場も誰かが使うかもしれないのだし、別の場所、別の方法で洗い流した方がいいだろう。
「……水魔法かなぁ……」
正直、あまり上手く使える自信がない。火の魔法はうまく使えるのだが……それ以外は……
「よーし……雛起こすか。丁度夜も明けるし」
長い間戦っていた為、もう少しで夜も明ける時間帯になっていた。少しだけ、周りが目を凝らさずに見える程度には明るくなってきている。
「……イライラも少し消えたし、うん、戻ろうか」
そこで俺は踵を返し、雛がいるであろう場所へ戻り始めた。寝不足で少しふらついたが、それは気にする必要もないことだ。